青木真也が“UFC至上主義”に警鐘「進学校のビリより、2番手のトップがいい」 BreakingDownが「合うやつもいる」【青木が斬る】

2003年のプロデビュー以来、日本総合格闘技界のトップを走り続けてきた青木真也(42)。格闘家としてだけでなく、書籍の出版やnoteでの発信など、文筆家としてもファンを抱えている。ENCOUNTで2024年5月に始まった連載「青木が斬る」では、格闘技だけにとどまらない持論を展開してきた。今回は「UFC」とキャリア論について話を聞いた。

「UFC」とキャリア論について語った【写真:増田美咲】
「UFC」とキャリア論について語った【写真:増田美咲】

「敗者に口なし」最高峰のリアル

 2003年のプロデビュー以来、日本総合格闘技界のトップを走り続けてきた青木真也(42)。格闘家としてだけでなく、書籍の出版やnoteでの発信など、文筆家としてもファンを抱えている。ENCOUNTで2024年5月に始まった連載「青木が斬る」では、格闘技だけにとどまらない持論を展開してきた。今回は「UFC」とキャリア論について話を聞いた。(取材・文=島田将斗)

◇ ◇ ◇

 5月28日から30日までに中国・マカオで行われたUFCマカオ大会。28日、29日はUFCを目指す者が参加する登竜門「Road to UFC シーズン5」のオープニングラウンドが、30日は鶴屋怜、朝倉海が出場する「UFCファイトナイト マカオ」がギャラクシーアリーナで開催された。

 初めてケージ際で取材した「UFC」の舞台は、想像以上の熱気に包まれていた。中国人選手の相手にはブーイングやFワードが飛び交い、鮮やかな一本と爽快なKO劇には大歓声が上がる。攻防は1秒たりとも目が離せないと思えるほど、展開が止まることなく見ごたえがあった。

 勝敗が全てであり、技術だけで観客を熱狂させてしまうような、まさに世界最高峰のリーグだった。だが、その一方で、日本の格闘技イベントが持つ奥深さや文化との違いを感じる瞬間があった。それは「UFCでは敗者の声が聞けない」という点だ。

 28日の「Road to UFC」では5人中4人の日本人が敗れた。逆転負けという悔しい内容が続くなかで、運営側に取材を申し込むと「負けた選手は誰も話したがらないです」との説明を受けた。敗者の弁はない。純粋な勝敗と結果がすべてとされる徹底した世界観にこれが「スポーツとしてのMMA」の最高峰たる所以なのだと肌で感じた。

 平良達郎、堀口恭司、鶴屋怜、朝倉海、中村倫也、風間敏臣、中村京一郎、魅津希と多くの日本人が同時に参戦していることで昨今の国内格闘技界隈では「目指すならUFC」という声も大きくなりつつある。この現状を青木はどう見ているのか。

 さまざまな舞台を経験してきた43歳のレジェンドは「今のMMAをスポーツとしてやるんだったらあそこが一番でしょ。実力が重視される最高峰のリーグ」と、その権威を認めていた。しかし、「UFC至上主義」を声高に叫ぶ者がいる現状を一歩引いて見ていた。

「よく分かんねえんだ俺は。理解はできねえな。“平良達郎モデル”が一個あるじゃん。あれは正直跳ねたと思うんすよ。よく稼いでると思うんだけど、あれができたがゆえに、あれを目指そうとしてまた屍ができんだろうなとは思いますけどね」

 UFCで快進撃を続け、フライ級3位に位置し、タイトルにも挑戦した平良達郎は練習と試合に没頭して、己の価値を高めている。青木はそれを「ファイトやってるのが一番効率よく稼げるから、それで価値を上げてくださいっていうスタイル」と分析した。だが、誰もがそのモデルになれるわけではない。

「だってあれを目指しても、UFCに入れなかったり、入っても一回目の契約で契約更新できなかったら、別に何にもならなくないですか? って思っちゃうんですよ。だから、屍が並ぶ可能性はあるっすよね。それを目指すのは勝手だし、目指していただいていいんだけど、メリットとデメリット2つをちゃんと見てやってほしいなと思って」

