家族の普遍的な葛藤を描く映画「長いお別れ」は2019年を代表する1本

「長いお別れ」と聞くと、レイモンド・チャンドラーの名作ハードボイルド小説を思い浮かべてしまうが、アメリカでは“認知症”のことをそう呼ぶ。「少しずつ記憶を失くして、ゆっくりゆっくり遠ざかっていくから」というのが、その理由だ。厚生省によれば、認知症は2025年には高齢者の5人に1人が発症し、その社会的な影響がささやかれている身近な病気だ。

 (C) 2019「長いお別れ」製作委員会 (C) 中島京子/文藝春秋
(C) 2019「長いお別れ」製作委員会 (C) 中島京子/文藝春秋

「湯を沸かすほどの熱い愛」中野量太監督の最新作は最高傑作だった

「長いお別れ」と聞くと、レイモンド・チャンドラーの名作ハードボイルド小説を思い浮かべてしまうが、アメリカでは“認知症”のことをそう呼ぶ。「少しずつ記憶を失くして、ゆっくりゆっくり遠ざかっていくから」というのが、その理由だ。厚生省によれば、認知症は2025年には高齢者の5人に1人が発症し、その社会的な影響がささやかれている身近な病気だ。

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 原作は、第143回直木賞受賞作「小さいおうち」の中島京子氏の同名小説。実体験を基に、認知症を患い記憶や言葉を失っていく父親と家族の日々を温かくつづった。初めての長編商業映画「湯を沸かすほどの熱い愛」(2016年)が、日本アカデミー賞主要6部門を含む国内の映画賞計34部門を受賞した中野量太監督は「オリジナル脚本へのこだわりを簡単に捨てられた」と語るほど惚れ込み、初めて原作ものに挑戦した。

 (C) 2019「長いお別れ」製作委員会 (C) 中島京子/文藝春秋
(C) 2019「長いお別れ」製作委員会 (C) 中島京子/文藝春秋

「湯を沸かすほどの熱い愛」は、無名だった中野監督の名前を一躍、世間に広めた作品だったが、前作「チチを撮りに」(2013年)の素晴らしさにはかなわなかった。“死にゆく母の熱い想いと、想像もつかない驚きのラスト”が宣伝文句だったが、想像の範疇だったという人も少なくないはずだ。

 その点、「チチを撮りに」は展開の読めないドラマだった。母親(渡辺真起子)から「病気で死にかけている、あなたたちのお父さんの写真を撮ってきてほしい」と言われた2人の娘(柳英里紗、松原菜野花)が、幼い時に家を出た父に会いにいく……。オリジナルなアイデア、人物像の造型、ラストの衝撃と唯一無二の物語。「湯を沸かすほど―」をほめた方々は、この秀作を知らないのでは、と思ったくらいだ。

(C) 2019「長いお別れ」製作委員会 (C) 中島京子/文藝春秋
(C) 2019「長いお別れ」製作委員会 (C) 中島京子/文藝春秋

 筆者は「湯を沸かすほど――」をあまりほめなかった少数派かもしれないが、この「長いお別れ」は中野監督の最高傑作と言いたい。カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した是枝裕和監督の「万引き家族」が2018年を代表するホームドラマであるならば、これは2019年を代表するホームドラマだ。

 物語は、父・東昇平(山﨑努)の70歳の誕生日が始まる。久しぶりに帰省した長女の麻里(竹内結子)と次女の芙美(蒼井優)。母・曜子(松原智恵子)から告げられたのは、中学校の校長まで務めたインテリジェンスと厳格さを持った父が認知症になったという衝撃の事実だった。そんな姉妹は、思いもよらない出来事の連続に驚きながらも、変わらない父の愛情に気付き、前に進んでいく……。

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