【週末は女子プロレス♯94】イロモノだった“自虐系アイドル”が本格派パワーファイターに成長するまで「かわいさだけが女の魅力じゃない」

「トロピカルヤッホー」をキャッチフレーズに、南国気分な出で立ちで絶大なインパクトを見る者に与える水森由菜(フリー)。昨年9月に我闘雲舞を退団し、現在はスターダムが主戦場。ここで新人当時に胸を借りた高橋奈七永と再会し、優宇を加えた大型トリオで6人タッグリーグ戦「トライアングルダービー」に参戦した。当初はど派手な衣装とパフォーマンスからイロモノ感の大きかった水森だが、リーグ戦を通じて本格パワーファイターとしての顔も色濃く出るようになってきた。

水森由菜が自身の過去とこれからについて語る【写真:新井宏】
水森由菜が自身の過去とこれからについて語る【写真:新井宏】

“トロピカルヤッホー”がキャッチフレーズ、出で立ちで絶大なインパクト与える水森由菜

「トロピカルヤッホー」をキャッチフレーズに、南国気分な出で立ちで絶大なインパクトを見る者に与える水森由菜(フリー)。昨年9月に我闘雲舞を退団し、現在はスターダムが主戦場。ここで新人当時に胸を借りた高橋奈七永と再会し、優宇を加えた大型トリオで6人タッグリーグ戦「トライアングルダービー」に参戦した。当初はど派手な衣装とパフォーマンスからイロモノ感の大きかった水森だが、リーグ戦を通じて本格パワーファイターとしての顔も色濃く出るようになってきた。

 3・26横浜武道館で開幕する「シンデレラ・トーナメント」では、フューチャー・オブ・スターダム王者・壮麗亜美と1回戦。壮麗も大型パワーファイターとあって、開幕戦屈指のド迫力バトルが期待される。

 そもそも水森は、アイドル畑からプロレスに転向した経歴の持ち主。その基礎となったのは、幼い頃に始めた柔道だ。動くことが大好きな子どもで小学生低学年から習い始めたのだが、習い事を超えるような厳しさで練習を泣きながら耐えていたという。試合では好成績を残しながらも、気持ちの優しさが出てしまい突き抜けることはできなかった。

「格闘技って相手の気持ちを考えちゃいけなのに、どうしても相手が痛いと思うかなとか、倒したときにケガしないかなとか考えちゃうんですよ。しかもガタイがいいから“怪物女”とか言われて傷ついちゃうんですよね……」

 小学5年生の頃、柔道をあきらめてバドミントンを始めた。バドミントンを続けながら高校は地元・熊本県八代市の進学校に入学。進学校だから大学に行くものとばかり考えていたのだが、ある出来事が彼女の運命を変えることとなる(とはいえ、まだプロレスではない)。

「3年生の初日、遅刻しそうになったので、猛ダッシュで登校したんですよ。そしたら車にひかれてしまい、自転車ごと私は空を飛んだんです。運よく耕していた畑に落ちたので無傷だったんですけど、泥だらけのまま登校したので事故とわかってしまって……」

 車が接近しているにもかかわらず水森がスピードを落とさなかったことも原因のひとつだった。「遅刻する」という焦りと「大丈夫だろう」という過信が衝突事故につながった。このとき彼女は、「人間って何気ないことで命を落とすんだな」と痛感。と同時に、「いままで悩んでたのがバカらしくなって、やりたいことをやろうと決めたんです」。

 彼女がやりたいこととは、声優だった。スポーツのほかアニメも好きで、声優にあこがれた。進学校の規定路線からあえて外れ、パチンコ店での「肉体労働」で資金を貯めた。そして1年間働き、上京。声優の専門学校を卒業し、芸能事務所に入ったのである。

 しかし、そのまま仕事にありつけるわけではなかった。友人の勧めで声優からアイドルライブへとマイナーチェンジ。13人構成のグループ、LOTTIN(ロッティン)に加入した。脱退後は、「水森由菜withつるぴかりん」としての活動がスタート。念願のCDデビューも果たした。

 とはいえ、正統派のアイドルではなく、ぽっちゃり体型を逆手にとった自虐系としての売り出しだった。これがウケてさまざまなバラエティーやドラマに出演するも、傷ついてしまうのも乙女心。「同性の方からは共感を得るんですけど、男性からの人気を得ないまま、ずっと悩んでいましたね」

 そんな頃に出合ったのがプロレスだった。さくらえみ主宰の我闘雲舞プロデュースによる「おにぎりプロレス」という二人組ユニットのライブで、水森も同じステージに立った。おにぎりプロレスはパフォーマンス中に場外乱闘を始めるなど、プロレスのムーブを取り入れたユニットだった。