 この構図を学校選びに例え、格闘家のキャリア構築の本質を突いた。

「県内トップの進学高のビリでいるのと、県内2番目の進学校のトップでいるの、どっちがいいかってことよ。静岡でいうと静岡高校の1番になれりゃいいよ? 静岡高校のビリから3番目より、2番目の静岡東高校のトップのほうが全然いいって思うの。

 じゃあUFCに入ってすぐやられるよりも、ONEで10年トップ張ったほうが得じゃんと思う。そういうことよ、同じことが起きてるんだよ。スポーツになった途端に、やれ競技だ、一番だ、そこが一番にならなきゃいけない、みたいな思考になるのは『え?』って思うんだよね」

ONE移籍決断のひとつに「しばらく食っていける」

 事実、青木自身は29歳で主戦場を国内からONEチャンピオンシップに移している。「このONEが何年持つか分かんねえけど、『しばらく食ってけんな』と思って行ったんだもん」と当時のリアルな判断基準を明かし、自身の哲学をこう語る。

「自分の能力と、タレント性も含めて、どこで稼げるかってことを考えればいいっすよ。競技も手段じゃん。要は自分が楽しく豊かに生きるための手段なんですよ。だから、『全てを競技軸で考えんなよ』と思っちゃう」

 結果として、同団体のベルトも獲得し、大金を稼いだ。多くの外国人ファイターは青木に会うと尊敬の念を抱いているかのような反応をする。ONEのお膝元であるアジア圏での認知も広がり、キャリア終盤のいまでも仕事につながっている。

 これまでも同様のことを発信してきているが、そのたびに一部からは「競技から逃げてんじゃねぇ」という批判の声が上がってきた。だが、キャリアの最高到達点は必ずしも競技の頂点とは限らない。

「ゴールが競技じゃないんだよ。BreakingDownがいい悪いみたいな話と一緒です。社会悪になり得るフェーズもあるよ。会見でどつき回したりとか、安全性が担保されてなかったりするからね。ただ現状、事故が起こってなくて、出場者がそこで得るものがあって、それでいいっていうなら誰も文句言う筋はないでしょ。人のスタイルなんだから。職業差別とまでは言わないけど、何か言うのは大きなお世話ですよ」

 さらに「金がある家庭で『金がいらねぇから好きなことやる』っていうのもいい。でも、俺はそこまでの余裕はなかったから、それなりに自分の名前も立てて、それなりに稼がなきゃいけないからって自分のキャリアの選択をしたんです」と続けた。

 格闘技との向き合い方は選手の数だけある。「結局、全部、自分がどのスタイルに合うかなんですよ。UFCを目指してUFCに合うやつもいるし、BreakingDownが合うやつもいるし、RIZINが合うやつ、ONEが合うやつもいる。自分のスタイルにどこが合うかっていうのをそれぞれが考えることだよね」と結んだ。

 自分の能力を客観視し、どこでならトップを獲れるか、どうすれば稼ぎ続けられるかを逆算して見極める。UFCという敗者に容赦のない巨大なシステムを現地で目の当たりにしたからこそ、青木のリアリストな生き方がより一層の説得力を持って響いた。

◇ ◇ ◇

 格闘技イベント「RIZIN」では、初参戦の無名な海外選手であっても一定の注目が集まる。現場の記者が質問を投げかけて人間性を引き出し、ファンも会見映像や自らバックボーンを調べてSNSで発信していく文化があるからだ。

 一方、UFCマカオ大会で海外メディアから日本人選手に質問が及んだのはごく一部のみ。「Road to UFC」に出場した選手となれば、なおさらだった。UFCは競技レベルが高いだけでなく、自分への注目すら自力で勝ち取らねばならない。べらぼうに強ければ話は別だが、プロモーション的な角度から見ても究極の“修羅の道”だった。

 これほど過酷な現実を知ったいま、「世界を目指して当然」という押し付けは無責任にも思える。個人の生き様やストーリーを愛し、ファンと共に歩む国内の舞台で生き抜くこともまた、格闘家としての豊かさであるはずだ。

トップページに戻る

あなたの“気になる”を教えてください