俳優・小芝風花が、花魁の瀬川（花の井）を演じるNHK大河ドラマ『べらぼう～蔦重栄華乃夢噺～』（日曜午後8時）の取材会に出席し、瀬川の魅力や舞台裏の様子などを語った。物語は18世紀半ばに江戸のメディア王として時代の寵児（ちょうじ）となった“蔦重”こと蔦屋重三郎（横浜流星）を軸に描く痛快エンターテインメント。瀬川と蔦重は幼なじみで互いに思いを寄せる関係。

　視聴者からは瀬川に対し「美しい」だけでなく、「カッコイイ」「男前」という声も多い。小芝自身は瀬川の魅力をどうとらえているのか。

「自分の思いや感情を押し殺し、人のために、ひいては蔦重のために自分を犠牲にできるところはなかなか真似のできることではないです。境遇のこともあって絶対に結ばれないとあきらめながらも、身を切りながら蔦重の夢をサポートします。瀬川という大きな看板も背負って立ち、かっこいいと思います」

　自身との違いも尋ねてみた。NHK『あさイチ』にゲスト出演した際には瀬川の大人の色気について触れていたが……。

「あまりにも違い過ぎて難しいです。時代も違えば境遇も環境もまったく違うので。色気については演じる上で意識しました……普段、色気があるタイプとは口が裂けても言えないので（笑）。ちょっとした仕草や目線は本当に細部まですごく意識しました。メイクさんも『どうやって大人っぽく、色っぽくしたらいいんだろう』とすごく考えてくださいました。所作指導の先生にも少しでも不安があったら確認したり。瀬川は本当に複雑な感情を抱えている役なので、ちょっとした機微が伝わるように意識しました」

　真剣に懸命にそして繊細に瀬川を作り上げた様子がうかがえる。ここでソフトな質問もしてみた。視聴者の心をも引き付ける魅力的な瀬川と、もしも同じ時代に小芝が裕福な男性として生きていたら、瀬川を身請けしたいと思っただろうか。

「時代も境遇も違うので難しいですが、したいと思うんじゃないでしょうか。ただ、女性として人としてもすごく芯があって、真っすぐでカッコいいので身請けしたい気持ちはありますが、瀬川はすごく一途。初恋からブレずに10年以上も蔦重を思い続けているので、その思い人を塗り替える自信はありません。蔦重を愛する瀬川の心を私では振り向かせられないかと思います」

　瀬川は伝説の花魁。そもそも演じると知ったときはどんな心境だったのか。

「プレッシャー！『伝説』つけないでー、と思っていました（笑）。でも大河出演は夢でしたし、祖父母は大河ドラマが好きなので、おじいちゃん、おばあちゃん孝行ができた喜びがありました」

　第10回では鳥山検校に身請けされて吉原を出ていく花嫁道中が描かれた。撮影の舞台裏の様子も聞いてみた。

「花嫁道中の衣装が一番重くて、本当に布団みたいでした。セットの中で撮影しているので暑かったですし。おしろいがとれるといけないので、いろんな人が扇風機や保冷剤をたくさんあててくれるとか、すごくケアをしてもらいながらの撮影でした」

　大変なことは肉体面だけではない。瀬川として生きる小芝の心にも及んだ。

「身請けされて大門を堂々と出るのは花魁たちには数少ない希望ですが、瀬川の場合は、ここを出たら蔦重とは2度と会えないという複雑な心情。本来はうれしいはずの花嫁道中がお別れになるので、すごく苦しかったです。最後にすれ違うとき、蔦重の目を見られませんでした。蔦重を見ると出て行けなくなりそうだったので。出たら検校の妻として生きていく区切りの門。複雑な花嫁道中でした」

　ここで役へのアプローチの仕方を聞いてみた。

「まずは所作。にじみ出るものをしっかり表現したいと思いましたので、たとえば、キセルを吸う、文を書く、高下駄で歩くとか、体が覚えてナチュラルにできるように家ですごく練習しました。あとは瀬川の複雑な思いをこぼすことなく視聴者の方に届けるにはどうしたらいいかなと目の動きも考えながらやっていました。年齢的に、もしかしたら花魁を演じるのは最初で最後かもしれないので全部出し切りたいと思っていろいろ研究しました」

　小芝の撮影はクランクアップしているという。心境を尋ねた。

「最後は稲荷神社で蔦重に『心変わりなんてしないだろうね』と言ったシーンでした。やっと蔦重と思いが通じ合ったシーンでしたので、男前な感じでしたが、思いが報われたシーンでクランクアップできたので、すごくうれしかったです。やり切った安心感もありつつ、最初は私のイメージ的に花魁がピンとこないという声も聞こえ、不安でしたが、本当に細かい所まで皆さんが瀬川の感情をくみ取ってくださっていて、伝わって良かった。うれしい気持ちでいっぱいです」