東出昌大が今度はアングラ演劇で新境地 『分かる人だけが分かれば良い』は「大嫌い」

俳優の東出昌大(36)が舞台『光の中のアリス』(演出・小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク、11月1日~10日、東京・三軒茶屋のシアタートラム)に出演する。ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」を下敷きにした4人芝居で、エンターテインメントとアングラの要素が融合する前衛的な演劇。東出はなぜアングラ演劇に出演したのか。稽古場で聞いた。

舞台『光の中のアリス』の稽古に参加する東出昌大【写真:ENCOUNT編集部】
舞台『光の中のアリス』の稽古に参加する東出昌大【写真:ENCOUNT編集部】

インタビューで明かした本音「演劇は超つらいです」

 俳優の東出昌大(36)が舞台『光の中のアリス』(演出・小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク、11月1日~10日、東京・三軒茶屋のシアタートラム)に出演する。ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」を下敷きにした4人芝居で、エンターテインメントとアングラの要素が融合する前衛的な演劇。東出はなぜアングラ演劇に出演したのか。稽古場で聞いた。(取材・文=平辻哲也)

 映画、ドラマ、旅ドキュメンタリー、YouTubeチャンネル、そして猟師と、多岐にわたって活躍する東出が今度はアングラ演劇に挑戦する。8月には再婚と来春の妻の出産を発表し、私生活にも大きな変化があったが、10月上旬から都内近郊に滞在し、スタジオで稽古を積み重ねている。

「演劇は超つらいです(笑)。この演技で大丈夫なのか、と毎日悩んでいます。多分、答えが見えてこないから、苦しいんでしょうね」

 スペースノットブランクは小野彩加さんと中澤陽さんが2012年に設立し、さまざまなアーティストとともに、現代における舞台芸術のあり方を探究している2人組。岸田國士戯曲賞受賞作家・松原俊太郎さんが劇作を務めた2020年初演作を、初演キャストの荒木知佳、古賀友樹に加えて新キャストに伊東沙保、東出を迎えて再演する。

「私は、アングラ演劇で芽生えがちな『分かる人だけが分かれば良い』の精神が大嫌いです。人にお見せする以上は『老若男女に面白いと思ってもらえる作品を作れる』に越したことは無いと思います。スペースノットブランクは、ロジックがしっかりしていて、前を見据えて精一杯に可能性を探す人たちです。そこに本物の魅力を感じました」

 東出は約2年前に小野さんと中澤さんからのオファーを受けた。演出の2人、作の松原さんとは東出の山小屋でコミュニケーションを取り、出演を決めた。

『光の中のアリス』は、ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」がモチーフ。その世界観の一つになっている言葉遊びを展開し、さまざまな有名作品のオマージュを込めながら、さまざまな演劇的な企みを試みている。ジャンルを分けるのが難しい作品だが、あえて区分するならアングラ演劇になる。

「安直なことを言えば、『不思議の国のアリス』現代版です。『不思議の国のアリス』は言葉遊び、風刺が入っていて、発表当時はすごく衝撃的に受け止められたと思います。本作も、言葉遊び、時空の歪みという設定があって、ルイス・キャロルが創出した世界観に近しいのかなと思います。スペースノットブランクの2人は、自分たちが作っているものを演劇とは言わず、舞台芸術というのですが、演劇のセオリーを全部打破しているのが面白い。演劇が好きな人の中には受け入れがたいところもあるかもしれないですが、初めてこの世界に触れる人は面白がってくれるんじゃないかな、と思っています。ジャクソン・ポロックやマルセル・デュシャンのような現代アートも、はじめて世に出された時は賛否が巻き起こったように、今作も驚きを伴って受け止められるかも知れません」

アリスを探し続けるバーニーを演じる東出昌大(左)【写真:ENCOUNT編集部】
アリスを探し続けるバーニーを演じる東出昌大(左)【写真:ENCOUNT編集部】

 東出が演じるのは、劇の中では登場しないアリスを探し続けるバーニー。道化的な役回りで、長いセリフもある。

「物語を進める役回りですが、進めるとは何か、という展開もあって、一言で言い難いところもあります。一つ一つ意味を理解しながら、細かい言い回しなどは演出の二人と稽古で積み上げています。ひとつ言えるのは、二人の才能は本物ということ。観劇後すぐに感想を言語化出来ずとも、帰り道に『いやぁ凄いもの観た』とつい呟いてしまうものではないかと思っています」

 東出は映画を中心に映像作品に出演する一方、舞台には年に1回ペースで出演している。舞台にはどんな意味を感じているのか。

「舞台は映像作品に比べて時間と労力を要します。今回は2か月くらい。ギャランティーは多くはないかもしれませんが、それ以上にやりがいがあります。もちろん、お金は生きるために必要なものですが、これまでも、お金のために何でもやるという仕事の仕方をしてこなかったです。生きていて、よかったと思える時間を積み上げていきたいんです。それには人間関係をしっかり構築して、何でも思ったことを言える信頼関係がないとできない」

 本公演には従来の演劇やエンタメから逸脱した表現が取り入れられている。東出はこの「型破り」な表現を通じて、新たな演劇表現の可能性を模索している。

□東出昌大(ひがしで・まさひろ)1988年2月1日、埼玉県生まれ。2012年、映画『桐島、部活やめるってよ』で俳優デビューし、第36回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。以後、数々の作品に出演。主な作品として、第71回カンヌ国際映画祭の『寝ても覚めても』、人気の『コンフィデンスマンJP』シリーズ、第77回ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞受賞の『スパイの妻』、『Blue』、『草の響き』、『Winny』、『福田村事件』、『WILL』『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』など。『週刊文春CINEMA!』で「山暮らし日記」を連載中。

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