『不適切にも』クレームが「全然来ない」 絶大な“テロップ効果”に番組Pも驚き「今までも出しておけば」

俳優の阿部サダヲが主演を務めるTBS系連続ドラマ『不適切にもほどがある!』(金曜午後10時)。昭和のおじさんが“不適切”な言動を連発しながらも、現代の問題に考えるきっかけを与え、視聴者を大いに楽しませている。そんな本作を手がけるTBSの磯山晶(いそやま・あき)プロデューサーにインタビューし、製作の舞台裏や予想外だという反響について話を聞いた。

昭和のおじさん・小川市郎(阿部サダヲ)が令和で“不適切”を連発する【写真:(C)TBS】
昭和のおじさん・小川市郎(阿部サダヲ)が令和で“不適切”を連発する【写真:(C)TBS】

磯山晶プロデューサーにインタビュー

 俳優の阿部サダヲが主演を務めるTBS系連続ドラマ『不適切にもほどがある!』(金曜午後10時)。昭和のおじさんが“不適切”な言動を連発しながらも、現代の問題に考えるきっかけを与え、視聴者を大いに楽しませている。そんな本作を手がけるTBSの磯山晶(いそやま・あき)プロデューサーにインタビューし、製作の舞台裏や予想外だという反響について話を聞いた。(取材・文=猪俣創平)

 宮藤官九郎氏が脚本を務める本作は、阿部演じる昭和のおじさん・小川市郎が、1986年から2024年の現代へタイムスリップ。令和では“不適切”なコンプライアンス度外視の発言をさく裂させ、令和の人々に考えるキッカケを与えていくタイムスリップコメディーだ。

 磯山氏と宮藤氏は、阿部も出演した『池袋ウエストゲートパーク』や『タイガー&ドラゴン』など数多くの作品でタッグを組んできた。2人は日頃から企画の打ち合わせを重ねているとして、「自分たちも中年になって、ラブストーリーだけという話を作るのも難しいから、中年の人が頑張るドラマがいいですよね」と話し合い、構想を膨らませていった。

 今作は世代間の意識の違いやコンプラなど、現代的なテーマに新たな気付きを与えていくことが毎話の見どころで、タイトルの通り“不適切シーン”が続出する。アバンタイトルの直前には、「この作品には、不適切な台詞が含まれていますが、時代による言語表現や文化・風俗の変遷を描く本ドラマの特性を鑑み、1986年当時の表現をあえて使用して放送します」と注釈テロップがはさみ込まれる。お決まりとなったこの演出は、どのような経緯で誕生したのだろうか。

「最初は不適切セリフに『ピー』とか『バキュン』といった効果音を入れようと言っていたんです。でも、何をしゃべっているか分からないとなって、『だったら最初に全部謝っちゃえばいいんじゃないか』という話になりました。それで、冒頭にテロップを入れる形に落ち着きました」

 しかしながら、“お断り”があるからといって、時代にそぐわない言葉やセクハラ、パワハラシーンのオンパレードに視聴者からクレームが入らないのだろうか。磯山氏は予想外の反響だったと振り返る。

「ドラマが始まる前は『チャレンジングな企画ですね』と言われていたので、クレームがすごく来るのかなと構えていました。でも、全然来ないですね。過去のドラマでは『このドラマはフィクションです』と最後に出してはいましたけど、批判が寄せられていました。ドラマ内容は今回と同じフィクションですし、そんなに変わりません。だから、今までも今回みたいにテロップを出しとけばよかったのかな、なんて思ってしまいますね(笑)」

 その一方で、批判の声がないのはテロップの効果以外にもあるのだと分析する。

「意識改革を求めている舞台がテレビ局だから怒られないのかなと。テレビ局の人って、自分たちに何か刃を向けられたときに『失礼な!』と怒れないんですよね。常に怒られていて、謝ってるから(笑)。たとえば、舞台が他の組織だと『うちはそうじゃない』とか『そうじゃない人もいる』とお叱りを受けることがあるので、テレビ局だから怒られないんだな、という気もしています」

昭和の小ネタも盛りだくさんな演出が詰まっている【写真:(C)TBS】
昭和の小ネタも盛りだくさんな演出が詰まっている【写真:(C)TBS】

芸人起用は「お芝居が上手な方が多いから」

 今作はコメディーとして笑えるシーンも豊富だ。これまでの放送では、俳優の八嶋智人や松村雄基らが本人役で登場。さらには、ロバートの秋山竜次と山本博、おぎやはぎの矢作兼、サルゴリラの児玉智洋などお笑い芸人も数多く出演した。磯山氏は「キャスティングがすごく楽しい作業でした」といい、その狙いを説明した。

「芸人さんはお芝居が上手な方が多いことが理由の1つですね。もう1つは、このドラマは『見て楽しんでほしい』という思いからです。次から次へといろんなことが起こって、ワーって楽しむ話ですから、『あの人が出てきた』『この人も出てきた』と楽しめる作品にしたいんです。でも、やはり演技力はほしいので、ただただ旬な人を起用すればいいというよりも、『あの人がこの役やったら面白そうだね』と考えてキャスティングしています」

 昭和が舞台とあって、懐かしい芸能人や小ネタなども盛りだくさんに詰まっているが、「出てくる固有名詞に関しては、ほとんどが宮藤さんの言いたい人ですね」と、宮藤氏の発案が大半だという。ただし、誰でもいいわけではなく、「さじ加減が難しいです。そのなかで、みんなでアイデアを出し合うこともあります」とスタッフも協力して“昭和小ネタ”をピックアップしていると明かした。

 毎週放送後には好意的な声が多く上がり、考察や昭和ネタなどでSNSが盛り上がるのも本作の特徴。放送開始当初、磯山氏は「昭和を生きた人は懐かしんでくれるかな」と想像していたが、周囲から「子どもと一緒に見て、お父さんの時代はこうだったという会話になった」との声もあり、手応えをつかんでいる。

 さらに、今作は男性の視聴者が多いことも意外だったようだ。「テレビドラマは女性の視聴者が多いんですけど、今回は男性の方にも多く見ていただけています。それもうれしいですし、これまでのドラマが恋愛に特化しすぎていたんじゃないか、とも考えてしまいますね」と口にした。

 見る者を楽しませる工夫が詰まった今作。幅広い世代や家族で楽しんでほしいといい、「どこかの世代に刺さるものが少しずつ波及して、親や子どもの会話の糸口になるのは、なかなかすてきだなと思いますね。最近は一人でドラマを見る方が多いですが、みんなで見て『あれってこうなの?』って会話が家族や友達の間で行われていくと、すごくうれしいですね」と期待を込めた。

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猪俣創平

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