中山優馬、独立の裏にあった葛藤と決意「ここでつぶれるなら、つぶれてしまおう」 変わった価値観「失敗しても自己責任」
今年1月31日に長年所属した事務所から独立した中山優馬が、7月に大阪、8月に東京で上演される舞台『あゝ同期の桜』に主演する。太平洋戦争の末期、特攻隊員の実話を基に描かれた作品で、前事務所での先輩・錦織一清が演出を手掛ける。中山は、独立後も続々と出演作が決定。その中で臨む同作への思い、独立を決めるまでの葛藤と決意なども聞いた。

戦後80年の今、作品を上演をする意義
今年1月31日に長年所属した事務所から独立した中山優馬が、7月に大阪、8月に東京で上演される舞台『あゝ同期の桜』に主演する。太平洋戦争の末期、特攻隊員の実話を基に描かれた作品で、前事務所での先輩・錦織一清が演出を手掛ける。中山は、独立後も続々と出演作が決定。その中で臨む同作への思い、独立を決めるまでの葛藤と決意なども聞いた。(取材・文=楢崎瑞姫)
――『あゝ同期の桜』は、特攻隊員たちの青春と葛藤を描いた作品ですが、台本を最初に読んだ時の印象は。
「『専門用語が多くて、言葉が難しいな』と思いました。遺書や手記を基に当時のものを現代っぽくせず、戦後生まれの僕らが演劇の力で表現していくことが必要な作品という印象です。海外で舞台を観た時も大体そうなんですけど、『何を言っているかは分からないけれど、伝わってくる』という感覚。そうしたことが人や劇場のパワーなんだと思います」
――今の時代にこの作品を上演。観客に伝えたいメッセージは何だと思いますか。
「戦後80年。戦争をしてはいけないということ、『平和な今があるのは先人たちのおかげなんだ』ということは絶対にある。“神風特攻隊としてお国のために犠牲となった人たち”ということではなく、彼らが何に恐怖して、何に歓喜して、どんな日常を過ごして、最後はどんな思いで散っていったのか。そこを自分たちがしっかり学んで上演しなければいけないなと思っています」
――役作りで意識したいことや心がけたいことはありますか。
「戦争を題材とした作品には出演してみたいと思っていました。『こんな感情でしょう』のような知識や計算計算から生まれるものでは、到底太刀打ちできませんし、(リアリティーのある)感情が生まれてくるのを待つしかないです。今回、『その感情がいつ生まれてもいい準備をする。生まれやすい環境にする』というのが、役作りだと思っています。なので、台本には書かれてない14期生の方たちがどういう日常を過ごしていたのか、そういう部分を大切にしたいと思っています」

「もう、やめようかな」と思っても続けてこられた理由
――中山さん自身が「同期」や「仲間」という言葉から連想する体験や思い出はありますか。
「仲間の大切さは知っています。『友達がいるから頑張れる』とか、『ライバルがいるから負けたくない』とか、助けたり、助けられたりしたことは多くあったので、仲間は大事だなと思います」
――作品では「信念や夢を貫くための葛藤」の部分が描かれていますが、中山さん自身もそういった経験はありますか。
「僕は好きなことが仕事になりましたが、『もう、やめようかな』と思ったこともありました。『思うような芝居できへんな』とか『やりたい芝居ってなんだろう』とか。そんな葛藤は山ほどあります」
――それでも、続けてこられた理由とは。
「生きてたら、誰かにアドバイスをもらったり、映画を見てちょっと元気になったり。元気になるタイミングなんて、その辺に落ちてるんですよ。僕の場合では、久々に会った友達と1時間ぐらいしゃべった後に『何でそんな元気ないの』と言われたことがありました。元気があるつもりだったけど、確かに『やりたいことができなくて面白くないな』と考えてはいた。『それが伝わるんだな』と感じましたし、『分かってくれる人もいるんだな』と思って、一気に気持ちが浮上しましたね」

