【Producers TODAY】フジ「知ってるワイフ」プロデューサー 「男女のしんどさを真っ向から描きたかった」
男性の考え方、女性の考え方の分断がすごく大きくなっている
――ドラマの大テーマは夫婦のパートナーシップ。もともと関心があったのですか?
狩野「SNSなどテクノロジーの発展で便利になってきている時代だからこそ、今一度夫婦に限らず自分の隣にいる人、最も身近な集合体の一つである家族とか、大切な人って自分にとってどういうことなのかを描いてみてもいいんじゃないかと思いました。期せずしてコロナという状況になって、さらにその思いを強くしています」
貸川「パートナーシップは男女や夫婦に限らず、というのはありますが、とくに今、男性の考え方、女性の考え方みたいなところの分断がすごく大きくなっている気がします。別に分断したくてしているわけではないし、一緒に生きていこうとしているのに、お互いを責めるだけでは仕方がない。では、どうすれば変えていけるのか。相手に変わってほしかったら自分も変わる、自分を顧みることでもあるし、そういうテーマはすごく興味深い。男女のディスコミュニケーションもそもそもどこからスタートしているんだろう、と考えることがけっこうあったので、パートナーシップというドラマのテーマとフィットしたんだと思います」
――「知ってるワイフ」は第1話から夫婦の「分断」がストレートに描かれています。
貸川「うまく描かれ過ぎちゃってリアルさが見ててつらいかもしれないですね(笑)。どっちにも言い分があって、どっちも必死にやっているんだ、ということを伝えたいな、と。それが伝わることによって2話以降に自身を顧みる流れに効いてくるので、1話はそこをかなり意識しました。オリジナルの韓国版『知ってるワイフ』はけっこうコミカルな描写が多くて、ときに笑って見られるところもあるんですが、私たちの『知ってるワイフ』ではしんどさを真っ向から描いた方がいいと思いました」
狩野「脚本の橋部さんと貸川さんは女性で、私は男性。ドラマに入る前、互いの家庭や結婚生活についてけっこうあけすけに話し合いましたよね。電子レンジが“チーン!”と鳴る前に止めるシーンを1話に入れ込みましたが、私も夜中に寝ている奥さんを起こさないよう、実際にやったことがあります(笑)」
――育児や家事など性別役割分業の固定化、それによる不公平感に関する議論が日本でも活発化していますが、そのあたりは意識しましたか?
狩野「そういう様相があるのは理解していますが、あまり制作側の主義主張を出したいとは思っていません。まずはエンタメとして楽しんでいただけるドラマをお届けできたらなと思っています。ただこのドラマを見て考えたり、何か行動を変えたりするきっかけになったらうれしいとは思っていますが」
貸川「ジェンダー観や性別役割分業の問題は個人的に興味のあるテーマです。ただ、日本はそういった問題を解決する以前の、一部の人には自覚すらされていない状況なのかな、という感じがしていて。まずは今起きている現象をリアルに描写してそこから何を感じ取るべきなのか、その先に問題解決の道筋が見えてくるという方向を目指しました」
韓国版と日本版、設定の違いの面白さ。背景に文化的な脈絡
――ところで、韓国版と日本版を見比べると設定に違いがあります。広瀬アリスさんはファミレス店員を演じていますが、オリジナルはエステティシャンです。
貸川「美容大国の韓国よりも、日本ではエステティシャンという仕事は少し特殊な印象。手に職を持っているという部分も強調されます。日本版では子を持つ母親の時間帯など限られた選択肢の中でできる仕事ということで、身近なファミレスを選択しました」
――タイムスリップのきっかけとなる奇妙な男性と元春の語らいのシーンにも違いがあります。
狩野「オリジナルは地下鉄の中です。日本版の方では、生瀬さん演じる男性は公園でひとりでテーブルゲームをやっていてブツブツ言っているといった非日常性の中にいる人、どこか夢の国から来た不思議な人……というふうに見えないかな、と。実は毎回違うテーブルゲームをやっていて、それがその“話”にうっすらかかっています。2話だとタイムスリップにからめて人生ゲームをやっていたり。3話、4話でどんなゲームをやっているのかもチェックしてみていただけると面白いかもしれません。他にもオリジナルではチゲを食べるシーンが日本版ではカツ丼になっていたりします」
――文化的な脈絡に沿って設定が変わっているところが興味深いです。日本では毎週1話放送ですが、韓国は週2話。放送回数の違いはドラマ制作にどんな影響を与えていますか?
貸川「すごく影響すると思います。単純に尺が全然違うというのはありますね」
狩野「韓国では週に1話と2話があるとすると、2話の方が引っ張りが強いんだけど、1話は変なところで切れて終わっていたりしているように見えました」
貸川「翌日すぐ放送するから、というのがあるからでしょうね。他の韓国ドラマを見ていても物語の始まりやキャラクターのバックグラウンドがすごく丁寧に描かれている。別の言い方をすればストーリーとしてはすごくスロースタート。やはりそれは水木とか2話続けてみて、それで初めて最初のスタートという見方をする視聴者が多いからかな、という気がします。日本でキャラクター紹介だけの第1話を作っちゃうと『何も起きなかった。なんの話?』みたいにとらえられてしまいがちなので、そこは全然違いますね」
狩野「たしか原作でタイムスリップするのは3話、4話くらい。だいぶたってから飛ぶから。そういう違いがあるから、リメークするにあたりずいぶん物語の進行について考えました」
貸川「ただ、そこは日本と韓国それぞれにメリット、デメリットがある。韓国ドラマは細かいところまできっちり描くからキャラクターに愛着が持てるし、だからこそロングシリーズの見ごたえが生まれるんだと思います」