芸歴1年目・はるかぜに告ぐの緻密な戦略 容姿への注目は作戦通り「あえて覚えやすい形に」
昨年12月に行われた日本テレビ系『女芸人No.1決定戦 THE W 2023』決勝で結成1年目ながら完成度の高いしゃべくり漫才を披露し話題となったお笑いコンビ・はるかぜに告ぐ(一色といろ、とんず)。サブカル系×お嬢さま、大阪を拠点に活動する“はる告ぐ”とはいったい何者なのか。『THE W』出場後の変化や素顔に迫った。
大阪を拠点に活動する話題の若手コンビ
昨年12月に行われた日本テレビ系『女芸人No.1決定戦 THE W 2023』決勝で結成1年目ながら完成度の高いしゃべくり漫才を披露し話題となったお笑いコンビ・はるかぜに告ぐ(一色といろ、とんず)。サブカル系×お嬢さま、大阪を拠点に活動する“はる告ぐ”とはいったい何者なのか。『THE W』出場後の変化や素顔に迫った。(取材・文=島田将斗)
1年目とは思えないほど落ち着いている。「売れへんくても面白い」――。決して力を抜いているわけではない。慣れない仕事量に苦戦もしているが、若手コンビとは思えないほど、堂々としていた。
TOEICのスコアは810点。27歳のといろは芸人とはほど遠い人生を歩んできた。芸人になる前は広告会社に務めウェブディレクターをしていた。コロナ禍で在宅勤務になり、「運動不足解消」のためNSCに入学した。
「大学生のときにウェブライターをしていたんです。そこの編集長が吉本に15年くらいいた人で、その人から『NSCは芸人になる気なくても楽しい』って話を聞いたりしていたので、ちょっと気になってはいたんです。週5日授業もあるし、運動不足解消にぴったりやなと」(といろ)
小学校から高校まで私立で育った。節目のタイミングでなりたい職業について考えることはあったが「お笑いは1度も候補に入ったことはなかった」と振り返る。さらに「いまお仕事いただいているから良いですけど、すごい落ちぶれましたね」と笑顔で自虐した。
「芸人は1つの職業として楽しそうだなって気持ちはありました。タバコを吸って、酒飲んで、ずっと子どものままみたいな……」(といろ)と横をちらり。
すかさず、とんずは「おう、それわしやないかい!」とツッコミをいれる。インタビューでもテンポがいい。
一方の25歳のとんずも1年半会社員として働いていた経験がある。それでも中学生の頃からの夢は芸人だった。貯金を作ってNSC入りを決断した。
「中学のときに芸人になることは決めていたので、許婚がおるみたいな感覚でした。それまではやりたいことを全部しようと思って、ひたすら趣味に没頭していました。浅く広く、ほんまにどないな話でも合わせられます」(とんず)
今でもサブカル系が好き。一通り遊んだあとにバンドをやりたかったというが、「公式ドッジボール」のプレイ中に指を骨折。医療大学出身の知識で自身で治療を試みるも失敗した。指は曲がったままでギターが弾けなくなったため、芸人を始めることとなった。
はるかぜに告ぐは、とんずがピンで活動していたといろを誘ってできたコンビ。「マジで正反対のやつおる」が第一印象だった。
「ネタ動画をグループLINEに載せてテレビにオーディションしてもらうことがあったんですけど、マジで真反対なやつおるなって見てた。なんかお嬢さまキャラみたいな。自分にはできひんと思って目はつけてたんですよ。同期ライブで、といろさんがやってたネタ見たら死ぬほどおもんなくて、あたしがネタ書いた方が絶対おもろなるわと思って」(とんず)
2022年7月、以前のコンビを解散したとんずは、そのままといろをコンビに誘った。最初は1か月契約から始まったが、賞レースはとんとん拍子で進み、現在に至る。「解散する間もなく、先に一緒に出なあかんものがあり続けて、ここまで来たもんで。だからコンビ名の由来とかマジでほぼないんです」(とんず)と苦笑いだった。
NSC在学中から『M-1グランプリ 2022』3回戦進出
NSC在学中から『M-1グランプリ 2022』3回戦進出、『THE W』ではファイナリスト進出と文字通り激動の1年だった。NSCでの授業が多かったため、ネタ合わせは基本的に授業の直前のみ。ここまで実戦で経験を積み上げてきた形だ。
「そのためにも劇場に入りました。ネタ合わせをしても飛ばすときは飛ばす。逆に合わせなくてもいけるときはいけるんですよ。人前でやってウケ方を見てやらなしっくりこないから、どうせ。劇場さえ入れば、月3本は保証されるので、そのために逆算して考えていましたね」(とんず)
『THE W』の舞台では、しゃべくり漫才を披露し、トップバッターだったまいあんつに4―3で勝利。続くスパイクに7―0で敗戦も漫才の完成度は視聴者や審査員に大きなインパクトを与えた。また、2人の見た目も話題となり、“美人コンビ”と紹介されることも増えた。
先を考えて逆算して動くタイプというとんずは、「言い過ぎぃ、言い過ぎぃ! 言い過ぎやでぇ!」と照れくさそうにする。続けて、「マジでNSC入るまではブスキャラだったんです」と明かした。
「NSC中のネタで『ブスだから整形した方がいい』ってネタを自分で書いたんですけど、『ブスじゃないから入ってこない』と言われました。“いじりやすいブス”と思ってたんですけど、そこで世間とのズレに気が付きました。そこから『ちょっときれいにしとかなあかんな』が良すぎたというか、世間に刺さりすぎてしまったというか……」(とんず)
