超売れっ子音楽Pの背中を押した2人の直木賞作家の言葉「あなたは小説を書く人だ」
サブスク時代に危機感「僕の少年時代はクレジット情報から興味の対象を広げてきた」
小説には音楽業界への危機感もにじませている。「かつてはなかにし礼さんや山口洋子さんのように、作詞家の視点から優れた業界小説を書いた方々がいらっしゃいました。レコード会社の専属作詞家だった五木寛之さんの『海峡物語』もそうだったように、名曲を生み出すことは物語の題材になり得るはずで、それが商業音楽の価値を高めてもきた。なのに今は少し止まっているように思え、僕が書き留めないと忘れられた歴史になってしまうと勝手に危惧しています(笑)。だから、復興したい。それに、今はサブスクリプションの時代になって、クレジット情報を知る機会が激減しました。僕の少年時代は、例えばマイケル・ジャクソンのプロデューサーはクインシー・ジョーンズと知って、そこから興味の対象を広げてきた訳ですが、今はそういうことも難しくなっているようです」。
今後の作家活動については「これで最後とは考えていません。こういう形で出たことに大変満足を覚える一方で、次も書きたいと思っています。随分、デビューの遅い新人作家ですけどもね」と笑う。うたかたの作家は人生100年時代で、どれだけの物語を紡いでくれるか。
□松尾潔(まつお・きよし)1968年1月4日、福岡市出身。早稲田大学卒。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。プロデューサー、ソングライターとして、SPEED、MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加、平井堅、CHEMISTRY等を成功に導き、EXILE、JUJUなど数多くのアーティストに提供した楽曲の累計セールス枚数は3000万枚を超す。2008年、EXILE「Ti Amo」で第50回日本レコード大賞「大賞」を、11年、JUJU「この夜を止めてよ」で第53回日本レコード大賞「優秀作品賞」を受賞するなど受賞歴多数。