「『ぼったくりすぎ』と言われますが…」 卵の価格高騰で生産者が危機発信、利益率まで公開の覚悟

「最近お客様に『卵1パック200円代は高すぎ!ぼったくりすぎ!』と言われますが、『もうこれ以上、値段を叩かないで下さい!泣(大声)』」――。老舗鶏卵場の28歳の3代目が訴えたツイートが反響を集めている。鶏卵価格の高騰が止まらない中で、業者としてのリアルな発信が注目を浴びた格好だ。高病原性鳥インフルエンザの流行や飼料価格などの上昇の影響を受け、苦境に立たされているという。「株式会社 半澤鶏卵」の半澤清哉さんに実情を聞いた。

鶏卵価格の高騰は社会的関心事になっている(写真はイメージ)【写真:写真AC】
鶏卵価格の高騰は社会的関心事になっている(写真はイメージ)【写真:写真AC】

「物価の優等生」の呼び名どこへ? 30年前から養鶏場は5分の1以下、鳥インフルや生産コスト上昇の苦難

「最近お客様に『卵1パック200円代は高すぎ!ぼったくりすぎ!』と言われますが、『もうこれ以上、値段を叩かないで下さい!泣(大声)』」――。老舗鶏卵場の28歳の3代目が訴えたツイートが反響を集めている。鶏卵価格の高騰が止まらない中で、業者としてのリアルな発信が注目を浴びた格好だ。高病原性鳥インフルエンザの流行や飼料価格などの上昇の影響を受け、苦境に立たされているという。「株式会社 半澤鶏卵」の半澤清哉さんに実情を聞いた。(取材・文=吉原知也)

 半澤さんによると、約30年前と比べて養鶏場は5分の1以下まで減っており、現在は1800件ほど。鶏卵価格は「一般社団法人 日本養鶏協会」の統計を見ると、2022年2月の価格は1キログラム当たり「175円」(全農:東京Mサイズ)だったのが、今年23年2月は「327円」(同)に上昇。年と月によってバラつきはあるが、価格が高騰していることは確かだ。

 こうした状況を受けて、半澤さんは「ただでさえ厳しい経営状況が続いていたにもかかわらず、今季は鳥インフルエンザの感染拡大に伴う供給量の圧倒的不足や、飼料、電気、資材等の高騰で生産コストが上昇し、養鶏場にとっても過去に例がないほどの危機的状況です」と明かす。

 養鶏場が減ってしまっている理由。半澤さんは「競争の原理が働くことで、中小規模の生産者さんにとってはそれでは収支が合わずに、辞めていかれるケースが多くなっているという認識です。取引先に対しての卸値や販売価格は、中小規模の生産者さんと、大手の生産者さんではやはり大手さんのほうが有利です。日本の養鶏場の数は減っているのですが、鶏の羽数自体は大きくは変わっておりません。中小規模の生産者さんが減った分、大手の生産者さんがさらに鶏の羽数を増やしていき、寡占化が起こっているのが現状です」と説明する。

 さらに踏み込み、「そこは商売たるものですので、しょうがない部分ではありますが、自分たちが大切に育てた鶏から産まれた卵を、自ら価格を下げ、シェアを取り合った競争の結果として、その競争についていくのが厳しい養鶏場さんがなくなっている現状があります。やはりそこはお互いが競争のため、仕方ない部分ではあるのですが、私たちにも自ら価格を下げにいった責任はあると感じております」。自戒の念を持っているという。

 投稿は勇気の要るものだった。「このままでは将来、日本の卵が安定的に供給されない状況が続くと思い、少しでも消費者の方々に現状を知ってもらい、卵の存在価値をあらためて考えるきっかけになればと思いました」。使命感を持って行ったという。

 ネット上の反響はさまざまだが、「これまでの卵が安過ぎたんですよね」「卵の高騰は正直痛いですが、そもそもの価格が安すぎたのではないかと思います」「高い!!きつい!!っていうのが本音ではあるけど、養鶏場の方はもっときついし、必要以上に支援と思って勝っている節があります…」(原文ママ)といった、率直な意見や共感の声が寄せられている。

 半澤さんは反響について、「想像していた以上に、皆様からのコメントやメッセージが温かい言葉にあふれていて、業界の方々全員に見てほしいくらい、はげみになるものばかりでした。本当に感謝しかありません。思い切って投稿して本当によかったです」。感謝の受け止めをしている。

業界の内情「『卵』=『特売の目玉品』という安いイメージが定着してしまった」

 投稿では、利益率や売上の厳しさについてもぶっちゃけた。「1パック当たりの僕達の利益は大体2%位です。更に、鳥インフルが1羽でも発生したら周りの鶏も全て殺処分! 売上は一年近くゼロ円です」という内容だ。

 不景気が続く中で、安さを求める消費者心理は当然のことでもあるだろう。一方で、生産者の内心は複雑だ。半澤さんは「私たち業界側としても、自ら価格を下げにいった責任を感じております」と、あらためての思いを示す。

 また、「物価の優等生」と呼ばれる卵の価格競争についてこう分析する。「『卵』がスーパーに並んでいるのを見ると、きっと『価格』を基準に買われる方は多いのではないかと思います。業界としてもそれはある程度認識した上で、商売ですから、自社の卵を広めようとした結果、値段のたたき合いが行われ、『卵』=『物価の優等生』『特売の目玉品』という安いイメージが定着してしまったのではないかと思います。もちろん、それでは収支が合うわけがないので、差別化を目指した商品を出す努力をしてきておりましたが、なかなか浸透しきっていないというのが現状です。安いイメージが定着した結果、その価格でなければ売れないという共通認識と状況を作ってしまいました」とのことだ。

 卵の価格上昇自体は、生産者にとって「大変ありがたい」と歓迎する状況でもある。「むしろ、これまでの価格帯での販売では、大手の生産者さんでさえもコストが全く合わない状況でしたため、卵1つ作るためにかかる労力やコスト、鳥インフルエンザのリスクを考えると、これから卵を作る方が本当にいなくなるくらい深刻な状況でした」。これが本音だ。

 だが、相次ぐ困難とコスト増に見舞われる中で、「安価で売り続けるのには既に限界を超えております」。深刻な事態に陥っていることを吐露した。

 半澤さんは山形・天童市で1960年に創業した鶏卵場の跡取りでもある。2022年7月、史上最年少の28歳1か月で卵業界の資格の最高峰「五ツ星タマリエ」を取得。地元山形県のブランド米「つや姫」の観光大使として、TKG(たまごかけご飯)普及活動やSNSを活用した業界の広報事業にも積極的に取り組んでいる。

「今後も業界を代表して、これからも生産者と消費者がお互いに歩み寄れるような情報発信をしていきたいと思っています。養鶏場がこれだけ減っている状況を踏まえ、これからは何とか引き続き生産者側も最大限努力した上で、それでも補えない部分を価格改定に反映させることができるよう、発信して参ります」との決意を示した。

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