絵と詩と音楽とおしゃべりの融和で「見えないものを見る想像力」 大宮エリーが紡ぐ表現法

映画監督や画家、作家など多彩な顔を持つ大宮エリーさん(44)が、絵と詩で綴る詩集を基に、歌やピアノ、ギターなどの音楽を織り交ぜた朗読会を展開している。親交のあるアーティスト・お笑い芸人をゲストにおしゃべりをまじえ、アットホームな感覚でほっこりとした時間を過ごすことのできる独自の世界観を醸し出す。その核心は「みんなの心にそれぞれの絵を描いてもらい、みんなで行間を読んで、色を付けていく」というもの。表現者として新たな道を切り開く大宮さんに、創作活動への思いを聞いた。

新たな表現活動に取り組む大宮エリーさん
新たな表現活動に取り組む大宮エリーさん

『音楽と朗読とおしゃべりの虹のくじら』展開 「誰をたまに思い出すの?」「自分を大事にするということ」…谷川俊太郎、立川志の輔から影響受けた“耳で聞く短編映画”

 映画監督や画家、作家など多彩な顔を持つ大宮エリーさん(44)が、絵と詩で綴る詩集を基に、歌やピアノ、ギターなどの音楽を織り交ぜた朗読会を展開している。親交のあるアーティスト・お笑い芸人をゲストにおしゃべりをまじえ、アットホームな感覚でほっこりとした時間を過ごすことのできる独自の世界観を醸し出す。その核心は「みんなの心にそれぞれの絵を描いてもらい、みんなで行間を読んで、色を付けていく」というもの。表現者として新たな道を切り開く大宮さんに、創作活動への思いを聞いた。

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〈特別イベント「大宮エリーの音楽と朗読とおしゃべりの虹のくじら」は、東京・赤坂の草月ホールで11月から全4回の開催。ライブペインティングの絵画と書き下ろしの詩で構成し、2月に発表した詩集「虹のくじら」(美術出版社)の世界観がコンセプトだ。11月公演では、原田郁子(クラムボン)、コトリンゴ、小沢一敬(スピードワゴン)が出演し、12月2日は持田香織(Every Little Thing)、おおはた雄一、同4日はキヨサク(UKULELE GYPSY・MONGOL800)をゲストに迎える〉

――今回のイベントにつながった詩集「虹のくじら」を制作したきっかけは。

「ずっと朗読の本をつくりたいと思っていました。なぜかというと、いまの時代はなんでも便利になって、VR(仮想現実)などの登場で、実際に行かなくても見えてしまう。逆に見えないものを見るという想像力と感性を高めるにはどうしたらいいのか。アナログなことをやったほうがいいのではないかと考えていました。以前に谷川俊太郎さんの朗読会に行ったときに、自分の詩を自分で読まれた姿にぐっときたんですよね。言葉を黙読じゃなくて音読することは魂に来るんだな、と感じました。詩を音楽とともに聞かせるということをやってみたいと思ったのです」

――イベントのテーマとして「耳で楽しむ映画のような朗読会」を掲げています。

「私は映画やドラマの映像を撮って、演劇もやってきて、絵も描いておりまして、もっとミニマムな形はないのかなと考えていました。今回は詩を朗読する。それも60秒ぐらいで短いんですよ。そのあとに音楽を奏でる。そうすると、ひとつの短編映画みたいになる。耳で聞く短編映画になります。朗読は、みんなの心にそれぞれの絵を描いてもらうものなのだと思います。そこに余白があって、みんなで行間を読んで、行間に色を付けていく。そういうイベントをやっていけたらと。そうしたら、友達から『なんで4回もやるの?』と言われるわけです。500人のホールで4回なので動員2000人。スピードワゴンの小沢君からは『俺らの単独ライブでも300人だよ』と言われて……。でも、そのぐらいやらないと伝わらないんじゃないか、ウェーブになっていかないと思って取り組んでいます」

――思い切った4回開催ですね。落語家の立川志の輔さんから以前に聞いた言葉が励みになったとか。

「昔、志の輔師匠から『落語会といっても(お客さんは)最初はわかんないわけよ。中年のおっさんがただしゃべっているだけのライブで、それ面白いの?みたいな。でもそれを続けていくと、面白いね、となる。やっぱり続けていくのは大事だよ』と言われたことがありまして、その言葉を思い出している中で、こういう朗読会をやればいいなと思うようになったのです。今回は継続する取り組みの1発目だと考えています」

