綾野剛が肉を焼き、舘ひろしは背中で語った…藤井監督が明かす「ヤクザと家族」撮影秘話

映画「ヤクザと映画」【写真:(C)2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会】
映画「ヤクザと映画」【写真:(C)2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会】

チンピラ役の綾野剛の魅力を語る「一つ一つの芝居にこだわり、強度を上げていく人」

 撮影は19年11月初旬から約1か月、静岡県内でロケ。映画では3つの時代が舞台になっているが、短い撮影期間でも順撮りにこだわった。綾野は1999年ではチンピラ、05年では背中の入れ墨が入った全裸を披露、19年では老けメークと肉体改造で男の哀愁を見せ、年齢の変化を見せた。綾野の魅力は何か。「撮影前は感覚や雰囲気でお芝居をされている人かなと思ったんですけども、実際はアスリートみたいな人。一つ一つの芝居にこだわり、強度を上げていく人でした」と語る。

「新聞記者」の撮影では、「ストレス性高体温症」という大人の知恵熱のようなものを患い、しんどかったそうだが、本作ではストレスを感じることはなかったという。「剛さんが焼き肉屋にみんなを連れてってくれたんです。店でも、みんなに肉を焼いてくれたり、撮影以外でも、座長ぶりも発揮してくれて、本当にかっこ良かったですね。剛さんの方が少し年上なんですが、兄弟みたいな関係性が作れた。今、出会ってよかったな、と本当に思いました」と振り返る。

 また、大先輩である舘にも臆することなく演出ができた。「最初はもちろん緊張したんですけども、舘さんは一つ一つの言葉や所作にすごく感情、自分の思いを持ってくださって、何か言いづらいセリフがあっても、勝手にはしないで、必ず相談してくれるんです。撮影の合間も、20代から俳優として、どうやってきたか、舘さんの時代のヤクザのありようなども教えてくれました。でも、一番教えていただいたのは、言葉ではなく、背中から。これだけの大スターなのに、末端のスタッフにもちゃんとあいさつしてくれ、現場に対しての敬意がある。自分もそういう人でありたいと思いました」。

 綾野と恋人役の尾野真千子のシーンでは、「カット」の声をためらう時もあった。「2人しか出ない雰囲気というものがあって、やり取りの後半部分はアドリブ。セリフ自体はもう終わっているんですけども、その後も2人が芝居を続けてくれるから、声がかけられなかった。この物語は男同士のドラマと見られがちですけども、りんとした尾野さん、肝っ玉母さんぶりを発揮してくれた寺島しのぶさんの女優陣には随分助けられました。ほかにも、寺島さんの息子役の磯村勇斗君の肉体改造への執念にも驚かされました。最初に会った時はやせていたんですけども、毎日卵を食べ、何杯もご飯を食べて、ムキムキになってきたんです。俳優部はみなさん、素晴らしかった」と絶賛する。

 既に、米倉涼子主演のNetflixオリジナルドラマ「新聞記者」(21年配信予定)を撮り終えた。「最初に話を頂いた時は『またやるのか』という感じもありましたけども(笑)、映画版でできなかったものを出せた気がします。米倉さんと過ごした2、3か月は楽しかったですし、充実していましたね。このドラマ版が俺の『新聞記者』だ、と思っています。面白いですよ」。今後は原作もの、リメークも控えている。「同じチームでブレずに作っていきたいと思っています。攻めた作品をしっかり作り続けたい。コロナ禍が収まったら、海外でも映画を撮ってみたい、と思っています」。

□藤井道人(ふじい・みちひと)1986年8月14日、東京都出身。日本大学芸術学部映画学科卒業。大学卒業後、2010年に映像集団「BABEL LABEL」を設立。14年、伊坂幸太郎原作「オー!ファーザー」でデビュー。19年に公開された「新聞記者」は日本アカデミー賞で作品賞を含む6部門受賞をはじめ、映画賞を多数受賞。主な作品は「幻肢」「TOKYOCITYGIRL」「全員、片思い嘘つきの恋」「光と血」「悪魔」「青の帰り道」「デイアンドナイト」「宇宙でいちばんあかるい屋根」。

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