世界初舞台化の『ジョジョの奇妙な冒険』 「メメタァ」「URRYYY」…原作ファンもうれしい擬音再現【観劇リポ】
東京・帝国劇場で上演されたミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』が、2月29日に千秋楽を迎え、3月26日からの札幌公演、4月9日からの兵庫公演を控える。同作は、シリーズ累計発行部数1億2000万部の荒木飛呂彦氏による漫画“ジョジョ”シリーズが原作。世界で愛される同シリーズ初の舞台化で、第1部「ファントムブラッド」をベースにしている。役は俳優の松下優也と有澤樟太郎が“ジョジョ”をダブルキャストで務め、声優で俳優の宮野真守がディオを演じた。今回は2月の帝劇公演の様子をお届けする。
3月26日から札幌公演、4月9日から兵庫公演
東京・帝国劇場で上演されたミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』が、2月29日に千秋楽を迎え、3月26日からの札幌公演、4月9日からの兵庫公演を控える。同作は、シリーズ累計発行部数1億2000万部の荒木飛呂彦氏による漫画“ジョジョ”シリーズが原作。世界で愛される同シリーズ初の舞台化で、第1部「ファントムブラッド」をベースにしている。役は俳優の松下優也と有澤樟太郎が“ジョジョ”をダブルキャストで務め、声優で俳優の宮野真守がディオを演じた。今回は2月の帝劇公演の様子をお届けする。(取材・構成=コティマム)
(※以下、内容に関する記載があります)
当日のキャストは、“ジョジョ”を有澤、“ジョジョ”に〈波紋法〉を伝授するウィル・A・ツェペリ役を東山義久(廣瀬友祐とのダブルキャスト)が務めた。その他、“ジョジョ”の想い人エリナ・ペンドルトンを清水美依紗、“ジョジョ”の仲間のスピードワゴンをラッパーのYOUNG DAIS、ディオの父で小悪党のダリオ・ブラントーにコング桑田、“ジョジョ”の父でディオを養子に迎えるジョースター卿を別所哲也が演じた。
舞台は19世紀末の英国。“ジョジョ”こと主人公ジョナサン・ジョースターと運命的な出会いを果たすディオ・ブランドーを中心に、〈謎の石仮面〉をめぐる熱き戦いと奇妙な因縁を描いた。テーマとして訴えかけくるのは、『正義』の捉え方だ。一見、『悪』に思える考え方も、違う視点から見ると『正義』となり、どちらが正しいのか、何が正しいのか、わからなくなる。
ジョースター卿のもとで厳しくも温かい教育を受けて育った“ジョジョ”の基に、スラム街で育ったディオがやって来る。ディオの父・ダリオがかつてジョースター卿の命を救ったことから、ダリオ亡き後、ジョースター卿に引き取られたのだ。しかし、実際は、ダリオは瀕死のジョースター卿を発見した際に金品を盗もうとしており、目が覚めたジョースター卿は「ダリオに救ってもらった」と勘違いしていたのだった。
ジョースター卿のもとで生活するようになったディオは、少しずつ“ジョジョ”の生活を脅かしていく。頭も運動神経も良いディオはすぐに周囲に認められ、なじんでいく。“ジョジョ”以外の人々の前ではスマートで優等生なディオだが、“ジョジョ”には敵対して悪態をつく。ディオは、“ジョジョ”の想い人のエリナやジョースター家の財産など、全てを奪う計画だった。
ディオの“ジョジョ”への執着は、ディオが序盤に歌う楽曲『ディオ』にも色濃く表れている。「なぁ、ジョースター お前は持っているだろう」と、“持つ者”への怒りと、それを奪ってやろうとする執念が表現されていた。そして、歌詞の通りに、ディオはジョースター家を侵食していく。
