にしたん社長、“日本のエビアン”北海道東川町を推す理由… 湧き水・絶景・絶品スープカレー「いるだけで健康に」

にしたんクリニックの運営支援などで知られるエクスコムグローバルの西村誠司社長は、経営以外にも取り組んでいるプロジェクトがある。北海道東川町(ひがしかわちょう)の盛り上げだ。2025年2月、同町の「地方創生アドバイザー」に就任。自らの発信力を駆使し、瞬く間に多大な経済効果をもたらした。なぜ、西村氏は東川町を“推す”のか。夏休みの家族旅行にもお勧めスポットの紹介とともに、西村流・地方創生の極意と根底にある「社会貢献への信念」を聞いた。

地方創生アドバイザーとして、北海道東川町について語った西村誠司氏【写真:増田美咲】
地方創生アドバイザーとして、北海道東川町について語った西村誠司氏【写真:増田美咲】

語った地方創生の極意と社会貢献への信念

 にしたんクリニックの運営支援などで知られるエクスコムグローバルの西村誠司社長は、経営以外にも取り組んでいるプロジェクトがある。北海道東川町(ひがしかわちょう)の盛り上げだ。2025年2月、同町の「地方創生アドバイザー」に就任。自らの発信力を駆使し、瞬く間に多大な経済効果をもたらした。なぜ、西村氏は東川町を“推す”のか。夏休みの家族旅行にもお勧めスポットの紹介とともに、西村流・地方創生の極意と根底にある「社会貢献への信念」を聞いた。(取材・文=柳田通斉)

 きっかけは一本の電話だった。かけてきたのは、高校の同級生である長谷川岳参議院議員だ。

「今、ちょうど地元の関係者と一緒にいるんだけど、北海道の町をPRしてもらえないだろうか」

 イモトのWiFi、にしたんクリニックの成功などで会社の業績は伸び、自身は個人資産300億円の資産家になった。西村氏には「次に目指す成功」の一つに、地方創生をイメージしていたタイミングだった。

「はい。やりましょう」

 二つ返事で快諾。数日後には、長谷川氏とともに菊地伸町長、農協幹部らが東京・渋谷のエクスコムグローバル本社を訪れ、地方創生アドバイザーの役割や就任までの段取りなどを説明した。

「行動力がすごいですよね。それで僕も『実際にどんな町なのか自分の目で確かめたい』と思い、就任1か月前の1月に家族で現地へ行きました。着任前の視察です」

 旭川空港に降り立ち、東川町中心部までは車で約15分。旭川市街に出るよりも近い好立地だ。

「到着して2時間もしないうちに、自分の体調が良くなっていくのが分かるんですよ。空気が澄み切っていて、ただそこにたたずんでいるだけで健康になる。療養生活にはまさにうってつけ。『これはすごいポテンシャルを秘めている』と確信しました」

 同年2月15日、正式に東川町の地方創生アドバイザーに就任。西村氏が町長らに伝えたのは「新しい箱モノは作らなくていい。今のままでいいのでは」ということだった。

「広い農道を子どもの手を引いて歩く。立ち止まって大雪山連峰を眺める。そっちから風が吹いてくる。ただそれだけで、北海道感があるじゃないですか。その土地にいると気づかないかもしれないけれど、東京で暮らす人間からすれば『これこそが最高の価値』なんですよ」

 東川町は、全国的にも珍しい「上水道がない町」でもある。大雪山の雪解け水が、長い年月をかけて地中深く浸透した「伏流水」で生活をまかなっているため、基本水道代は無料。つまり、天然水が飲み放題なのだ。

「水がおいしければ、そこで育つ米も野菜も豆腐も全部うまい。町内には世界初の殺菌技術を導入した巨大な『ライスターミナル』という米の農業施設があって、それを見学するだけでも驚きの連続です」

 夏休みにファミリーで訪れるなら、絶対に外せないスポットがあるという。

「『大雪旭岳源水』の湧き水です。毎分4600リットルもの水が湧き出ているんですよ。冬場は雪が多くて大元の源泉までは行けませんが、夏は遊歩道が整備されているので手前の取水場から約300メートル歩けば行けます。絶対に訪れてほしい場所です」

 天然水が24時間無料で湧き出て、それを生活用水として利用でき、観光客もペットボトルに入れて飲める。それはフランスの有名観光地、エビアンと同じ環境だ。

東川町の地方創生アドバイザー就任式で証書を菊地伸町長から手渡される西村誠司氏【写真:東川町提供】
東川町の地方創生アドバイザー就任式で証書を菊地伸町長から手渡される西村誠司氏【写真:東川町提供】

