ペ・ヨンジュン本人の吹き替えオファーは「断りました」 萩原聖人が語る声優業へのリスペクト
約15年ぶりの単独主演映画『月の犬』(24日公開、横井健司監督)で圧倒的な存在感を放った実力派俳優・萩原聖人。だが、その歩みは、決して順風満帆なだけではなかった。萩原が苦しかったという30代、その中で訪れた声の仕事、社会現象を巻き起こした韓国ドラマ『冬のソナタ』のペ・ヨンジュンの吹き替えを振り返った。

華やかな20代が一転「全部自分のせいなんですが」
約15年ぶりの単独主演映画『月の犬』(24日公開、横井健司監督)で圧倒的な存在感を放った実力派俳優・萩原聖人。だが、その歩みは、決して順風満帆なだけではなかった。萩原が苦しかったという30代、その中で訪れた声の仕事、社会現象を巻き起こした韓国ドラマ『冬のソナタ』のペ・ヨンジュンの吹き替えを振り返った。(取材・文=平辻哲也)
萩原は1994年に映画『学校』、『月はどっちに出ている』、『教祖誕生』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。映画だけではなく、フジテレビ系連続ドラマ『若者のすべて』などドラマでも引っ張りだこになった。
「20代っていう、ちょっとこう華やかな時期があって、で、30代は自分の中で苦しい時期みたいなのがあって。それを招いたのは全部自分のせいなんですが」と、彼は包み隠さず当時を振り返る。
萩原はフィルモグラフィーよりも「今」が大事と言い切る。
「そのキャリアは、それはもう記録として残るだけ。これから生きていく上では全く関係ないと割り切って、1回捨てなければ、と思っているんです。新しい自分を常に作り続けていかないと生き残っていくのが本当に大変な世界だなっていうのを感じています」
30代の彼は、やりたい役ができず、自分自身の表現も良くなかった時期だったという。
「ある意味、自分のキャリアにちょっと頼ってたのかもしれないという気もするんですよ。このままでは、自分の感覚の表現だけしかできない役者になってしまうという危機感がありました」
その苦悩の30代に訪れた大きな転機が、声の仕事だった。なかでも、2003年にNHK BSで放送された韓国ドラマ『冬のソナタ』では主演ペ・ヨンジュンの吹き替えを担当。『冬ソナ』は社会現象となった。
「アニメの声をやってみたい、という思いはありましたが、僕は自分の声をいいとか悪いとか、ほとんど意識したことがなかったんです。最初はこんなに当たるとも思ってなくて。……いや、びっくりしましたね。みんなハマるんだ、みたいな。一つの時代を作れたのかな、とは思っています」と述懐する。

麻雀で「常に恐怖を感じている」理由
街を歩けば「ヨン様、ヨン様」と声をかけられる日常に一変したが、萩原は「『ヨン様じゃねえし!』って、心の中でずっと言い返していました」と当時の狂騒を笑い飛ばす。
当時、こんな驚きのオファーもあったという。
「来日した時、ペ・ヨンジュンさんのインタビューの吹き替えをやってくれって(笑)。声優さんだったら、いい気もするんですけど、僕は俳優で、そういうところも小さいので(笑)、これはさすがに断りました。僕はあくまで作品の中のペ・ヨンジュンさんの吹き替えで、さすがにこれはできないです」と、オファーを一蹴したエピソードを明かす。
その後は『闘牌伝説アカギ ~闇に降り立った天才~』(2005年10月~06年3月)、『逆境無頼カイジ』(07年、11年)で念願のアニメでの声優業にも進出し、アニメ声優としての代表作となった。
「実写の吹き替えとアニメの吹き替えは全く別物でした。声優さんはすごくテクニックが必要で、役によって、そのテクニックも違うんだと実感しました。すごく勉強になりましたね」と、その奥深さに感銘を受けた。
一方、NHKの宇宙科学番組『コズミックフロント』のナレーションを、番組開始当初の11年4月から23年11月まで約12年間にわたって務めた。
「ナレーションの仕事は自分はやりやすいのですが、視聴者の方が後から、『この声は萩原さんだったんだ』と気づくといった感じにしたいんです」と、裏方としての美学を語る。
近年はプロ雀士としても目覚ましい活躍を見せ、絶好調の波に乗っているように見える萩原。しかし、当の本人は「僕は疑い深いんで(笑)、全く今の勢いとかもう信じてないんですよ。調子に乗って人生で痛い目にあったこと何度もありますから」と、自分自身を戒めている。
麻雀という目に見えるゲームの中で、実は「目に見えないものと戦ってるから常に恐怖を感じているんです」と明かす。勢いに乗っている空気を感じる瞬間もあるが、「目に見えないものは科学として証明されるまでは信じないようにしようと思っています」と萩原。過去の成功にも現在の勢いにも甘んじず、常に自分自身を疑い、アップデートし続ける。その泥臭くも生々しい人間力が、彼にしか出せない表現へと繋がっているのだろう。
□萩原聖人(はぎわら・まさと)1971年8月21日、神奈川県出身。94年、映画『学校』、『月はどっちに出ている』、『教祖誕生』で日本アカデミー賞新人俳優賞、話題賞(俳優部門)を受賞。『マークスの山』(95)、『CURE』(97)で同賞優秀助演男優賞他を受賞。近年の主な出演作に、『島守の塔』(22)、『海の沈黙』(24)、『栄光のバックホーム』(25)、『ハローマイフレンド』『君が最後に遺した歌』『2126年、海の星をさがして』(26)など。
ヘアメイク:小口あづさ(NANAN)
スタイリスト:中山浩一郎
衣装:1PIU1UGUALE3
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