金髪メッシュに襟足は長め、バンドをやってそうなサブカル系のとんずに黒髪ストレートで白のワンピースを着ているといろ。一目見ただけでも真逆と分かるが、これは2人の戦略だった。
「人って3つ特徴あったら覚えやすいんですよ。声と髪とメイクとかをあえて覚えやすい形にしているんです。といろさんは黒髪に白ワンピで。自分だったら声と髪とこの格好とか。それがハマっちゃったんです。別に美人と思ったことはないんです。言われてもピンとこないです」(とんず)
「別にうれしいとかはないです。私は人生であまり落ち込んだりしない。その代わりうれしいって感情もないので、そもそもそう言われても何にも思わないんです」(といろ)
芸歴から話題沸騰も本人たちは冷静「どこかしらにはおる人」
優勝こそできなかったが、はるかぜに告ぐのメディア露出は明らかに増えた。YouTubeの再生回数も4ケタから6ケタへと急増した。『THE W』後の仕事について、といろは「めっちゃ増えました。週に1回東京の仕事があります。週に1度だったお笑いの仕事が週に5回になっていますね」と明かす。
さらに「いつもの舞台で緊張することは少なくなりましたね。それまでは『セリフ言えるかな』みたいなのあったんですけどね。自信というわけではないんですけども」と続けた。
とんずはどうなのか。生き生きとしていた顔が一変する。ネタ作成者として危機感を感じているようだ。
「ネタに対する自信でいったら逆になくなったっす……。賞レースに強いと思っているネタを持っていて、それをこすり過ぎると次の新ネタがめっちゃ弱く感じて……。だから今はネタを書くのはめっちゃしんどいっすね」(とんず)
まさに尻に火がついている状況。2人は忙しさに追いつけていない部分もあるようだ。
「番組が決まってもネタがない。決まったらそれに合わせて新ネタを下ろし続けなあかんくて、本当にしんどいっす。『THE W』前は遊んで飲みに行って、朝帰りでしたけど、ほんまにめっちゃ減りました。ネタのことをずっと考えてます」(とんず)
「せっかく芸人になったからには芸人として食べていくのが1番いいことだと思う。そういう意味ではうれしいですね。ただ分からないこと、どうすればいいか分からないことが結構あるので難しいとは思いますね」(といろ)
芸歴の短さと若さから称賛の声は多いが、2人は良い意味で冷静だった。
「『1年目なのにすごい』って言われますけど、会社にもいるじゃないですか。会社員時代にめっちゃできる先輩がいたんですよ。そうなりたいと思ってもタフさが違う。処理能力、体力……。私は出社するだけでもしんどいのに。でもその人はめっちゃ出張行ってへらへらしてて、残業もする。もう無理やって思いましたね。
(自分は)偶然、お笑いでその人になれただけで、別にどこかしらにはおる人って感じです。そう考えたらめっちゃ近しくないですか? だから自分ではすごいと思ってない。抜かれることもあるだろうし」(とんず)
お笑いを仕事と割り切っている分、「プライベートはぐちゃぐちゃ」(とんず)とニヤリ。それでもあえて難しい道を選び、それを楽しんでいるようにも見える。
「飲みに行きたいってなっても『いやここで我慢した方が面白くない?』とか。逆に仲良くない先輩に急に飲みに誘われたら『行った方が良くない?』ってなるんですよね(笑)」(とんず)
注目されるワケは「みんな『何かあるかも』って思ってる」
なぜこれだけ注目されるのか。とんずは「みんな『何かあるかも』って思ってるんですよ。捕まるかもしれない、急に結婚して辞めるもあるかもしれない。それが楽しいんとちゃいます。見えへんというか。何者やねんというか、見やすいんだと思います」と涼しい顔。
といろは「運がいいんですよ。芸人って仕事をやるつもりは正直なかったんですけど、1つの経験として続けていいよっていう天の思し召しだと思っておりますので~」と天を仰いだ。
まだ1年目、今後の目標は何なのか。
「『来年が勝負やな』ってめっちゃ言われる。来年ダメだったとしても長い目で見たらそれは笑い話になるかなって。だから昨年の『THE W』も『1年目ですごい』って言われて、決勝行ってネタ飛ばしても笑えるなと思ってたんです。向こう5年ぐらいはめっちゃ落ちても『別に?』って感じではあります。売れへんくても面白い。飲み屋とかで『吉本で芸人やってたんですよ』って言っても盛り上がるんですよ」(とんず)
「優勝するために全力を出す」と言いつつも気負わない。「1回戦落ちとかでも『はにゃ?』って感じ」と明るかった。それでも将来的に描いている姿はある。
「今はなにが得意なのか、正直分からない。でも地元が好きやから神戸で仕事したいし、バンドが好きやからそういうのを紹介する仕事をしたい。『THE W』終わってバンドマンの方からSNSでフォローしてもらって、なかなか行けへんライブのチケットを取っておいてくれたりしたんです。そういうつながりもできたので恩返しもしたいなと思います」(とんず)
「ずっと続けている絵がまだ見えない」と言いつつも真っ先に『THE W』優勝を口にしたのはといろだった。個人としては「奈良の仕事をしたい」と上品な口調で語る。国家資格の応用情報技術者の資格を持っているため「将来はユーモアある資格の参考書を出して印税で生活して……」とボケるととんずに「お笑いのであれよ」と呆れられていた。
凸凹そうでバランスが取れている。1年後の“はる告ぐ”はどんな景色を見ているのか。良い意味で芸人らしくない、社会人寄りの感性を持っているコンビのこれからが楽しみだ。