退所の裏にあった葛藤と決意
――18年所属した事務所を退所し、2月1日からリスタート。退所に至るまでの思いや、独立して感じることを教えてください。
「会社の看板は大きかったし、『ブランドとして自分を支えてくれる』っていうアイテムの一つでもありました。だから、『その大きな看板を下ろしてやっていけるのか』という不安はありました」
――それでも、新たな場所でキャリアをリスタートさせようと思った理由は。
「飛び立つことによって新しいさまざまな景色が見られると思ったからです。30歳という節目も大きかったです。これからを考えると、30歳は役者としては一番いい時期。思っていたような俳優人生でもなかったので、環境を変えて、リスクも感じながら、『違う世界を見てみた方がいいのかもしれない。ここでつぶれるなら、つぶれてしまおう』と思いました」
――実際に独立して、価値観や気持ちに変化はあったのでしょうか。
「自分自身で判断することが多くなるので、気持ちが楽になりました。判断から決定までが速いですし、失敗しても自己責任なので、会社に迷惑をかけて、自分の代わりに誰かに頭を下げさせることもないので」

新たな一歩を踏み出す人へ
――退所後もさまざまな活動に取り組まれています。今後の目標は。
「楽しいと思える芝居をやり続けたいです。あとは長年、応援してくれてる人が『見たい』と思ってくれている歌やダンスを披露できる場を作りたいです。勉強してきた芝居、歌、ダンスは全部舞台上で使える。そんな武器を3つ持ってるって、ラッキーだなって」
――最近では、作・演出・出演の全てを中山さんが手掛けた『YUMA NAKAYAMA ONE MAN’25 -ReTRY-』が上演されました。
「たまたま『作・演出・出演 初挑戦!』という形になりましたが、『独立前の音楽と独立後に作った新曲を物語に乗せて披露する場になればいい』と思い、やりたいことをやっていたらこうなりました。なので、『何でもできるぜ』みたいな思いは全然ないですし、あくまでプレイヤーなので、『演出だけをやりたい』という思いはないです」
――中山さんのように新たな挑戦へと一歩を踏み出そうか、止めようかと迷っている人にどんな言葉を送りますか。
「結局は『何とかなるし、何でもできる』と思います。『あと、3歳若かったらな』とか言う人もいますけど、やらない理由を探すよりも、まずは思い切ってやってみる。そうすれば、何とかしようとするから、意外と何とかかなったりする。それが、思い描いた道じゃなかったとしても、それは何かを得た上での違う道ですし、ただの失敗は挑戦したことで起こりえない。でも、そのためには勉強だったり、自信をつけることだったり、不安材料を1個ずつ消していく準備も必要です。僕もいろんなものに手を出します。最近は魚とか、料理もめっちゃ細かいところまで勉強しています。こうして挑戦することで、ちょっとした準備にはなるような気がしています。自分を盛り立ててくれるアイテムとして、いろんなものに手を出す。好奇心を持つことは培っていける。そこからやってみるのがいいと思います」
<舞台『あゝ同期の桜』日程>
7月26、27日 大阪IMPホールで計4公演
8月13~19日 東京・日本橋三越劇場で計12公演
□中山優馬(なかやか・ゆうま)1994年1月13日、大阪府生まれ。2006年から芸能活動をはじめ、08年NHK連続ドラマ『バッテリー』でドラマ初出演にして初主演を務める。17年にはドラマ『北斗―ある殺人者の回心―』に主演、バンフ・ワールド・メディア・フェスティバルでロッキー賞を受賞。多数の映画、ドラマ、舞台に出演し、活躍している。主な出演作品に【映画】『ホーンテッド・キャンパス』(16)『曇天に笑う』(18)【舞台】『Endless SHOCK』(18~24)『ドリアン・グレイの肖像』(15)『大誘拐』『血の婚礼』(24)など。今年5月には、“作・演出・出演”を自身で初担当した舞台『ONE MAN’25 -ReTRY-』を開催。
