プロレスを愛する台湾の新世代作家・林育徳 三沢光晴さんへの“特別な感情”
実際に会って話してみたいプロレスラー3人について語る
――10編の連作短編集ということで、さまざまな人生ドラマが描かれていました。人生ドラマを描こうとした理由とは。
「私はプロレスを通じて、たくさんの人と出会うことができました。野球などのメジャーなスポーツと違い、狭いコミュニティだからこそファンの交流が非常に深い。そして、プロレスファンの人生には、物事が上手くいかない時にプロレスを見て勇気をもらった、明日も頑張ろうという気持ちになれた、といった共通する体験があるように感じました。プロレスにパワーをもらっている人がたくさんいる。それが、プロレスをテーマに人生ドラマを書こうと思ったきっかけです」
――林先生自身がプロレスを通じて、学んだことはありますか。
「最後まで諦めてはいけないということです。プロレスラーは試合が始まれば、けがをしても、アクシデントがあっても、最後まで戦い抜かなければならない。人生も一緒で、いろんな山があり、谷もあり、逃げることができません。カッコ悪くても、最後までやり遂げなければならないということを学びました」
――今後、実際に会って話してみたいプロレスラーはいますか。3人教えてください。
「最初に名前をあげたいのは、獣神サンダー・ライガーさんです。80年代から活躍して、昨年引退しましたが、覆面レスラーで素顔を見せずに、何十年もファンに愛され続けたのは、たゆまぬ努力があったからこそだと思います。彼は自ら引退を決断しましたが、三沢さんのように、突然亡くなるケースもあります。できれば、プロレスラーのみなさんには人生をまっとうして、引退後も幸せな生活を送ってほしい。私は心から、そう願っています」
――2人目は。
「鈴木みのる選手です。私はヒールが好きで、ヒールがあってこそのプロレスと思っています。ずっと変わらず、己の道を貫いてきた鈴木選手は魅力的なプロレスラーだと感じていますし、個人的には、リング上とリング外のイメージに差があると思っていて、そのギャップにも惹かれました」
――最後の1人をお願いします。
「アイドルであり、女子プロレスラーである伊藤麻希選手です。東京女子プロレスでの試合、アメリカのAEWに参戦した際の試合を見て、素晴らしい選手だと思いました。彼女は25歳でまだ若い。これまで私が見てきたプロレスラーとは違う雰囲気があり、新世代のプロレスラー、未来がある選手の1人として注目しています」
――最後に、日本の読者、まだ「リングサイド」を読んだことがない方へメッセージを。
「本書の大きなテーマはプロレスですが、プロレスのことだけを書いた短編集ではないことを知っていただきたいです。人生に対する考え方、台湾の文化など、たくさんの要素が含まれているので、プロレスファン以外の方にも、是非、読んでいただきたいです」
□林育徳(リン・ユゥダー)、1988年、台湾・花蓮出身。花蓮高校卒業後、3つの大学を転々とし、6年かけて卒業。東華大学華文文学研究所(大学院)で、呉明益氏に師事。中学時代から詩作を中心に創作活動を展開し、全国学生文学賞、中央大学金筆賞、東華大学文学賞、花蓮文学賞、海洋文学賞など、受賞歴多数。「リングサイド」収録の短編「ばあちゃんのエメラルド」で、2016年に第18回台北文学賞小説部門大賞を受賞。「リングサイド」は大学院の卒業制作。現在も花蓮在住。
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