ファンサービスでも猪木はチャンピオン 昭和のバレンタインデーで目撃した出来事【連載vol.28】
2月14日のバレンタインデーに、女性が男性にチョコレートを贈るという習慣が始まったのはいつ頃からだろうか。
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2月14日のバレンタインデーに、女性が男性にチョコレートを贈るという習慣が始まったのはいつ頃からだろうか。
当初は浸透せず、女性ファンが好きな選手にチョコをプレゼントしても「バレンタインって何?」と言われたそうだ。「グレック・バレンタイン? ジョニー・バレンタイン? どっち?」と、スター選手の返事にガッカリしたというファンもいる。
説明してチョコを渡しても「俺、和風の方がいいんだけどな。おまんじゅうとか羊かんとか」…甘いものをあげる日ではないのだが。
1978年、ジュニア王者として凱旋後、中高生を中心とした若い女性ファンが多かった藤波辰巳(当時)は、たくさんのチョコレートをもらってご満悦。かわいい包装紙に包まれていたり、リボンがかけてあったり。バレンタインデー前後の試合会場では、持ちきれないほどのチョコレートをプレゼントされていた。
アントニオ猪木が「あれは何だ? 藤波、誕生日じゃないだろ」と若手選手に聞いた。
「バレンタインのチョコです」
「?」
「女性が、好きな男性にチョコをプレゼントするそうです」
「何でチョコなんだ」
「分かりません」
「ふーん」
しばしその様子を見ていた猪木だが「俺には来ないぞ」と、いささかむくれてしまった。
なじみの女性ファンがそれを聞きつけたが「もう藤波さんにあげちゃったから、猪木さんの分はない」と思案顔。今のようにコンビニもない時代。しかも地方の会場は駅から遠かった上、付近にしゃれた店もない。それでも近くの「よろず屋」で、当時20円程度だったライスチョコを買って来た。
「プレゼントにしては、どうかな」と悩んだそうだが、思い切って猪木に差し出したところ「おお! 俺にもチョコが来たぞ!」と破顔一笑。「ありがとー! フフッ」と、その場で食べたという。
「食べた」というよりサービス精神旺盛な猪木は「食べて見せた」のだろう。ファンは感激し、何年経ってもその光景を忘れられないそうだ。
猪木はできる限りサインにも気軽に応じていた。ただ、名前の上に書く「闘魂」は画数が多く時間がかかるからか「アントニオ猪木」だけのこともあった。「闘魂、って入れて下さい」と頼まれると「えー、面倒くさいんだよなぁ…」と苦笑いしながらも、ちゃんと書き込んでいた。
リング上の猪木は鬼の形相で怖いイメージもあったが、リング外では気さくで優しい。ファンサービスには目を見張るものがあった。チョコを目の前で食べて見せたことが、すべてを物語る。
猪木も気になったバレンタインデーのチョコレート。「やっぱり数は気になるよ。あいつはいくつもらったのかな、とか」と、ライバルのチョコの数を気にする選手も多い。
過去にW-1の試合会場で、バレンタインチョコの手渡し企画があり、一番多くもらった征矢学は「少なかったらどうしよう、とドキドキしていたけど、やっぱりうれしいですね。大事に少しづつ食べますよ」と大喜びだった。
今はコロナ禍でプレゼントの手渡しも禁止されているから、バレンタインチョコを渡す光景は見られないだろうが、受付に差し入れの箱を設置している団体もある。
今年のバレンタインデー。人気選手はいくつもらうのだろうか。