ある時、ジョースター卿は“ジョジョ”とディオに、“主君のために命を捧げる2人の騎士”の話をする。鉄格子にとらわれ、主君のためにこれから命を落とす2人の騎士が外に見ていたのは、「目の前の泥だろうか、それとも頭上に輝く星だろうか」とたずねる。正義感が強く純粋な“ジョジョ”は「星」と答え、「(死も)名誉に刻まれる」と考える。一方のディオは「泥」と答え、「生きて何を成すのか」にこだわる。2人の考え方や生き方は、舞台を通して“星と泥”という表現で対比される。
一見すると、ディオは『悪』。しかし、父から暴力や虐待を受け、早くに母を亡くし、劣悪な環境で生き抜かねばならなかったディオにとって、ジョースター家の乗っ取りは人生をかけたチャンスでもある。純粋な“ジョジョ”の『正しさ』は分かりやすいが、ディオ側の『正義』も観客に訴えてくるものがある。
肉体の動きで見せる〈波紋法〉やラップ楽曲など演出も斬新
演出面でも、原作を再現するための工夫が見られた。〈波紋法〉の波紋だ。闇の力を持つ〈謎の石仮面〉を利用して強大な力を持ってしまったディオに対抗するため、“ジョジョ”はツェペリからの厳しい修行の末に〈波紋法〉を体得する。その波紋が相手に伝わる様子を、複数人の“肉体の動き”を使って再現している。“ジョジョ”の放つ波紋が確実に相手に伝わっていく様子が、アナログな人間の身体の動きで表現された。
また、語り部としても登場するYOUNG DAIS演じるスピードワゴンの楽曲が、全てラップなのも新鮮だ。リリック制作にYOUNG DAIS自身も関わり、正義や貧困、星や泥といった作品のテーマに沿った歌詞をラップで披露している。オーケストラピットではなく、ステージ左右から聞こえてくるバンドの生演奏も迫力がある。
また、“ジョジョ”作品には欠かせない“擬音”も登場した。ツェペリが〈波紋法〉でカエル越しに岩を砕く際の音「メメタァ」や、波紋カッターを出す際の「パパウ、パウパウ」、「URRYYY」など、原作ファンにはたまらない擬音が散りばめられている。さらに“ジョジョ”の「君がッ 泣くまで 殴るのをやめないッ!」、ディオの「貧弱! 貧弱ゥ!」、ツェペリの「人間讃歌は勇気の讃歌!」といった名言も、セリフや楽曲に取り入れられている。
『ハイキュー』や『刀剣乱舞』などの舞台、2.5次元ミュージカルで活躍する有澤が演じる“ジョジョ”は品があり、まさに純真なイメージ。声優として数々の有名作品で主演を務め、俳優としても活動する宮野のディオからは、「父のようになりたくない葛藤」や、「奪うために生き抜くしぶとさや力強さ」が表れていた。
さらに、注目はディオの父・ダリオを演じたコング桑田だ。ソウルシンガーやタレントを経て、『レ・ミゼラブル』などのミュージカルで活躍するコングの歌声は、重厚感と聞き応えがあった。序盤で亡くなるダリオは、その後も亡霊としてディオの前に現れ、度々、ディオを苦しめる。重低音で「ディ~オ~、ディ~オ~」と響く歌声は、ディオだけでなく観客も暗闇の世界へ引き込んだ。
また、同作には、TBS系『VIVANT』でドラマ初出演ながら、物語の鍵を握るワニズ役を務めた河内大和も出演。ジョースター家と親交のあるアーチャー警部と、ディオの配下・切り裂きジャックの2役を演じた。ミュージカル初挑戦で帝国劇場の舞台に登場し、宮野とデュエットを披露した。
原作ファンもミュージカルファンも楽しめる『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』はツアーが展開され、3月26~30日に北海道・札幌文化芸術劇場 hitaruで、4月9~14日に兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホールで上演される。また、4月13日の兵庫公演17時回と14日の兵庫大千穐楽公演12時回はライブ配信も予定されている。