名宿は五輪メダリストの実家「温泉と料理が」

 旅の醍醐味である「宿」と「食」にも恵まれている。西村氏が「全国でもトップ3に入る宿」と絶賛するのが、旭岳温泉の湯元 湧駒荘(ゆこまんそう)。スノーボードのソチ五輪パラレル大回転銀メダリスト・竹内智香さんの実家としても知られている。

「東京・赤坂の高級料亭で修行されていたお兄さまが経営されていて、料理がすごくおいしいんですよ。館内には、竹内さんのメダルや用具などが展示されているギャラリーもあります。何より、泉質の異なる質のいい自家源泉を5本持っていて、浴槽は全17種類。内装の雰囲気も良い。日本全国に行っている僕の中でもトップ3には入ると思います」

 この宿に程近い旭岳ロープウエーでの空中散歩も夏のイチオシだ。

「この辺り、冬は上級者のスキーヤーが集まるパウダースノーの聖地になります。そして、夏はロープウエーから高山植物が咲き誇る絶景を見ることができます。旭岳は家族で散策するには最高です」

 標高2291メートルの旭岳は、北海道で最も高い山で「日本の百名山」にも選ばれている。登山シーズンは6月下旬から10月初旬までと短いながらも、高山植物の花々は足元をカラフルに染める。アイヌ語で「カムイミンタラ」(神々の宿る庭)。まさに楽園の様相だ。

 旭岳は「日本で最も早く紅葉が訪れる場所」としても有名。標高1600メートル地点までは旭岳ロープウエーが運行し、約1時間のトレッキングコースも整備されている。山開きは例年6月第3週末で、初冠雪が降る9月下旬までが登山シーズンになる。

 移住者たちが開店したおしゃれなカフェやレストランも点在。それも東川町の特徴だ。

「それが、東京の代官山や南青山にあるような素敵なカフェなんですよ。廃校を活用した店もあります。また、柴咲コウさんの二拠点生活の北海道での家を手がけた会社(北の住まい設計社)が運営するカフェも人気です」

 そして、西村氏がイチオシする飲食店がKINGBEAR NOW店だ。

「本店は別の町にありますが、東川町の店舗であるKINGBEAR NOW店のスープカレーは種類が豊富でどれも絶品です。ここはマストで行っていただきたいですね」

 これだけの素材とアピールポイントがある東川町に、西村氏は自らのノウハウを注入した。

「話はシンプルで、まずは僕のTikTokなどで発信しました。その中にメディアが記事化したくなるような仕掛けも入れ込みます。SNSで1000回再生だとしても、WEBニュースになれば何十万人、何百万人もの目に触れるわけです。今は、テレビの旅番組で東川町観光の企画を持ち込もうと計画中です。そういうメディアミックスのやり方を実現するには、普段からメディア側とコミュニケーションを取ることが大切です」

 西村氏の作戦成功は数値にも出ている。地方創生アドバイザー就任前、年間10億円に満たなかった同町のふるさと納税額は、就任2か月後の24年度決算で約26億円に急増した。翌25年度は前年からの米価格高騰の影響もあり、返礼品として米の人気が上昇。寄付額は46億円に達した。

「にしたんクリニックの患者さんにも、東川町のお米をプレゼントしたらめちゃくちゃ喜ばれました。実際に僕のSNSを見た人や患者さんが『こんなにいい場所があるんだ』とふるさと納税をしてくれてもいます。何より、町長を含めた町の人たちが『自分たちの町の魅力は全国に通用するんだ』と自信を持ってくれたこと。それが一番の成果だと思っています」

大雪旭岳源水の湧き水【写真:東川町提供】
大雪旭岳源水の湧き水【写真:東川町提供】

根底にある「困っている人を直接助けたい」

 西村氏自身はコロナ禍の大ピンチもPCR検査事業への参入で乗り切り、ビジネスの第一線で圧倒的な利益を生み出してきた。その上で、自身の貴重なリソースを割いてさまざまな寄付、支援を繰り返し、「社会貢献」も重ねている。そこには確固たる信念があった。

「『社会貢献』というと大げさできれいごとに聞こえるかもしれませんが、僕の根底にあるのは『目の前で困っている人を直接助けたい』というシンプルな思いなんです」

 西村氏は先日、SNSを通じて生活苦や将来に絶望している子育て世代に向けて「僕に連絡をください。できる限りの支援をします」と異例の呼びかけを行った。群馬・伊勢崎市で発生した父親による幼い姉弟の殺害事件に深い衝撃を受けたことも明かしていたが、直後からスピード感あるアクションを起こしている。

