元宝塚トップ娘役・海乃美月、退団後初舞台は「一皮むけるチャンス」 罪を重ねるヒロイン役で新境地

昨年7月に宝塚歌劇団を退団した元月組トップ娘役の海乃美月が退団後、初舞台に臨む。3月10日に東京・有楽町のシアタークリエで開幕するミュージカル『ボニー&クライド』(上演台本・演出:瀬戸山美咲氏、4月17日まで)で、ヒロインのボニー役に挑戦する。「一皮むけるチャンス」と燃えており、“人生の第2ステージ”にかける思いを語った。

ミュージカル『ボニー&クライド』でボニー・パーカーを演じる海乃美月【写真:藤岡雅樹】
ミュージカル『ボニー&クライド』でボニー・パーカーを演じる海乃美月【写真:藤岡雅樹】

芝居に「苦手意識あった」若手時代

 昨年7月に宝塚歌劇団を退団した元月組トップ娘役の海乃美月が退団後、初舞台に臨む。3月10日に東京・有楽町のシアタークリエで開幕するミュージカル『ボニー&クライド』(上演台本・演出:瀬戸山美咲氏、4月17日まで)で、ヒロインのボニー役に挑戦する。「一皮むけるチャンス」と燃えており、“人生の第2ステージ”にかける思いを語った。(取材・文=大宮高史)

 1930年代の米国を舞台に実在した伝説のギャングカップル、クライド・バロウとボニー・パーカーを描いた今作は、ミュージカル界の世界的ヒットメーカーとして知られる米作曲家、フランク・ワイルドホーン氏が音楽を担当。2011年に米ブロードウェーで初演、日本では12年に上演され、その後ブラッシュアップを経て22年に英ロンドン・ウエストエンドで再演となった。23年に宝塚歌劇団雪組で上演されたが、今回は瀬戸山美咲氏の上演台本・演出による新演出版となる。海乃はヒロインのボニー役を桜井玲香とダブルキャストで演じる。クライド役は柿澤勇人と矢崎広がダブルキャストで務める。

「ワイルドホーンさんが作曲するミュージカルに出演させていただくことは夢のひとつでした。ボニーはかれんなヒロインタイプではないことも含め、一皮むけるチャンスかなと思っています」

 ボニーは映画スターを夢見る少女らしい面を持つ一方で、運命的に出会うクライドと恋に落ち、罪を重ねていく。海乃は役作りについて思いを語った。

「台本と実際の歴史から、ボニーの人格がどう形成されていったか? を考えました。ボニーを14歳の少女時代から演じていくので、夢見る少女らしさをまず前面に出せたらって。『ちょっとやりすぎかな?』と思いましたが、瀬戸山さんから若々しさを褒めていただいたので、安心しました」

 そう話すと、自然と笑みがこぼれた。実は宝塚時代から、20世紀前半の米国や欧州に縁がある。米国の1920年代を象徴する作家スコット・フィッツジェラルドの生涯を描いたミュージカル『THE LAST PARTY ~S.Fitzgerald’s last day~』(2018年)ではヒロイン、スコットの妻ゼルダを好演。そのフィッツジェラルドの名作小説のミュージカル化『グレート・ギャツビー』(2022年)でヒロインのデイジーを務め、22年には第一次世界大戦後のイタリアが舞台のミュージカル『DEATH TAKES A HOLIDAY』(月組の日本初演版)で死神サーキに恋する令嬢グラツィアを演じた。

「自分でもびっくりしています(笑)。バブルのような好景気から世界恐慌が始まって、どん底に落ちていった時代で、舞台とはいえ、今の私たちとは比較にならないほど激動の時代だったと思います。今作もそうですが、不思議と縁のある時代で、なんだかもう一人の私が別の人生を歩ませてもらっているような感覚すら覚えます」と思いをめぐらせた。

 富山県氷見市出身。2011年に初舞台を踏み月組に配属された。入団4年目で『明日への指針』新人公演(入団7年目までの劇団員が出演する若手の登竜門)初ヒロイン、5年目に宝塚大劇場(兵庫・宝塚市)に隣接する小劇場、宝塚バウホール公演『A-EN(エイエン) ARI VERSION』(15年)で初ヒロインを務めるなど順調に実績を重ねた。だが、当時は意外な感情を持っていたようだ。

「もともと大ざっぱな性格なところもありますが、(当時は)そこが出てしまい、感覚だけの芝居で流れに任せてしまう時もあって、実はお芝居に苦手意識がありました」。

 そんな中、ターニングポインとなったのが、前出の『THE LAST PARTY ~S.Fitzgerald’s last day~』だ。主演は、後にトップコンビを組む男役・月城かなと。月城ら周りに影響を受け、自身も演技に向き合う姿勢が変わったという。

「(役の)ゼルダは宝塚のいわゆる娘役像の枠の中ではできない役でした。月城さんはナチュラルにち密な役作りができる方ですし、演出の植田景子先生も繊細なお芝居を重視される方で、時代も国も違うし、私自身、日ごろの感覚の延長では務まりませんでした。周りと相談しながら、しっかりと組み立てていくアプローチに変わりました」

一時は演劇から離れたものの「素敵だなと確信」【写真:藤岡雅樹】
一時は演劇から離れたものの「素敵だなと確信」【写真:藤岡雅樹】

半年間、演劇から距離を置いた

 以来、表現力に磨きががかり、2021年、月組トップ娘役に就任した。宝塚ファンの間では、芝居巧者が多いことから「芝居の月組」と称されることもあり、海乃自身、自覚が芽生え、説得力あるパフォーマンスで組をけん引した。

「下級生時代と立場も変わり、カンパニーを引っ張っていくようになったので、今までの認識を変えなければと思いました。『THE LAST PARTY』のときのように、作品の時代背景を想像したり、その時代を描いた他の作品も見たり、十分な下準備をして、稽古に入り、役に向き合うようになりました。今ではこの習慣ができないと、裸で舞台に立つような不安感すら覚えます」

 娘役としてさまざまな役を経験し、昨年7月に退団する。その後は台北城市科技大(台湾)で特任講師を務めたり、故郷の氷見市で歌・ダンスのワークショップに参加するなど、演劇から一旦離れる期間を置いた。今作が退団後初舞台となる。

「14年続けてきたお芝居について『本当に好きなんだろうか?』と自問自答する時間としてちょっと距離を置いてみたのですが、やっぱり『舞台に立つのってすてきだな』と確信しました」

 その第1弾が今作だ。演じるにあたり、愛するクライドとともに生きることを自ら選択する役柄であるところにも、ボニーの魅力を感じている。

「これまで男役さんに寄り添う役作りを突き詰めてきました。今回も柿澤さんと矢崎さん、お2人のクライドに寄り添いつつ、カップルとしてどう魅力的に映るかを考えて、最期まで付いて行く女性の美しさをお見せしたいです。田舎で育ったところもボニーと似ていますし(笑)、頑固な面もリンクしそうなので、私なりのしたたかなボニーを演じたいと思います」

 新天地でも自分らしく花を咲かせ、確かな歩みを刻んでゆく。

□海乃美月(うみの・みつき) 富山県出身。2011年に宝塚歌劇団に入団し、月組に配属。新人公演や宝塚バウホール公演などでのヒロインを経て、21年8月に月組トップ娘役に就任した。主な出演作は『グレート・ギャツビー』(2022年)、『応天の門』(2023年)など。24年7月に退団した。現在は富山県氷見市の氷見きときと魚大使、兵庫県宝塚市の宝塚市大使も務める。

ヘアメイク 小澤桜(MAKEUPBOX)
スタイリング 宇田川純子

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