伝説のGT-Rオーナーが墓石に刻む“愛” オークションでは絶対売らず…73歳の「次に託す」覚悟
伝説のGT-R、ワンオーナーで乗り続けて35年。「このクルマに、今でもわくわくするんだよね」。あの日からずっと変わらない。当時限定500台で生産された、R32型 日産スカイラインGT-R NISMOだ。73歳のオーナー、林茂樹さんはGT-R愛を貫き、「次の人に託す」覚悟を決めている。

「このクルマは日産の誇りなんですよ」盗難防止にも腐心
伝説のGT-R、ワンオーナーで乗り続けて35年。「このクルマに、今でもわくわくするんだよね」。あの日からずっと変わらない。当時限定500台で生産された、R32型 日産スカイラインGT-R NISMOだ。73歳のオーナー、林茂樹さんはGT-R愛を貫き、「次の人に託す」覚悟を決めている。(取材・文=吉原知也)
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ホンダZを皮切りに、シビックなどを乗り継ぎ、70スープラに乗っていた38歳の時だ。ファッション関係の仕事に就いており、取引先から「どうですか?」と話をもらったのが、このGT-Rだった。「クルマが大好きだから、二つ返事でお願いしますと。車体番号は40番。初期の二桁なんですよ。レース仕様で、エアコンなし、オーディオなしでした」。新車で購入。こうして、貴重な1台に巡り会った。
RB26DETTエンジンを搭載。その速さ、スーパーな走りの性能にもほれ込んでいるが、「速さだけじゃない、このスタイルなんです。360度どこから見てもいい。飽きない。ずっと飽きないんです」。言葉の端々から、情熱がほとばしる。
手間も時間も費用も惜しみなく。大切に乗ってきた。30年以上、スカイラインGT-R専門店に車検や整備を頼んでおり、「GT-Rの主治医である『オートギャラリー横浜』さんにお願いしているんです」。バリバリの走りは今でも健在だ。
それに、息子が免許を取って最初に乗ったのは、このGT-R。自分のこだわり、家族との思い出、GT-R愛好家やR32仲間と紡いできた人の縁。まさに人生そのものだ。
若い世代に、GT-Rの魅力を伝えたい――。自動車文化の伝承への思いを強くしている。「最近、中学生の男の子たちが『写真を撮らせてください』と来るんですよ。何人かで寄ってきて、『ゲーセンで知ったんです』って。驚いちゃったよ」。林さんはこうして興味を持ってくれた若い世代に、サービス精神で“乗車体験”を提供している。「運転席に座らせてあげるんです。みんな、本当に喜んでくれるんですよ」。カーイベント会場では、目を輝かせる学生や若者たちが、運転席に座らせてもらおうと、列をなすことも。
とびきりのエピソードもある。「ある時に大黒ふ頭で、30分以上、運転席に座った青年がいたんです。ずいぶん長いこと座っているんだなあとびっくりしました。その子とは今もLINEで連絡を取っているのですが、コーティング会社に就職して、ご厚意でホイールのコーティングをしてくれたんです。今度、大黒ふ頭で会う約束をしていて。本当に人のつながり、ありがたみを感じています」としみじみ話す。
購入当時は500万円。これまで費やした金額は「2台分ぐらいかな。でも、お金じゃない」。時と共に部品が少なくなっており、「いかに現状を維持するか」が目下の大きなテーマだ。オリジナルの盗難防止装置を取り付け、「盗難は日々心配ですが、できる限りのことをやっています」。苦労を重ね、歴史的名車を走らせ続けているのだ。

「もし次のオーナーが見つかれば、買った値段で売ります」
国産スポーツカーの旧車はグローバルで大ブーム。とりわけスカイラインGT-Rシリーズは、世界的な知名度を誇っており、中古車市場で“爆上がり”の人気が過熱している。海外の愛好家、マニアが熱視線を送っている状況だ。
「オークションで売ってどうするの? このクルマは日産の誇りなんですよ。売ったらみんな海外に行っちゃう。海外ではきれいにして乗ってくれない。お金のことは考えてません」。強い思いを口にする。
このGT-Rに関する資料、これまで取材を受けた雑誌などの切り抜き、修理・整備歴はすべて書類を丁寧に残してファイリングしている。これには深い理由がある。
「次のオーナーに託すために、こうして記録を残しているんです。もし次のオーナーが見つかれば、買った値段で売ります。このGT-Rを、ずっと愛して、長く乗ってくれる人。もしそんな人が見つかれば、譲りたいです。金もうけじゃないんですよ」。覚悟の思いを教えてくれた。
林さんは何度も、「GT-R愛」という言葉を口にした。その“証拠”を見せてくれた。立派な墓石。その正面に、見慣れたマークが見える。なんと、GT-Rのロゴマークではないか。生前の準備について、「親戚に相談して、Rの赤い文字は大丈夫かなと思ったけど、お寺さんからもOKをいただきました」。墓石に刻まれたGT-Rへの永遠の愛。「俺が死んでも、これが残れば幸せ。そう思っています」。わが子のような愛車に言い聞かせるように語りかけ、優しいまなざしを送った。
