超売れっ子音楽Pの背中を押した2人の直木賞作家の言葉「あなたは小説を書く人だ」
親しかった坪内祐三さん、藤田宜永さんの訃報「まず感想を聞きたかった」
そんな最中、昨年1月には交友関係があった評論家・エッセイストの坪内祐三さん、藤田さんを相次いで亡くした。「坪内さんとは知り合って20年近く、彼が主宰していた文芸誌『en-taxi』にエッセイを寄稿したり、共通の知人であるサックスプレーヤー菊地成孔さんのライブを一緒に楽しんだこともありました。一昨年秋、あるパーティーで会った際に『最近、(小説を)書いているんじゃないの。どんどん書きなよ』と嬉しい励ましをいただきました。ところが自宅に編集担当者を招いて新年会を催している時に訃報が届いて。それから半月すると、今度は藤田さんが亡くなってしまった。白石さんと並んでまず感想を聞きたかったおふたりだったんですが……。坪内さんの葬儀では、最初に引き合わせてくれたライターの一志治夫さんとも会い、こういった方々に対して胸を張って『今この小説を書いている』と言えるようにならなければと、身が引き締まりましたね」
さらに昨春、コロナ禍による緊急事態宣言下に入り、時間ができた。「ステイホームの期間、昔からやろうと思っていたことにチャレンジした方は沢山いるでしょう。僕の場合は『永遠の課題』を提出できたというわけです」。
物語のラストは東日本大震災、ドラマプロデューサーとの直接対決がヤマ場だ。「震災では、音楽をやっている人間の無力さを思い知りました。僕自身は若い頃、ランチを抜いてもレコードを買いたい人間でしたけど、大抵の人はそうではない。音楽はエッセンシャルなものではないんだと。ポップミュージックの『ポップ』ってはかないなあ、うたかただなあ、と落胆もしました。その一方で、音楽に救われたという話を聞きもし、自信をつけたり、失ったりの繰り返しでした。でも、エンタメの世界って、震災やコロナが突きつけなくても、絶えず『終わり』と隣り合わせなんです。アーティストが不倫した、交通事故を起こしたで、活動が止まってしまう。ラストは明るい読後感に向かうように修正しました」。
音楽界では、筒美京平さんにも影響を受けた。「僕は業界的に言うと“筒美チルドレン”の1人。エンターテインメントを作るとはどういうことか、世の中に対してどういう意味を持つのか、筒美さんから学んだことを形にもしたかった。最近、僕が仕事を始めた頃の先輩方が信じられないペースで旅立たれています。ただ、感じるのは、人は亡くなっても、作品は残るということです」。
改めて、売れっ子プロデューサーが小説を書いた意味を聞いてみた。「なんとなくわかっているんですけども、きちんとした言葉を与えられずにいました。書き終わったら、うまいことを言えるかと思っていたんですけど、やっぱり一言二言では言えない。でも、三浦しをんさんが本の帯に素敵なお言葉を寄せてくださいました。『人と人を結びつけ、自分以外の誰かに深く思いをはせるために、創作物はあるのだ』と。これはジャンルを超えた言葉ですよね。実際、僕は音楽の世界で、ここには居ない誰かに届けばいいと、手探りでやってきました。自分と同じような感性を持った人が1人か2人ぐらいいるだろうと。結果として、ミリオンセラーになった曲もあるし、そうでないものもあるということだと思います」。