父親になり心境変化 高橋克典が母校・青学大で上映会を企画したワケ「無限に道はある」
俳優の高橋克典がこのほど、母校である青山学院大で映画『LOST LAND / ロストランド』(4月24日公開)の公開前特別上映イベントをコーディネートした。同作は「世界で最も迫害されている民族の一つ」と言われるロヒンギャ難民を描いた社会派作品。学内での上映が実現した経緯とは?

母校・青学大で難民映画の上映会「どう感じるかは学生次第」
俳優の高橋克典がこのほど、母校である青山学院大で映画『LOST LAND / ロストランド』(4月24日公開)の公開前特別上映イベントをコーディネートした。同作は「世界で最も迫害されている民族の一つ」と言われるロヒンギャ難民を描いた社会派作品。学内での上映が実現した経緯とは?(取材・文=平辻哲也)
「非常に印象深く、心に残る映画でした。僕個人の感想で限定してしまうにはあまりに考えさせられることが多い作品なので、皆さんが見て何かを感じていただくのがいいことなんだと思います」
高橋がそう語る映画『LOST LAND / ロストランド』は、藤元明緒監督が手掛けた長編劇映画。難民キャンプで暮らす5歳のシャフィと9歳の姉ソミーラが、家族との再会を願い、叔母とともにマレーシアへ旅立つ姿を描く。パスポートを持てない彼らが密航業者に導かれて漁船に乗り、自然の猛威や人身売買の危機に阻まれながらも過酷な旅を乗り越えていくストーリーだ。
本作には、故郷を追われた実際の難民たちが総勢200人も出演。演技未経験ながら、彼らの眼差しが圧倒的なリアリティーと強度を生んでいる。第82回ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門で日本人監督初の審査員特別賞を受賞するなど、世界中で喝采を浴びている。
高橋は昨年10月に東京国際映画祭でいち早く本作を鑑賞し、印象に残ったことをきっかけに、「普段なかなか触れられにくいテーマですが、学生たちが触れる機会があったらいいな」と思い立ち、大学側に提案。教員や学生有志の熱意も重なり、キャンパス内での大規模な上映会と、藤元監督らを招いた座談会が実現した。
高橋は初等部から青山学院に通い、27歳で大学を中退するまで21年間を過ごした。2024年には創立150周年を迎えた青学のブランドアンバサダーも務めるなど“青学ファミリー”として知られる。これまでも「青山学院大学同窓祭」でチャリティーイベントのプロデュースを手掛け、収益を給付型奨学金に充てるなど、母校への奉仕活動を続けてきた。しかし、自身の学生時代を振り返る目は、少しほろ苦い。
「大学時代は本当に無駄に過ごしてしまって、授業もほとんど出ず、最終的には中退してしまいました。大学の授業よりも、アルバイトをしたり、旅行したり、いろんな人と会って話を聞くことのほうが楽しかった。当時は勉強に面白さを見出せず、つまらないなと思った覚えもあります」
多感な時期だった高橋は、学外に広がる世界に夢中になった。音楽、映画。特に、スタイリッシュでありながら暗さや政治的な意味合いを持つ「アメリカン・ニューシネマ」などの作品に刺激を受けたという。そうした体験は「いかに自分の世界が狭いか」を知り、俳優を志す原点にもなった。だからこそ、高橋は現在の学校教育に対して独自の視点を持っている。
「学校というのは、いろんなタイプの価値観の家で育った子どもたちが、一つの箱に閉じ込められて社会性を学べと言われるわけですよね。それって確かに必要ですけど、理不尽なことも起きます。言葉を知らなければ力が強いやつに勝てないとか。だからこそ、『無限に道はあるよ』ということを学校が教えてくれたらと思うんです」
さらに思いを強くさせたのは、自身の「父親」としての心境の変化だった。
「やっぱり自分に子ども(2009年誕生、長男)ができてから特に、子どもに関することはいろいろな意味で非常に気になりますよね。ですから、若い子たちに何かを感じてくれたらと。僕が学生時代によろしくない学生だったので、その罪滅ぼしじゃないんですけど、少しでも賑やかな、楽しいことが提供できたらと思って尽力しているところなんです」
亡き母親が青山学院女子短期大の児童教育学科の音楽の教員だったこともあり、「人を未来へ」という教育への思いは自然と受け継がれているのかもしれない。自身も親となり、若い世代へのまなざしはより温かさを増している。
「難民問題など、今の現実で起きていることについていろいろな考えが生まれる有意義な場になれば。でも、どう感じるかは学生次第。『こう感じてほしい』というのは大人のエゴになってしまいますからね。僕はあくまでも、この場を提供しただけです」
枠に収まりきらなかった、かつての青年は、映画という「窓」を通じて、後輩たちに広い世界を見せようとしている。
□高橋克典(たかはし・かつのり)1964年12月15日生まれ、神奈川県出身。1993年に歌手デビュー。同年には日本テレビ系連続ドラマ『ポケベルが鳴らなくて』で俳優デビューを果たす。主演ドラマのTBS系『サラリーマン金太郎』シリーズ(99~04年)、テレビ朝日系・ABEMA『特命係長 只野仁』シリーズ(03~17年)は大ヒットし、人気を博した。主な映画出演作には『竜二 ~Forever~』(02年/細野辰興監督)、『新仁義なき戦い/謀殺』(03年/橋本一監督)、『アウトレイジ ビヨンド』(12年/北野武監督)、『20歳のソウル』(22年/秋山純監督)、『明日を綴る写真館』(24年/秋山純監督)などがある。テレビではNHK大河ドラマ『麒麟がくる』、NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』などの話題作に出演。5月15日には映画『正直不動産』の公開も控える。
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