「プロレスって怖いと思ってたけど、なんかワクワクするなあ、エンターテインメントにあふれてるプロレスもあるんだなあと、恐怖心、印象が一気に変わったんですよね。『私もガタイがいいからよくいじられるんですよ』『プロレスちょっと興味あります』と言ったら即刻、道場に練習に行く日が決まりまして(笑)」

 勢いで入門が決まった水森。柔道とパチンコ店のバイトで培った体力、車にはね飛ばされても無傷だった身体の強さがここで生きた。が、ケガのため当初の予定よりも5カ月遅い、2018年2・28新木場でデビュー。延期された悔しさと同時に、練習と試合はまったく違うというプロレスの厳しさも知った。そして、リングに上がる喜びも知ったのである。

 デビューから半年で、アジアドリームタッグ王座を獲得し初戴冠。1周年の日にはSEAdLINNNGで高橋奈七永のシングル王座に挑戦した。が、「1年目がすごく充実してたぶん、2年目以降は充実はしているけれど結果に結びつかない部分があって、正直、くすぶってるような気がします」

 自分を変えたい、変えなければいけない。水森は悩みに悩んだ末、我闘雲舞から飛び出す決心を固めた。「自分って、変化があまり好きじゃなく安定しているのが好きなタイプの人間なので、相当悩んでフリーを選びました」

「自分の闘いを通してカッコイイとかキレイだなって言ってもらえるように、頑張りたい」と意気込んだ【写真:本人提供】
「自分の闘いを通してカッコイイとかキレイだなって言ってもらえるように、頑張りたい」と意気込んだ【写真:本人提供】

奈七永からのダメ出しに「悔しくて毎回泣いてましたね」

 退団前に参戦しはじめたスターダムの若手大会「NEW BLOOD」で本戦出場をアピール。NBでは見た目のインパクト重視で出オチキャラ的な部分があったが、本戦となるとそればかりではいられない。しかも水森に与えられたのは7Upp高橋奈七永&優宇組への合流である。このトリオで6人タッグリーグ戦にエントリー。他団体でいきなり勝ち負けを競うリーグ戦への出場はかなりのプレッシャーを伴うだろう。しかもパートナーが女子プロ界の人間国宝とも言われる奈七永である。

「果たして、自分がこの2人の力になれるんだろうかと思いましたね。身体も大きい方だしパワーファイターできたけど、何も実績を残していない自分がいざこの2人の隣に立ったら、パワーファイターだと胸張って言えないですよ。最初はどう合わせようとか、どう邪魔にならないようにいようとか、そういうことばっかり考えてて、いかに水森由菜を出すかってところまで考えられてなかったです。それに毎回、奈七永さんからダメだったところをピンポイントで言われました。確かにそうなので、悔しくて毎回泣いてましたね。自分からタッチを求められるくらいの力を見せたかったんですけど、自分が攻められているところ2人が助けに来てくれることすらもふがいない。まだ信頼されていないのかなとか、その信頼をどうやって得ようとか、いろいろ考えて悩みました」

 しかしながら、奈七永&優宇との試合をこなすうちに、「2人に負けない気持ち、相手にも負けない気持ちで誰よりも目立とう、水森由菜を出そうとの意気込み」を出せるようになってきた。公式リーグ戦の最終試合では自身でフォール勝ちをゲットし、決勝トーナメント進出を決めた。3カウントを奪ったのは奈七永のアドバイスから生まれたトロピカルスマッシャー。水森のいいところをどのようにして引き出すか、奈七永はしっかりと見ていたのである。

 優勝こそ逃したものの、トライアングルダービーは水森にとって間違いなくレスラーとしての転機になった。イロモノ的キャラクターも残しつつ本格派パワーファイターの色も濃くしていく、プロレスの幅を広げたシリーズだったと言っていいだろう。

 キャッチフレーズの「トロピカルヤッホー」はLOTTIN時代、いかにして目立ち、ファンの印象に残るかを考えて編み出されたあいさつだった。いまもその原点をキープしつつ、レスラーとしての進化に加速度をつけている。デビュー当時から使用している、自身の唄う入場テーマ曲「リングに立つ」(作詞作曲ドクターHIRO)の歌詞は、彼女の境遇と心境そのものにリンクする。「決して女を捨てたわけじゃない。女を諦めたわけじゃない。女をもっと磨くためにここに立っている」。振り返ってみれば、コンプレックスを力に変えてきたのが水森だった。

「かわいさとかキレイだけが女の魅力じゃないっていうのを自分を通して、自分の闘いを通してカッコイイとかキレイだなって言ってもらえるように、頑張りたいなと思います」

 デビューから5年。「熊本の不沈艦」がいよいよ本領を発揮する!

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