「大宮エリーの音楽と朗読とおしゃべりの虹のくじら」11月13日の公演の様子【写真提供:大宮エリー事務所 撮影:網中健太】
「大宮エリーの音楽と朗読とおしゃべりの虹のくじら」11月13日の公演の様子【写真提供:大宮エリー事務所 撮影:網中健太】

――友人であり、才能あるアーティストとのコラボレーション。大宮さん自身もバイオリンの演奏で音楽に参加しています。実際にやってみていかがですか。

「答えがひとつではない。それもアートだなと実感しています。それに、いろいろな人とやることで、ひとつの詩を取っても、伝え方が変わることに気が付きました。同じ詩でも、小沢君、コトリンゴちゃん、郁子ちゃんが読むのでは全然違うんです。コトリンゴちゃんが紡ぐ音楽と郁子ちゃんが紡ぐ音楽とではまた違います。ひとつの物語でもいろいろな解釈があって、音楽の解釈もさまざま。朗読の仕方、間の取り方も違ってくる。そういうミニマムが無限になっていくような感覚を感じています」

――来場者の反応はいかがですか。

「これまで2回開催していますが、客席からすすり泣きが聞こえてきたり。サイン会をやると、『すごい泣いちゃった』『来てみないとわからないライブですね』と言ってもらえて、本当にやってよかったと手応えを感じています」

――大宮さんご自身の刺激になる部分はありますか。

「郁子ちゃんからこうしたほうがいいと意見をもらって、勉強になります。コトリンゴちゃんとやると、なるほどこういう解釈をするのかということに気付かされます。詩については、ゲストに全部選んでもらっているので、どうしてこれを選ぶのかなという気付きがすごく面白いんです。朗読についても、私だけでなくミュージシャンの方にやってもらっているので、これも新鮮です」

――感性、個性がにじみ出て、イベント全体の滋味深さにつながっているのですね。

「例えば、この詩がいいと郁子ちゃんもコトリンゴちゃんも小沢君も同じものを選んでくれていても、選ぶ箇所と理由が違う。『なんでこれ選んだの?どこがよかったの?』というところから話が広がっていくんですよ」

――アドリブ感、手作り感があって、おしゃべりの流れが会場に広がっていくのですね。

「『たまにおもうこと』という詩があります。今まで会ってきたいろいろな人のことを思い出すと、なかなかいい人生だったなという内容なのですが、この詩を取り上げた時に、ゲストに『誰をたまに思い出すの?』という話をしてそこから話題が広がるんです。その時にお客さんも一緒に、誰を思い出すのか考えるというか。詩には全部テーマがあるのでテーマに沿って話を進めていくので、会場のみんながいろいろなことに気付くきっかけになればいいなと思っています」

――「金木犀のことば」という詩は、ファンや来場者に人気があるそうですね。

「自分を大事にするということを伝える詩です。これはお客さんがいいと言ってくれるので、読むようになったんです。やっぱりみんなのことを考えちゃったり、他人のことを気にしてしまう国民性ですから、でも、たまには自分のことを優先しないとね。こういった話が広がっていくのです。ゲストと話をしながらも、実は私はお客さんと会話をしているんですね。つくづく感じます」

――新しい表現への取り組み。今後については。

「思った以上の反響があって、ツイッターを見ても、『泣いてすっきりした』『すごい笑った』とか『あったかい気持ちになった』とメッセージをもらって、来年もやれたらいいなと思っています。ただ、あと2回残っているので、びしっとやらないといけないです」

――ご自身の来年の抱負は

「絵の活動については、また海外でもやるのかもしれません。今年は香港とパリとミラノでやりましたが、来年は違う国でやる予定です。表現者としては、今までやってきたことをそぎ落として、研ぎ澄ましていく。そんな風に考えています」

□大宮エリー 1975年大阪生まれ。広告代理店勤務を経て、2006年に独立。映画「海でのはなし。」で映画監督デビュー。作家、脚本家、画家、映画監督、演出家、CMディレクター、CMプランナーとして幅広く活躍する。

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