「世間の声、知ったこっちゃない」 血液のがんで余命10年宣告、それでも岸博幸氏がたばこをやめない理由

現在61歳の岸博幸氏は元通商産業省(現:経済産業省)官僚で、元総務大臣秘書官。現在は慶応大大学院教授として教鞭をとる傍ら、歯に衣着せぬ発言でメディアでも多方面に活躍している。昨年1月、血液のがんである「多発性骨髄腫」罹患が判明し、「余命10年」を宣告された。これまでメディアなどを通じて愛煙家としての見解を発信。闘病生活の中でも“たばこ愛”を貫く同氏にインタビュー。前編では「たばこをやめない理由」を聞いた。

岸博幸氏がタバコをやめない理由とは
岸博幸氏がタバコをやめない理由とは

昨年1月、「多発性骨髄腫」罹患が判明

 現在61歳の岸博幸氏は元通商産業省(現:経済産業省)官僚で、元総務大臣秘書官。現在は慶応大大学院教授として教鞭をとる傍ら、歯に衣着せぬ発言でメディアでも多方面に活躍している。昨年1月、血液のがんである「多発性骨髄腫」罹患が判明し、「余命10年」を宣告された。これまでメディアなどを通じて愛煙家としての見解を発信。闘病生活の中でも“たばこ愛”を貫く同氏にインタビュー。前編では「たばこをやめない理由」を聞いた。(取材・文=角野敬介)

 ◇ ◇ ◇

――まずたばことの出会いを教えてください。

「吸えるようになってから、20歳になってからすぐ吸いだしましたね。友達の影響です。そこからこの年齢まで一度もやめたことはないです。ずっと吸っていますね。(たばこが)いいかどうかはなかなか悩ましいんですけども、ずっと吸っているうちにやっぱり精神安定、気分転換……いろんな意味で不可欠になりました」

――たばこの一番の魅力はなんでしょうか。

「特に仕事をしていると感じるんですけども、仕事が一段落して気分をリセットする、落ち着けるであるとか。考えが煮詰まっちゃっている時にたばこを吸って、少し頭の中を綺麗にするというか、まさに仕事を進める上で不可欠の道具という意識ですね」

――一番吸っていた時期はいつですか。当時と比べると今はどうでしょう。

「やっぱり役人をやっていた時代はそれなりに残業も長くて長時間勤務でしたから、あの頃は1日に30本ぐらいは吸っていた気がしますね。今は極端に減っています。役人時代の1日30本はやっぱり多いなって。役所を辞めた後は1日20本くらい。今は当然、多発性骨髄腫という病気ですので、主治医からはたばこはやめろということを言われています。ですが、そう簡単にはやめられない。病気に良くはないというのもありますので、今は1日にせいぜい7、8本ですかね。

 決して我慢しているというわけではなくて、これくらいが適正かなと思います。アルコールなどにも当てはまる話なのですが、病気でそこまで体調が良くない中だと、ニコチン、アルコール、カフェインなんかは摂取量の上限があると思うんですよ。それを超えると、体調は悪くなります。今の体調に合った上限が7、8本だろうなと」

――医師からは1本も吸うなと。

「基本的にはやめるべきだと言われています。たばこを吸っていると、肺の細胞がやられて感染症にかかりやすくなると。特に私は多発性骨髄腫で、より感染症にかかりやすい。そういう意味でも、喫煙は非常にリスキーなもので。当然妻からも言われていますよ。やめなさいと」

――そういう状況の中でもやめない、やめられないというのはなぜでしょうか。

「自分が好きなことを、やめる必要ないじゃんと思うわけです。元々たばこは体に良くないとわかっているわけですから。それをわかっていても、長年ずっと吸っているわけ。それは自分の精神的な安定とか、気分転換とか、そういったものにプラスだと思っているからやっているわけです。だから病気の観点で、いわゆる肉体的な面で見ると体に良くないだろうねとは思いますが、精神的な部分ではまだ自分には必要だと思っているので、必要最低限の本数は吸っている感じですね。やめてくださいと言う方とは平行線ですよ。当然、医者は肉体的な面しか考えていませんから。こちらは精神的な面を考えていますから、そこはすれ違いですよね」

――病気になってもやめようとは全く思わなかったわけですね。

「そうです。それはもうシンプルに、自分にとってのたばこの意義というのは、そういう精神的な部分ですから、それは必要だよねと。だから、せめて本数は減らしているということですよね。愛煙家には共感を得られるかもしれないけど、吸わない人からするとバカですよね(笑)。残りの人生は10年くらいだと言われていますけども、なら別に好きなことをやってもいいじゃんというだけです」

――残りの人生10年が、もしかしたら短くなるというリスクがあってもやめる必要はないと。

「それはどうなるかわからないですけど、少なくとも自分にとっての意義を、自分が感じられるうちは吸います。その結果がどうなるかは、とりあえずはよくわからないなということですよね」

――近年、喫煙者に対する風当たりは強まる一方です。いわゆる世間の声はどう受け止めていますか。

「世間の声なんて、知ったこっちゃないですから。もう数十年は続いている“たばこは体に良くないよね”っていうのは、元々WHO(世界保健機関)が言い出したことなんですよ。彼ら(WHO)のたばこは良くないという主張の根拠の分析を見ると、たばこと喫煙と肺がんの間に何らかの因果関係はあると思うけども、たばこを吸ってるから肺がんになる人が多いという相関関係があると、僕は思っていませんから。

 元々僕はWHOのデータがいかがわしいと思っています。一方でそれがいかがわしくない、という医者が多くいるのも事実。だから彼らとは意見が違うだけで、僕は彼らの意見が正しいと全く思っていませんので。だから世間がどう言おうと、僕は元々のWHOの主張がおかしいと思っていますから、世間からどう見られようと知ったこっちゃないというのが正直なところです」

――新幹線で喫煙ルームがなくなったり、たばこを吸える場所は減り続けています。そういった動きに関しては率直にどう感じられていますか。

「結論から言えば、僕は日本では喫煙に関しては過剰な規制が行われていると思っています。例えばアメリカに行ってもヨーロッパに行っても、建物の屋内は禁煙ですが、一歩外に出れば基本的にたばこは自由に吸えますから。日本では屋外も含めて自治体がいろいろな規制をしている。飲食店の全面禁煙もそうですが、僕は過剰規制だと思っています。ただ過剰規制だからルールを破っていいとは思っていません。それが間違っていると思っていたとしても、ルールがある以上はそれを守らなければなりません」

(21日掲載の後編へ続く)

□岸博幸(きし・ひろゆき)1962年9月1日、東京都生まれ。86年に一橋大学経済学部を卒業し、通商産業省(現経済産業省)入省。90年よりコロンビア大学経営大学院に留学しMBAを取得後、通産省に復職。内閣官房IT担当室などを経て、竹中平蔵大臣の秘書官に就任。2006年、経産省を退官。現在は、慶応義塾大学教授、エイベックス取締役、格闘技団体「RIZIN」アドバイザーなども務めている。今年3月に著書『余命10年 多発性骨髄腫になって、やめたこと・始めたこと。』(幻冬舎)を出版。

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