「究極の心理戦」制した那須川天心が“スーパーサイヤ人”で“トリケラトプス拳”を見せた理由
格闘技の大一番「RISE ELDORADO 2021」(2月28日、神奈川・横浜アリーナ)、メインイベントは那須川天心(TARGET/Cygames)が志朗(BeWELLキックボクシングジム)をフルマークの判定で退けた。年内には待望の武尊戦が模索され、来春にはボクシングの転向が既定路線とうわさされている天心に見え隠れするものは何か。さらに原口健飛VS白鳥大珠による「運命の対決」、そして寺山日葵VS田渕涼香による女子の注目カードなど、コロナ禍での横浜アリーナで熱い試合が繰り広げられた。(取材・文=“Show”大谷泰顕)
口をそろえて「考えていることは似ている」
格闘技の大一番「RISE ELDORADO 2021」(2月28日、神奈川・横浜アリーナ)、メインイベントは那須川天心(TARGET/Cygames)が志朗(BeWELLキックボクシングジム)をフルマークの判定で退けた。年内には待望の武尊戦が模索され、来春にはボクシングの転向が既定路線とうわさされている天心に見え隠れするものは何か。さらに原口健飛VS白鳥大珠による「運命の対決」、そして寺山日葵VS田渕涼香による女子の注目カードなど、コロナ禍での横浜アリーナで熱い試合が繰り広げられた。(取材・文=“Show”大谷泰顕)
全ては試合後に行われた天心の所作に表れていた。
“スーパーサイヤ人”のように金髪がかった髪で、怒髪天をつく雰囲気で勝利した天心は、いつものように“トリケラトプス拳”のポーズを披露してリングを降りたのである。一見すると、通常見慣れた場面だが、そこには数々の「前代未聞」をなんの変哲もなく実行してきた男の存在証明が見え隠れしていた。
それを説明する前に、試合を振り返ろう。
再戦となった天心VS志朗戦。初対戦は、2019年9月に行われた「RISE WORLD SERIES 2019 -58kg Tournament」の決勝で、天心が判定勝ちを収めている。打倒・天心に燃える志朗は、昨年11月に行われた「RISE DEAD OR ALIVE 2020 -55kg~那須川天心挑戦者決定トーナメント~」で優勝。リターンマッチにこぎつけたが、残念ながら志朗のリベンジは成功しなかった。
今回は55キロ契約で行われたが、天心は戦前、「55キロで試合をするのは3、4年ぶり」と話し、「どれだけのスピードが出せるのか楽しみ」とコメントしていた。
だが、結果的にはスピード勝負というよりパワーで押したように見えた場面が随所に見られた試合になった。
さらに言えば、緩急を自在に操りながら試合を展開していく緻密な攻防。主導権は常に天心にあった。
志朗からすれば、勝負に行きたくても行かせてもらえない試合展開になった末に、3分×3Rは終了。
3Rの途中、志朗のバックブローでヒジが当たり、顔をゆがめる天心がいて、よもやと一瞬よぎったものの、天心は流れを変えさせずにそのまま自身のペースを貫いた。
結局、ジャッジは3人がそれぞれ30対28という3ー0のフルマーク判定で天心に軍配が上がり、志朗から2度目の勝利。
「本当に究極の心理戦というか、ただ打ち合っても面白いけど、駆け引きで試合をして勝てたことをうれしく思う」
ニュアンスだけ書くと、そういった趣旨の言葉をリング上から残した天心。興味深いのは「究極の心理戦」という部分だったが、これは試合後の両者が、口をそろえて「考えていることは似ている」と話していたことに起因する。
「短かかったッスね。あっという間だったというか、凝縮された時間だった。(試合を)やりながら、一個入ったものはもう(次には)入らない。今回、自分のテーマは9分間、相手をだます。相手の引き出しを出して勝つでしたね」
「今回、パンチをちょっと遅く打った。間を空けて打った。あえて遅く打った。ゆっくり打って、早く打って。タイミングですね。パンチの打ち方、蹴りのスピード。距離感……」
そんな天心の話を耳にするうちに、天心が“神童”と呼ばれていたことを思い出した。
というのも今回、天心が重視したのはスピードでもパワーでもなくタイミングと距離の支配力だった。
敗れた志朗はこう試合を振り返る。「説明するのは難しいんですけど、すごく頭を使ってた」。そして、天心が「一個入ったものはもう(次には)入らない」と表現したように、志朗は「同じ攻撃が2回できない」と口にし、「打ち合いに行ける相手ではない」と脱帽した。まさに天心の“神童”たるゆえんだろう。