萩原聖人、雀士の運は「ないんです」 代表作多数も「キャリアの話をするのは苦手」なワケ

佐藤隆太主演の舞台「『GOOD』-善き人-」(4月6日~21日、世田谷パブリックシアター、4月27日~28日兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール、演出・長塚圭史)に出演する俳優・萩原聖人(52)。1987年にデビューし、キャリアは37年にも及ぶ。萩原にとっての転機とは?

インタビューに応じた萩原聖人【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じた萩原聖人【写真:ENCOUNT編集部】

舞台『GOOD』は「いろんなトライができる」

 佐藤隆太主演の舞台「『GOOD』-善き人-」(4月6日~21日、世田谷パブリックシアター、4月27日~28日兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール、演出・長塚圭史)に出演する俳優・萩原聖人(52)。1987年にデビューし、キャリアは37年にも及ぶ。萩原にとっての転機とは?(取材・文=平辻哲也)

 映画では『月はどっちに出ている』、『マークスの山』(ともに崔洋一監督)、『CURE』(黒沢清監督)、声優としても活躍し、韓国ドラマ『冬のソナタ』のペ・ヨンジュンの吹き替え、NHK『コズミックフロント☆NEXT』のナレーションなども印象深い萩原。長いキャリアの転機について聞くと、意外な言葉が返ってくる。

「よく聞かれるんですけど、自分では分からないんです。全ての作品が転機だと思いますし、その出会いの中でいろんな役者さん、監督、スタッフ、プロデューサーにインスパイアを受けて、今の自分がいる。正直、僕のキャリアなんて、あってないものだと思っている。終わったものは、もう自分ではない気さえするんです。これって、現実だったのかなって」

 ミック・ジャガーは「ベスト・アルバムは?」と聴かれて、「それは最新作だ」と言っていた。萩原にもそんな感覚があるのかもしれない。過去は過去、その囚われ人にはなりたくない、と。

「キャリアの話をするのが本当に苦手です。今やっているものに関してはこういう思いでやれているのがあるので、話しやすいのですが、もう終わったものは、自分ではどうにもならない。変えられないものだけが残っていく。もし、俳優をやり切って死ぬなら、その転機はあるんでしょうけどね。それは分からないことだから」

 代表作は公式プロフィールにも記しているが、転機になったのはそれだけではない、と萩原は考えている。

「売れるきっかけになった作品は分かりやすい転機だとは思いますが、多分、その前にも転機はあって、大きな役じゃなかったけど、あのオーディションに受かったことが、というのが繰り返し続いているのだと思います。今後も、大きな転機と言われるものがまた来るかもしれないし、今やっている舞台かもしれない」

 いつも「いい仕事やいい作品に出会いたい」と思っている。俳優として大事にしていること、心がけていることを質問すると、「それは難しい質問ですね」と苦笑いを浮かべる。

「自分は、何も心がけてないんじゃないかという気がしてきました(笑)。人に向かって、声を大にして言えることはないかな。役者として、常に全部を100%で向き合ってきたか、と言われたら、そうじゃないものもあったと思うんです。この舞台(『GOOD』)も、今は100%で取り組んでいるつもりですが、終わってみたら、余力が残っているかもしれない。自分が長くやれたのは、運だと思っています」

 萩原にはプロ雀士としての顔もある。雀士には運も必要だろう。

「それが、雀士の運はないんですよ(笑)。だから、本当に運が欲しいですね。その話で言えば、舞台は運の要素に頼らないで、稽古できる時間が与えられている。映像作品は時間的な制約もあって、どこかで折り合いをつけて、ベストな選択をしないといけない。その点、舞台は時間が長い。考えて、悩むことが許される。それは贅沢(ぜいたく)なことだと思うんです」

 初の本格タッグとなる演出家の長塚圭史氏との仕事は居心地のいい現場だという。

「舞台のいろんなトライができる。長塚さんはそういうタイプの人で、自由度が高いので、すごく勇気が持てる。この年になって、勇気を持つのは結構、大変なことなんです。すごく居心地はいいですが、うまくできるかは別問題なので、甘えないようにしたいと思っています」

 舞台「『GOOD』-善き人-」は、イギリス演劇の話題作。善良で知的な大学教授ハルダー(佐藤)が意図せずヒトラーに気に入られてしまい、自らが生き残るために、ユダヤ人精神科医の親友モーリス(萩原)を裏切るというストーリー。善き人とはなにかを問いかける。

「長塚さんはご自身で脚本をお書きになって、そのこだわりを膨らますことが多い方ですが、今回の作品は(翻訳戯曲という)制約がある中、大事なテーマを伝えようとしています。それができるためには、俳優がどれだけ負荷をかけた状態で舞台に立てるかが大事だと思っています」と舞台への決意を語った。

□萩原聖人(はぎわら・まさと)神奈川県出身。1987年に俳優デビュー。93年、『学校』、『教祖誕生』、『月はどっちに出ている』で日本アカデミー賞優秀新人俳優賞と話題賞(俳優部門)、95年、『マークスの山』、97年には『CURE』で同賞優秀助演男優賞ほか数々の賞を受賞。以降も映画、ドラマ、舞台、ナレーションなど幅広く活躍している。
近年の主な出演作に、映画『Fukushima 50』(20)、『島守の塔』『今夜、世界からこの恋が消えても』『餓鬼が笑う』(22)、『君は放課後インソムニア』(23)、ドラマ『トッカイ~不良債権特別回収部~』(21/WOWOW)、『新聞記者』(22/Netflix)、『TOKYO VICE』(22/WOWOW)、『神の子はつぶやく』(23/NHK)、24年は『牙狼<GARO> ハガネを継ぐ者』(TOKYO MX・BS日テレ)、『厨房のありす』(NTV)、舞台では『魔術』(16)、ナイロン100℃ 45thSESSION『百年の秘密』、『7Days Judgement-死神の精度-』(18)、KERA・MAP#010『しびれ雲』(22)などがある。

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