祖父から受け継いだベンツは「日本に1台」の貴重車 ヤナセの協力で輸入 秘められた“歴史”

20代の男性Yさんが亡くなった祖父から譲り受けた愛車は、1957年式のメルセデス・ベンツ300SL ロードスター。祖父がドイツから輸入したという改造車は、「日本にこれだけです」という貴重なもの。入手の経緯と車に詰まった祖父の思いを詳しく聞いた。

1957年式メルセデス・ベンツ300SL ロードスター【写真:ENCOUNT編集部】
1957年式メルセデス・ベンツ300SL ロードスター【写真:ENCOUNT編集部】

「日本に1台もないですね。これだけです」

 20代の男性Yさんが亡くなった祖父から譲り受けた愛車は、1957年式のメルセデス・ベンツ300SL ロードスター。祖父がドイツから輸入したという改造車は、「日本にこれだけです」という貴重なもの。入手の経緯と車に詰まった祖父の思いを詳しく聞いた。(取材・文=水沼一夫)

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 Yさんの祖父は製造業の会社を経営した実業家で、戦後の焼け野原では金属のくぎ拾いから始めたという。ベンツ愛好家としての顔も持ち、購入にあたって相談に乗っていた別の男性は、「とにかくベンツが大好きだった。簡単に言っちゃうと、40~50台は乗っていたでしょうね。そんなもんじゃ、きかないかもしれない」と、振り返る。孫にあたるYさんも、「新旧入れたら3桁いってるんじゃないすか。現行のごくごく新しいベンツにはあまり興味がなくて、ベンツのスポーツカーに興味がありましたね」と、回想した。

 ベンツのみならず、欧州のスポーツカーに精通しており、男性は「ジャガーも好きでしたね。古いジャガーは全シリーズ持ってましたね」と、付け加えた。ブガッティやジャガーEタイプ、マセラティ3500GT、ポルシェ930ターボなど、価値のある車を多数保有した。

 2014年に他界した際、お宝カーはほとんどを売却。「とてもじゃないけど、個人で持ちきれる台数じゃなかったので……。動いていないと車もダメになってしまうので、皆さんに乗ってもらったほうが傷まないかなと」(Yさん)。そして、数あるコレクションの中から、Yさんが受け継いだのが、300SL ロードスターだった。

 祖父は20年ほど前に、この車をドイツのHKエンジニアリングから購入した。「300SLのメンテナンスをする専門店みたいなところです」。輸入には、当時のウエスタンコーポレーション(現ヤナセ)が協力。「いくらで買ってきたとかっていうのはなくて」と、購入価格は不明だ。

「もともとの300SL ロードスターをHKエンジニアリングさんでサーキット仕様に仕上げたのがこの車です。オリジナルのロードスターを無理やり改造した形ですね」

 Yさんは生前、祖父が大事に乗っていた姿を目にしてきた。

「この車については知っていました。祖父がこれでいろんなラリーに出ていたので」

 65年以上前のクラシックカーだ。「好きかと言うと、分からない。いつ壊れるか分からないし、止まるか分からないし、暑いし、エアコンないし」と、Yさんは率直な感想を明かす。

 マニュアルでもちろん、パワーステアリングではない。「スパルタンの一言です」との評価もある。乗り心地については「最悪ですね」と苦笑。「とにかく足元からくる熱気がすごくて。渋滞なんかしていると、サーキット仕様なので、走っていないとエンジンがどんどん熱くなってくるんですよ。なので、渋滞の中だと、エンジンの熱が上がっていっちゃって、それこそ蜃気楼が運転席から出るんですよね」と、続けた。

 とはいえ、車を手放す気は全くない。

「分不相応だなとは思いますけど、走っていなくても車庫に眠っているのが一番もったいない。じいさんの大好きな趣味だったので、受け継いで、僕が何か役に立てればなと。自動車業界のイベントもそうですね。クラシックカーも若手がいないので」と、20代のオーナーは使命感を燃やしている。

 カーイベントのほか、ラリーイベントで乗るくらい。移動にレッカー車を使うこともあるほど慎重に扱っている。「それ以外はもうお預けっぱなしです。保管もずっとヤナセさんのほうに任せちゃっています。自宅? 絶対置かないですね」と、セキュリティーやメンテナンスに万全を期している。

 今後については、「家業を継ぐ人間に、車も継いでほしいなと思ってます。この車はじいさんの遺志みたいなものなので。いずれ僕の代になったら、また下の代に車も一緒に受け継いでほしいなと」と、家業継承の証しとして、代々引き継いでいくという。

 偉大な祖父の面影は今でも覚えている。「本当に家業のほうも、よくもうこんなに大きくしたなというのもありますし、人を引きつける力がありました」と、尊敬の念を込める。

 別の男性も「大変な実業家でしたね。戦後の日本が伸びる時代にうまいこと会社を大きくした。人一倍働きもしたし、人一倍努力もしたし、車につぎ込みたいがために一生懸命頑張ったところがあって、普通の人では考えられないぐらいエネルギッシュな人でしたね」と、在りし日の姿に思いをはせた。

 300SLは、戦後のスーパースター・力道山や石原裕次郎の愛車だった。

 サーキット仕様に改造している300SL ロードスターは、オリジナルの部分がほとんどないとされる。「日本に1台もないですね。これだけです」とYさん。オーナーになっても、「これは、じいさんの車なので。僕の車じゃないです」ときっぱり。「自分じゃ買えないですよ。とてもじゃないけど……」と、存在の大きさを受け止めていた。

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