「ある女性から『家賃を滞納して退去を迫られている』という連絡がありました。生活保護の申請をしようとしても、役所でたらい回しにされていると。僕はすぐに滞納分の家賃を直接振り込みました。申請については、うちの会社スタッフをつけて全てをサポートした。昨日、無事に申請が通って来週から受給できると夜に電話があって、あれは本当にうれしかったですね」

 この女性からは、あらためて「本当に本当にありがとうございます」「この御恩は一生忘れません」などと記した御礼のメールが届いている。

「SNSで支援を募ると、応募の8割方がお金目当ての人達で心が折れそうになります。自己管理のなさで今に至っている人までは救えないですから。でも、やむを得ない事情があって本当に苦しんでいる人は救いたいです。僕の中では高級レストランに行ったり、ぜいたくな旅をするのも喜びですが、自分が動くことで本気で誰かが喜んでくれる。そのことの方が数倍、いや数十倍うれしい。生きがいにもなっています」

 北海道のほぼ中央に位置する東川町。少子化の中、人口は1993年の約7000人を底にゆるやかに増加し、現在は約8700人になった。豊かな自然、数々の魅力にひかれ、北海道外から移住者が増えているからだ。西村氏はそこにも着目している。現地では講演会を開き、居酒屋で住民との飲食も楽しんでいる。国内外を飛び回っているが、西村氏にとって同町は心から落ち着ける場所。今後も惜しみなく、自身の発信力でPRに努める決意だ。

□西村誠司(にしむら・せいじ) 1970年、愛知・名古屋市生まれ。生活保護を受ける家庭で育ち、中学時代には新聞配達のアルバイトを経験。名古屋市立大経済学部卒業後の93年4月、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社。95年に現在の会社を設立。2012年に海外用モバイルWi-Fiルーターレンタルサービス・イモトのWiFiの提供を開始。19年、にしたんクリニックを立ち上げ、PCR検査事業で急成長。現在は美容医療、不妊治療など幅広く展開。卓越したマーケティング戦略で知られる。

標高2291メートルで北海道で最も高い山の旭岳【写真:東川町提供】
標高2291メートルで北海道で最も高い山の旭岳【写真:東川町提供】

オープンな東川町、ふるさと納税「倍の倍」で感謝…人口も増

 東川町の菊地町長は初対面で、西村氏のことを「偉ぶらず、フランクな人柄」と感じていた。

「大きな会社の経営者というよりも、本当に一人の人間として身近に接していただける方だと思いました」

 25年1月、西村氏が初めて視察で東川町を訪れた際から「取り入れたい」と感じるアドバイスがあったという。

「実際に東川町をぐるっと見られた上で、『東川町にとって大事なのは、暮らしを守りながら、今あるものを生かして発信することですね』と言っていただきました。それがとても印象的でした」

 何事もスピード感を大事にする西村氏は、視察の段階から自身のTikTokで東川町をPR。米価格高騰や米不足が社会問題になると、「東川米がすごくおいしいんです」「ぜひ、ふるさと納税に」などと呼びかけた。それらを複数のメディアが記事化。その積み重ねで納税額は飛躍的に増えた。

「もう、倍の倍になっています。本当にありがたいことです」

 菊地町長は西村氏から「得ていること」として、さらに以下の点を挙げた。

「西村社長は腕一本で今の会社を作り上げた方ですが、幼少期は決して恵まれた環境ではなかった。そういう話も町民にしていただいています。成功者である西村社長が、『なぜ、そうなったのか』を感じさせてくれる。そのことも非常に大きいと思っています」

湯元 湧駒荘の温泉【写真:東川町提供】
湯元 湧駒荘の温泉【写真:東川町提供】

 東川町は85年に「写真の町」宣言を行い、世界に向けて「写真映りの良い町」をアピールしてきた。94年には全国高校写真選手権大会「写真甲子園」を開始し、町外や道外からの「交流人口」を増やしてきた。そして、ゲストハウスを用意するなどの「お試し移住」の取り組みなどで、現実に人口も増やしてきた。

「この10年間ぐらいを見ると、移住者の約3分の1は本州からです。そして、その割合はどんどん増えています」

 歴史的にオープンな町。縁あって関わりができた西村氏とは、末永い付き合いになりそうだ。

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