バブル後期時代を思い出す「クリスマス・エクスプレスCM」“待望論”がやまない理由

まもなくクリスマス。電球が輝くクリスマスツリーやイルミネーションできらびやかさを増した街を歩くと、どこからともなく山下達郎のロングヒット曲「クリスマス・イブ」が聞こえてくる。多くの人はこの曲を聞いてJR東海の懐かしのCM「クリスマス・エクスプレス」シリーズを思い出すのではないだろうか。このCMシリーズによってクリスマスは家族ではなく恋人と過ごす特別な日といった考え方が若者の間で広まるなど社会現象を巻き起こしたことでも知られている。ところで今、このCMの復活を望む声が上がっている。いったいどういうわけなのか。

「クリスマス・エクスプレス」CMシリーズの印象も…(写真はイメージ)【写真:写真AC】
「クリスマス・エクスプレス」CMシリーズの印象も…(写真はイメージ)【写真:写真AC】

CMシリーズは1992年を最後にいったん終了 2000年に8年ぶり放映 JR東海「現時点で予定なし」

 まもなくクリスマス。電球が輝くクリスマスツリーやイルミネーションできらびやかさを増した街を歩くと、どこからともなく山下達郎のロングヒット曲「クリスマス・イブ」が聞こえてくる。多くの人はこの曲を聞いてJR東海の懐かしのCM「クリスマス・エクスプレス」シリーズを思い出すのではないだろうか。このCMシリーズによってクリスマスは家族ではなく恋人と過ごす特別な日といった考え方が若者の間で広まるなど社会現象を巻き起こしたことでも知られている。ところで今、このCMの復活を望む声が上がっている。いったいどういうわけなのか。

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 理由を探る前にまず、同シリーズを順番に振り返ってみよう。事実上の第1作となる「ホームタウン・エクスプレスX’mas編」が放映されたのは1988年。新幹線のホームで彼の帰りを待つ着飾った女の子。新幹線から乗客が降り、車両が走り去った後のホームには誰もいない。泣きそうな気持ちになっていると、クリスマスプレゼントが入った箱で顔を隠しながらムーンウォークで現れる彼。女の子の目からはこらえきれずに涙があふれ出す……。10代女性の強がりと繊細な感情を見事に演じたのは、当時15歳の新人女優、深津絵里。最後に流れる「帰ってくるあなたが最高のプレゼント」というキャッチフレーズが恋人たちの聖夜を盛り上げたことでも強い印象を残した。

 このCMは大反響を呼び、翌89年からは「クリスマス・エクスプレス」シリーズが本格的にスタートする。クリスマスイブに新幹線で帰ってくる彼に会うため駅構内を急いで駆ける彼女。改札口が見えるところまで着くとちょうど彼が改札口から出てきた。彼女はあわてて柱の陰に隠れ彼を待ちぶせする、というほほ笑ましいストーリーだった。いたずら心いっぱいの彼女役を演じたのは当時17歳の牧瀬里穂。初々しい笑顔と茶目っ気に魅了された視聴者も多いはずだ。このようなスタイルのCMは当時は斬新で、「ストーリーコマーシャル」という新しい潮流をメディアの世界にもたらした。新幹線は、乗車して移動することで人と人が“つながる”ことを伝えるメディアとなったのだ。

 89年といえば元号が「昭和」から「平成」に変わる節目を迎え、90年代前半まで続くバブル景気の真っただ中にあった頃。翌90年のストーリーはこうだ。聖夜の喧騒のなか、彼女が1人で自宅に帰るとドアには絆創膏で貼られたメモが。彼女は大喜びで彼が待つ場所へと駆けていく。少し大人っぽくなった彼女を演じたのはRINA(高橋理奈)だった。

 そして91年バージョン。新幹線から降りてきた乗客が次々と家族との再会を果たすなか、改札口近くでクリスマスプレゼントを抱えた彼女は彼が見つからずだんだん悲しげな表情になっていく……。彼女役を演じた溝渕美保の大きなイヤリングのきらめきの輪の中に彼の笑顔がおぼろげに浮かび上がるという構図の面白さが秀逸だった。

 92年バージョンはというと、クリスマスプレゼントを抱えた彼女が新幹線に飛び乗り彼に会いに行く。だが、到着したホームでは彼の姿が見えない。吉本多香美が「チーズ」とささやきながら彼に会ったときに見せる飛びっきりの笑顔を練習する姿がかわいらしくもあり、切なくもあった。CMソング「クリスマス・イブ」を歌う山下達郎が通行人役で出演していたことも語り草となっている。女性から男性に会いに行くという同年バージョンのストーリー展開は、恋愛における女性の能動性と時代の変化を感じさせた。85年に制定、翌86年に施行された男女雇用機会均等法は努力義務だけだったため当時は「ザル法」と呼ばれたが、女性の社会進出をサポートする始まりとして社会の雰囲気を変えていく。91年には育児休業法が制定され男女問わず育児休暇が取得できるようになった。

 この92年を最後にシリーズはいったん休止となるが、2000年には20世紀最後の記念作として8年ぶりに新作がオンエアされた。クリスマスイブの夜、彼から携帯電話で仕事が終わらない旨の連絡が。「うそでしょ?」。星野真里演じる彼女はちゅうちょなく新幹線に飛び乗り自分から彼に会いにいく。このCMには過去の作品に出演した深津絵里と牧瀬里穂、並びに2人が出演した懐かしのCM映像が差しはさまれていたことでも話題を呼んだ。

 同年のCMの中で印象的なアイテムは携帯電話(以下、ケータイ)である。実は恋愛とケータイ利用は密接な関係にあり、恋人と交際をしている人はケータイ代が高いという調査研究がある(※1)。つまりケータイがないと恋愛ができない、という若者文化の到来を告げた1つがこのCMだったというわけだ。ケータイが通じればすれ違うことはない。待ち合わせの時間と場所をめぐるドラマ性はこうして消えていった。モバイルの普及は恋人たちに時間制限なく常時つながるという行動の変化をもたらしたのだった(※2)。

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