ビートルズの遺伝子を持った名曲集を30年かけて完成させた洋楽ディレクターの執念とポップ愛 (前編)

ビートルズのデビューアルバムはうさぎ年(1963年)にリリースされた
ビートルズのデビューアルバムはうさぎ年(1963年)にリリースされた

ビリー・ジョエルから選ばれた意外なビートリー・ナンバー

――意外だったのはビリー・ジョエルです。数あるヒット曲を押しのけて「ローラ」が収録されています。

25歳人気女優のクルマ愛…免許はマニュアル取得、愛車はSUV(JAF Mate Onlineへ)

「たぶんコンピレーションCDに『ローラ』が収録されたのは初めてなんじゃないですかね。あえてこの曲を入れようってやつなんて誰もいないはず(笑)。ビリーは、いい曲がたくさんありますからね。ビリーにとって『ナイロン・カーテン』というアルバムは特別というか、自分にとっての『サージェント・ペパーズ』だと本人も語っています。特に『ローラ』は、初めて聞いたとき、まるでジョンが乗り移ったかのような声でびっくりしました。ドラムもリンゴっぽいし、コーラスもいい。だから企画が実現したら絶対収録したいと思っていた曲なんです。ビリーはソニー・ミュージックのアーティストの中でも、なかなかコンピに許諾が下りないので、よくぞオッケーしてくれたものだと、許諾が下りた時は本当に嬉しかったですね」

――きっと本国の担当も「ローラ?」って驚いたかもしれませんね(笑)。そしてオアシスも収録されています。これもポイントかと。

「オアシスも許諾を取るのがとても難しいアーティストなのでこれもほんと奇跡の収録なんです。オアシスのファンの皆さんから彼らへの想いを以前に募集したことがあって、その時に『僕らの世代のビートルズ』というフレーズがあったんですね。なるほど~と。オアシスもなんだかんだ生意気なことを言っても、ビートルズに対しての愛情は隠そうとしてなかったし、確実にBeatleDNAを受け継いでいる。そんなオアシスの代表曲、これは締めしかないなと思ってディスク2の最後に入れました。」

大変だった楽曲の許諾手続き

――個人で版権を持っているアーティストへの許諾はどうやって進めていったのですか?

「これが本当に大変だったんです。90年代のアーティストは当時のレコード会社との権利が切れているものが多かったので、それを探す作業にとにかく時間がかかって。でも便利な世の中になったものです。今はSNSがあって、フェイスブックのメッセンジャーで人名とかバンド名で探してみると、そのアーティストに辿り着くことができたり、英語が不自由でもグーグル翻訳を駆使してやりとりをすることもできたりと。さらにその人が知り合いのバンドを紹介してくれて、どんどん繋がっていきました。10年前ではこのコンピはあり得なかったかもしれないですね。」

――許諾を取るために、ラブレターやファンレターみたいな熱意を込めたメッセージも送ったとお聞きしましたが。

「『私はこの企画のために30年間費やしてます。何とかお願い!』みたいな泣き落としですね(笑)。面白かったのは、ソニーミュージック楽曲の使用許諾を申請したとき、イギリスの担当の人に『こういう企画でこの曲を使用させてほしい』というリクエストをしたら、ちょっと鼻で笑われたようなメールが戻ってきて、『ビートルズのDNAって一体何? この曲のどこがビートルズっぽいの?』って。彼らにとってのビートルズ的なものは、我々とは違うんでしょうね。それで『日本人は英語はわからないけど、一生懸命聞くんだよ、独特の感覚があって、こういう、ああいう部分でビートルズ的なものを感じたり・・・』なんて、いちいち説明して、渋々OKしてくれましたけどね(笑)。きっと彼らが感じるビートルズ的な部分は、歌詞の世界やサウンドよりも、生き方とか、存在感とか、英国ならではの価値観みたいなものがあるんでしょうね。BeatleDNAっていってもアメリカ、イギリス、日本でもどの国でも違う。それぞれ琴線に触れるものが違うんですよね」

 後編では、30年越しで完成させた企画盤の裏話や、国内のコンピレーションCD事情について紹介します。

□白木哲也(しろき・てつや)1964年生まれ。(株)ソニー・ミュージックレーベルズ ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル ゼネラル・マネージャー。これまで制作を担当してきたアーティストは、ブルース・スプリングスティーン、ボブ・ディラン、ジャクソン・ブラウン、ピンク・フロイド、エアロスミス、ビリー・ジョエル、デヴィッド・ボウイ、マライア・キャリーなど。一連のカタログ紙ジャケ制作などに携わる。また、ジェフ・リンズELO、エリック・カルメンなどとともに、ヨーコ・オノ再評価プロジェクトや、正真正銘の“ビートルズの遺伝子”、ショーン・レノン(ジョンとヨーコの息子)のクレイプール・レノン・デリリウム、ジェイムス・マッカートニー(ポールの息子)、ダニー・ハリスン(ジョージの息子)の『ジョージ・フェスト』などの制作担当として四半世紀洋楽に携わる。

『Power To The Pop』
2019年11月27日発売。
特設サイト http://www.110107.com/BEATLEDNA
Twitter https://twitter.com/BeatleDNA_JP
Facebook https://www.facebook.com/BeatleDNA/

次のページへ (3/3) 収録曲ライトニング・シーズの「スリー・ライオンズ」
1 2 3
あなたの“気になる”を教えてください