大富豪の手を渡り歩いた極上の1台 「こんな車に乗っていいんだっけ?」30歳女性オーナーが明かす“葛藤”

30歳を迎えた女性が、「自分へのプレゼント」として手に入れたのは、戦前のクラシックカーだった。しかも、海外の大富豪が乗っていた由緒ある名車だ。85年以上前に製造された旧車だが、トラブル一つなく快走を見せる。なぜマイカーに選んだのか。驚きの愛車物語とは。

1939年式の戦前ベントレーが買ったばかりの愛車だ【写真:ENCOUNT編集部】
1939年式の戦前ベントレーが買ったばかりの愛車だ【写真:ENCOUNT編集部】

【愛車拝見#346】もう1台の英国車はすでに走行距離16万キロ超え

 30歳を迎えた女性が、「自分へのプレゼント」として手に入れたのは、戦前のクラシックカーだった。しかも、海外の大富豪が乗っていた由緒ある名車だ。85年以上前に製造された旧車だが、トラブル一つなく快走を見せる。なぜマイカーに選んだのか。驚きの愛車物語とは。

歴代の“相棒”は50台超…ベレット、キャデラック、クラウン クラシックカーを乗り継いだ大物ミュージシャンの愛車遍歴(JAF Mate Onlineへ)

「日常点検くらいで済んでしまうほど、調子がいいんですよ」。女性オーナーは、1939年式ベントレー 4 1/4リットル(Saloon by H.J.Mulliner)を優しい笑顔で見つめる。

 両親は特に車好きというわけではなかったが、古い車に自然と魅了されていった。中学生の頃、街中で見かけたクラシックカーに興味を抱いた。「なんでも調べ物をする癖があって(笑)」。クラシックカー販売店のホームページや自動車博物館のサイトを検索して解説を読んでいくうちに、とりわけ英国の名門ブランド、ロールス・ロイスとベントレーに心を奪われた。「当時から世界最高峰を目指していた、その車づくりの哲学が好きなんです」。

 これまでは眺めるだけだった憧れを、30歳の節目で現実のものにした。そこには挑戦と苦労があった。

 きっかけは、イギリスの戦前車の専門サイト。「ネットで見つけたんです。掲載されてすぐにメールしました。この車が気に入って」。返信してきた業者は「日本に輸出できます」と快諾。輸入の手続きを進めた。今年1月に購入。船舶で運ばれ、日本に入港後、税関など1か月ほどの時間を要した。ようやく手元に届いたのは、今年5月のこと。「本当に大変でした」と苦笑いしながらも、その表情には充実感が見て取れる。

 実は女性は学生時代からランドローバー・ディスカバリー4に乗り続けている。英国SUVというのは個性的だが、スキー部で趣味として親しんでおり、「雪山にたくさん人とモノを乗せて行ける車」として選んだという。新車で買って約11年。走行距離約16万キロで、まさに乗り倒している。

「小さい頃からイギリス車が好きで、いきなりクラシックカーは買えないけど、イギリス車らしいマイカーに乗りたかったんです」。ディーラーからは「うちの車をこんなに使い倒してくれる人はなかなかいない」と驚かれるほど、愛車に情熱を注いでいる。

『Rolls-Royce and Bentley Owners' Club of Japan』の一員に

 もちろん、この2トーンのブルーの色使いが印象的なベントレーもお気に入りだ。「スポーツカーやレーシングカーもかっこいいですが、私のキャラじゃなくて。静かに走るのが好きなんです」。引きつけられたのは、「当時として音もなく走り、それでいて速い」という特性だった。この特注のサルーン(セダン)のモデルは「当時から、フォーマルに後ろに人を乗せることもできるし、運転しても楽しいというのを目指して作られています」。フロントには「ハイビジョン」と名付けられたアクリルが使用された窓、後部座席にはサンルーフが装備され、前席でも後席でも景色を楽しめる。「このボディーデザインは6台だけです」。高級感あふれる極上の設計になっている。

 さらに驚くべきは、初代オーナーの名がサンバイザーに刻まれていること。英国の自転車ブランド「ハーキュリーズ」の創業者だという。「新車の時から一度も眠らせていない車なんです。大規模なレストアでよみがらせたという履歴がなく、ずっと乗り継がれてきた1台なんです」と誇らしげに語る。

 そして、直近にこのベントレーを所有していたのは、オーストラリアの富豪。しかも、普段はイギリスの販売店に預けておき、バカンスでヨーロッパを訪れるたびに乗るというゴージャスな乗り方をしていたという。「毎年、この車でヨーロッパ一周旅行をされていたそうです」。そのためコンディションは極めて良好というわけだ。

 前オーナーとは、販売店経由でメールを通した交流、写真のやりとりが続いている。「前オーナーさんは、この時代のロールス・ロイスやベントレーが大好きで、何台も所有されているんです。『日本のここがいいから連れて行ってあげてね』と連絡をもらっています」。年配の紳士だというが、女性オーナーが大切にしている様子を喜んでくれているとのことだ。

 夢にまで見た愛車を手に入れたが、予想外の感覚を持つようにもなった。「確かに楽しいのですが、一方で、重みも感じてしまって」。購入当初はプレッシャーを感じることもあり、「自分の車なのに苦しくなってしまったと言いますか、『こんな車に乗っていいんだっけ?』と。そんなふうに思うこともありました」と明かす。ヒストリックカーのハンドルを握る責任感にもあふれている。

 ガレージを借りてベントレーを保管し、「普通に乗ってます。毎週乗ってます」。愛車との長距離ドライブを楽しんでいる。ロールス・ロイスとベントレーのオーナーたちで組織される『Rolls-Royce and Bentley Owners’ Club of Japan』にも入会。自分のできる範囲で整備も行っており、クラシックカーへの知識・見識を深めている。

 歴史的名車を「なるべく大事にしつつ、乗ってあげたいですね」。一度も止まることなく走り続けてきた愛車の歴史を、これからも紡いでいくつもりだ。

次のページへ (2/2) 【写真】30歳女性が披露した愛車、実際の車体
1 2
あなたの“気になる”を教えてください