言い続けた「ごめんね」 デビューから1年以上未勝利だった鈴木志乃が、自力初勝利を手に入れるまで
2022年3月にアップアップガールズ(プロレス)のオーディションに応募、8月には入門しアイドルデビューを果たした。そして翌3月にプロレスラーデビュー。元バスガイドの鈴木志乃は激動の2年間を過ごしてきた。そしてデビューから1年、なかなか勝ち星に恵まれず、東京女子プロレスの中で「唯一自力勝利をしたことのない選手」になってしまったことがあった。しかし、先日5月6日に行われた後楽園ホール大会で“そのとき”は訪れた。
5月6日の後楽園ホール大会で自力初勝利
2022年3月にアップアップガールズ(プロレス)のオーディションに応募、8月には入門しアイドルデビューを果たした。そして翌3月にプロレスラーデビュー。元バスガイドの鈴木志乃は激動の2年間を過ごしてきた。そしてデビューから1年、なかなか勝ち星に恵まれず、東京女子プロレスの中で「唯一自力勝利をしたことのない選手」になってしまったことがあった。しかし、先日5月6日に行われた後楽園ホール大会で“そのとき”は訪れた。(取材・文=橋場了吾)
2023年は東京女子プロレスにとって、新人の当たり年となった。1月に上原わかな、HIMAWARIが、3月に鈴木志乃、凍雅、大久保琉那、風城ハルがデビューを果たした。
「年齢も性格も違う6人ですが、プロレスのスタイルも違います。でも、皆根が優しい子たちばかりなので、練習でもアドバイスし合いながら得意な部分を伸ばせるのでうれしいですね」
とはいえ、レスラーとしてはライバル同士。誰が自力初勝利を飾り、注目される試合が組まれるのかはファンの間でも話題になっていった。23年デビュー組で自力勝利がないまま1年が経過したのは鈴木だけだった。
「トーナメントの終わりくらいから、いろいろな人から“初勝利”の話をよく言われるようになりましたね。(風城ハルに初勝利を献上した)2月10日の特典会は、ファンの皆さんの前に出て『ごめんね』と言い続けるのはしんどかったです。やっぱり、皆さんの熱い思いは伝わっているので、その思いに応えられずプレッシャーを感じていた自分がいて」
その後楽園大会では風城にシングルで負け、3月31日の両国国技館大会では6人タッグマッチで初勝利のチャンスがあったものの、風城が新技のフィッシャーマンズ・スープレックスを炸裂させて鈴木のパートナーの七瀬千花にピンフォール勝ち。またも初勝利を逃した鈴木だが、ここで”ブースト”がかかったという。
「まず後輩(七瀬、キラ・サマー、高見汐珠)ができたことで自分の中で初勝利へのブーストがかかりました。彼女たちがデビューするまでの数日間、私は“東京女子プロレスで唯一自力勝利がない選手”になってしまったので。そして3月の両国ですね。もう綺麗ごとを言っていられないなという感じで、もっともっとプロレスに死ぬ気で取り組もうと。で、ハルが新技で勝ったときに会場が凄く盛り上がって『ハル、凄いな!』と思うのと同時に『自分もこの歓声を上げられるようにならなきゃ!』と凄く悔しくなったんです。一緒に練習してきたハルが、お客さんの心をここまで動かしたことでさらにブーストがかかりました。そこからまた一生懸命練習して力をつけて、頑張らないといけないなと思いました」
5月6日、後楽園ホール大会。鈴木は同期である凍雅とのシングルが組まれた。その恵まれた体格から繰り出されるパワーあふれる技の数々は、すでに新人の域を超えているという声も聞かれる凍雅。どん欲に初勝利を狙う鈴木は、試合に集中しきっていた。アップアップガールズ(プロレス)の歌のコーナーの入場時に遅れ、自己紹介のタイミングもずれてしまった。
「試合に集中するあまり、リストバンドをしていないことに気づいてリングに行くのが遅れてしまって、その動揺もあって自己紹介も遅れてしまうという……もう気が気でないというか」
歌のコーナーの直後の第1試合、鈴木は凍雅の強烈なエルボーを食らいまくってしまう。
「本当にヤバかったですね。でも凍雅ちゃんは上の方で試合もしているし、私を下に見てもいい立場だと思うんですが、あんなにバチバチ来てくれて。本気でぶつかってきてくれて、エルボーは痛くてつらかったんですが(笑)、嬉しかったですね」
初勝利にセコンドについた風城ハルが涙、鈴木「凄く嬉しかった」
自ら「運動神経は良くない」という鈴木は、ひとつひとつの技の精度を上げて勝負を賭けてきた。そのひとつがスリーパーホールド。普段は見せない胴締めを組み合わせて、凍雅の意識を飛ばしにかかった。
「私はスリーパーで決めるつもりで戦いました。胴締めも加えて、試合を終わらせる。でもロープエスケープされちゃって、成す術なしですよ(笑)。でも手札はなくとも諦められない、今日は絶対に勝つんだという気持ちでネックブリーカーにいったらかわされて……もう見栄えも何も気にしないで、勝ちに行きました」
結果、8分21秒、後方回転エビ固めで鈴木は自力初勝利を達成。試合後に初めて、自分の入場曲が流れた。そして、セコンドについていた風城が涙ながらに肩を貸した。
「試合中はいっぱいいっぱいで、最後にようやくお客さんの声が聞こえて……体が揺れるというか声の圧力にびっくりしました。本当に自分に向けられている声なのかなって。(風城の声は)聞こえました! 前日から『絶対セコンドにつきます』と言ってくれて、ハルも大切な試合(vs伊藤麻希戦)が控えていたのに……凄く嬉しかったですね」
ようやく得た初勝利。しかし、その日上原とHIMAWARIは敗れたもののプリンセスタッグ王座に挑戦し、「23年デビュー組のトップランナー」と呼ばれる同期との“差”を感じたという。
「でも明らかに自分が劣っている瞬間こそ燃えるというか、どうにかしてやりたくなっちゃうんですよね。負け過ぎていて負けず嫌いって印象がゼロに等しいかもしれないですけど、実際はめちゃくちゃ負けず嫌いなんですよ。noteでもプロレスのことを書いてこなかったんですが、ようやくプロレスに関する夢や目標を皆さんに言える権利を得た気がして、未来が広がった感じです。ここからは“同期狩り”ですよ(笑)。デビューの発表も最後、初勝利も最後だった鈴木志乃が、下剋上じゃないですけどひっくり返してやります!」