“伝説”の日産車「こうして生き残っている」 珍しい車ばかりに乗る愛好家心理とは?
ある意味の「伝説」の1台を愛でているカーオーナーがいる。山梨県の男性オーナーは、1985年式の「日産スタンザFX」に乗っている。「誰も乗っていないから、面白い」。その愛好家心理とは。
“日産3兄弟”覚えてる? 他の愛車キャンターはデコトラ仕様
ある意味の「伝説」の1台を愛でているカーオーナーがいる。山梨県の男性オーナーは、1985年式の「日産スタンザFX」に乗っている。「誰も乗っていないから、面白い」。その愛好家心理とは。(取材・文=吉原知也)
「50代でも知らない人は多いんじゃないですか? 若い人は検索もしないでしょう(笑)」
だからこそ、自慢なのだという。
「スタンザFX、オースターJX、バイオレット・リベルタ。“日産3兄弟”なんて呼ばれていたと思うのですが、どうも不評だったんですよ。あまり売れなかったようで。ある意味、伝説だと思っています」
発売当初のCMは覚えており、「小さな高級車」のイメージだったという。手に入れたのは7年前。中古車販売店に出ていたのを見て、「欲しくなっちゃったんです。希少であることは知っていたので。私はもともとドライバーの経験もあるのですが、他に乗っている人はほとんど見たことがないです。北海道と熊本で誰かがネットに上げているのを目にしたぐらい」。納車費用など込みで100万円ぐらいでゲットした。
他に持っている車は、言わば珍妙なものばかり。
2トン車の三菱ふそう・キャンターは、デコトラ仕様。「電球がたくさん付いていますよ。『福幸丸』と名付けています」。
それに、「友人からタダでもらった」という軽トラのスズキ・キャリイ、三菱のミニカトッポだ。
日産車乗りとして、世界の注目を集めて高騰化が続く、スカイラインGT-Rをどう見ているのか。
「もちろん、そういう日産車はかっこいいですよ。人気の高い昔の車も面白いですよね。でも、同じ車が並ぶと、いくら素晴らしい旧車でも、どうしても同じく見えちゃうんですよね」
男性を突き動かすのは、「自分だけが乗っているという、特別感、優越感」だ。
愛車は37歳を過ぎた。旧車と言える。だからこそ、乗る楽しさをかみしめている。
「今の車と違って、“走っている”という感じがいいんですよ。今の車は、何と言いますか、コンピューター制御によって、自分が運転されているような感覚になります。昔の車は、警告音がピーピー鳴ることはありません。自由に好きなように運転できます。
電動化されている車の運転は、どうもつまらない。やっぱり自分で操らないと、つまらないです。自分で操ってこそ、車は面白いんですよ」。
ガソリン車にとって痛手は続き、ガソリン価格上昇は悩みのタネである。「これからもガソリンの値段は上がると思います。下がることはないですよね。昔のような100円の時代は来ない。もう仕方ないですよね」。それでも、ガソリン車に乗り続ける覚悟はできている。
部品の面を見ても、次々と在庫がなくなったり、メーカーで廃番になったり、旧車の維持が難しくなってきていることを痛感しているという。
それでも、旧車を守ること。その使命感と熱い思いを貫くつもりだ。
「外国では旧車を大切に乗っていますし、税金も安いです。文化としてしっかり確立されています。どうも日本は、『古いものは悪い』みたいな雰囲気があると思うんですよね。旧車に乗ることへの不安を拭えるよう、全国的に『旧車を守る』という動きがもっともっと広がっていけばいいですよね」
最後に、もう一度、スタンザFXの魅力について聞いてみた。
「この車は、バブルの頃に乗ったはいいけど、3年ぐらいですぐに乗り換えちゃった。そんな歴史をたどってきたのかな、と思うんです。シーラカンスみたいな、生きた化石。それでも、こうしてこの1台は生き残っている。そこに特別感があるんじゃないかと。なぜか憎めないやつ。そう思っています。自分がもしこれに乗れなくなったら、日産のヘリテージコレクションなどに寄付しようと思っているんですよ」
ユニークな表現で、“変わらぬ愛”を教えてくれた。