何事もプロレス流 昭和の新日本プロレス道場でヤングライオンが鏡開き
地方によって異なるが、鏡開きは一般的には1月11日。お正月に年神様にお供えした鏡餅を食べ、一年間の無病息災と良運を願う行事である。「割る」という言葉を使わないのは、縁起が悪いからで「開き」は末広がりで縁起が良いので、お正月にピッタリと、鏡開きという言い方をする。
ある年の1月11日 道場にヤングライオンが集まり…
地方によって異なるが、鏡開きは一般的には1月11日。お正月に年神様にお供えした鏡餅を食べ、一年間の無病息災と良運を願う行事である。「割る」という言葉を使わないのは、縁起が悪いからで「開き」は末広がりで縁起が良いので、お正月にピッタリと、鏡開きという言い方をする。(柴田惣一)
昭和の新日本プロレス道場。ある年の1月11日。先輩たちは不在で、ヤングライオンのみだった。怖い先輩がいないから、みんなのんびり。居間にあった、当時では驚くほど大きな画面のTVで、今日は鏡開きだというニュースを放送していた。
「あ! 今日は鏡開きだよ。やらなくちゃ」。誰ともなく言い始めた。「伝統行事は大事にしないとね」。意外と縁起を担ぐ選手も多いので、みんなノリノリ。
大きな鏡餅はコチコチ。「どうやって割る?」と相談し始めたヤングライオンたち。
手刀でエイッ! ところが割れず。痛ってー!
拳でパンチ! ドン! これでも割れず。痛いよ!
頭突きだ! ゴツン! うわーメマイがした! ビクともしない鏡餅。
蹴ろう! と言い出した選手がいたが「食べ物を蹴るのはダメ」と、すぐさま反対意見が出た。
そうか、食べ物を蹴るのはなぁ……。みな一斉に思案に暮れた。
その後、カンカンガクガクの意見が出たが、議論が出尽くし、結果的に下に新聞紙を敷いて上から落とす方法が採用された。何度も叩きつけられる鏡餅。
やっと割れた。おお~!やったぜ! 得も知れぬ一体感に包まれた。
木槌や金槌などの道具を使うという発想はなかったようだ。鍛錬された己の肉体で何とかしようと考えたのは、プロレスラーらしい発想だ。
その後、大鍋で野菜や鶏肉と一緒に餅を煮た。いい匂い。
「餅ちゃんこだ!」。醤油ベースのスープ。「うん、うまい」とみんな笑顔だ。苦労して開いた鏡餅のおいしさは、ひとしおだ。
「お雑煮とどう違うの?」と誰かが口にした。え? そう言われれば……一瞬、全員の箸が止まった。
「いいんだよ!餅ちゃんこだ!」。道場で作るから「お雑煮」ではなく「餅ちゃんこ」という結論に達した。
リングではみんなライバルだが、厳しい練習をし、寝食を共にしていた大切な仲間。一致団結する時の力はものすごかった。
「あ~うまかった」。お腹いっぱいになり満足気な顔は、みんな幸せそうだった。
毎年この時期に思い出す、セピア色の思い出。
この日、道場にいたのは平田淳二(のちの淳嗣)や高田伸彦(現・延彦)など、のちに大活躍するスター候補生がそろっていた。みなさん、会話の主を想像してみては?