「芸能人やスポーツ選手はなぜ薬物に手を出すか」――精神科医が日本特有の理由を分析
2019年は芸能人やスポーツ選手が大麻や覚せい剤などの違法薬物事件で逮捕される例が相次いだ。「またか」と呆れると同時に、「なぜ芸能人やスポーツ選手にこんなに多いのか」と感じている向きも多いだろう。これまで芸能人を含む多くの薬物関連疾患の治療に当たってきた精神科の岩波明医師に、考えられる理由と薬物の本当の怖さを聞いた。
薬物犯罪事件を起こすお笑い芸人は少ない
2019年は芸能人やスポーツ選手が大麻や覚せい剤などの違法薬物事件で逮捕される例が相次いだ。「またか」と呆れると同時に、「なぜ芸能人やスポーツ選手にこんなに多いのか」と感じている向きも多いだろう。これまで芸能人を含む多くの薬物関連疾患の治療に当たってきた精神科の岩波明医師に、考えられる理由と薬物の本当の怖さを聞いた。
ビートルズなど海外の有名ミュージシャンが、LSDなどの薬物の力を借りて創作のインスピレーションを得てきたことはよく知られていて、日本でもミュージシャンやモデルの薬物犯罪事件が目立ちます。俳優もいますが、お笑い系の芸人は少ないですね。
お笑い系の芸人もネタ作りなど創作活動をしていますから薬物によってインスピレーションを得たい、と考える人がいても不思議ではありません。また、お笑い系の芸人たちも俳優のように舞台に立ち、人前に出て公演をする仕事ですので、薬物で不安を吹き飛ばし、“一発キメて”ハイになって舞台に立ちたい、と考えることもありえます。でも、実際にそういう人はあまりいないようです。それは、なぜか。そこに、日本の芸能界やスポーツ選手の薬物犯罪の特徴がみえてきます。
お笑い芸人が薬物にはしらない理由
違法薬物を継続的に使用するとなると、かなりの費用がかかります。そのため、お金を持っていそうな有名芸能人や一流スポーツ選手は売人の標的にされやすい、という面もあるでしょうが、ミュージシャンやモデルはファッション感覚で薬物に手を出す傾向が大きいようです。
つまり、少し前の時代であれば、タバコを“カッコイイ”、と思って始めたように、大麻のジョイント(紙巻きたばこ状の大麻)を吸ったり、クラブで踊りながらエクスタシーを使用することを”カッコイイ”と感じ、出演の前などに薬物でキメてステージに立つわけです。薬物はあの“レジェンド”のビートルズやザ・ローリング・ストーンズも経験した”カッコイイ“もの、という感覚もあるのかもしれません。
ミュージシャンやモデル、俳優は見てくれや雰囲気が”カッコイイ”ことが大切な職業ですので、“イケテいる”ことに敏感です。これが、彼らが違法薬物に手を出しやすい理由のひとつと考えられます。一方、お笑い系の芸人たちは面白いことが一番評価につながるわけで、薬物をやることを”カッコイイ”とはあまり感じないのかもしれません。
海外での活動が少ないことも理由
もうひとつは、海外で活動しているミュージシャンやモデル、一流スポーツ選手は、薬物に接する機会はひんぱんです。ご存じのように、大麻(マリファナ)など依存性の低いソフトドラッグの使用を合法化している国もありますから、そうした国では入手が容易です。ソフトドラッグを入口にして、依存性の強い覚せい剤やコカインなどのハードドラッグに手を出していくこともみられています。日本のミュージシャンやモデル、一流スポーツ選手が海外で活動していると、関係者から薬物を勧められることもあるでしょう。
しかし、言葉で楽しませるお笑い系の芸人は、ミュージシャンやモデルと比べて日本語の通じない海外で活動することはかなり少ないです。そのため、薬物が身の周りに少ないし、あるいは詳しい人が周りにあまり存在していないので、手を出すチャンスがなかなか訪れないように思えます。また、薬物が出回っているといわれるクラブなどに出入りする人も比較的少ないようです。