“幻の愛車”を12年かけレストア トヨタ2000GTオーナーのすさまじい情熱「棺桶にする」
誰もがうらやむ名車トヨタ2000GTの数少ないオーナーの1人が群馬県に住む荒井武夫さんだ。生産は国内337台と言われ、北米のオークションでは1億円を超えて落札されたこともある。荒井さんは約25年前に1200万円で手に入れた。旧車の高騰ぶりには驚くが、一方で、「好きな人のところに行かないのが問題」と投資目的の売買に苦言を呈した。
生産わずか337台 “幻の車”どうやって手に入れた?
誰もがうらやむ名車トヨタ2000GTの数少ないオーナーの1人が群馬県に住む荒井武夫さんだ。生産は国内337台と言われ、北米のオークションでは1億円を超えて落札されたこともある。荒井さんは約25年前に1200万円で手に入れた。旧車の高騰ぶりには驚くが、一方で、「好きな人のところに行かないのが問題」と投資目的の売買に苦言を呈した。(取材・文=水沼一夫)
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愛車は1967年式の前期型で約25年前、岐阜のカーショップで見つけたものだ。
「たまたまね、ちょっと仕事で行った先で教えていただいたんですよ、『あるよ』と。それでもう仕事をおっぽり出して、その日のうちに買いに行きました。本当這いつくばって全部見ましたよ。これはいいなとすぐ購入しました。持っていっていいって言うから、自分の車を置いて『後日お金を持ってきます』と言って、持って帰りましたね。最初は古いから、『お金はいりませんよ』と言われたんですよ。そうはいかんと、それなりの金を持っていきましたね」
「欲しい」と思ったのはいつからだろうか。その時期は漠然としているが、他の車にない魅力を感じていた。「もう全てです。スタイル、性能、全てですね。ヒストリーもいいですし」とほれ込んでいた車種だった。
当時から、中古市場では2000GTの価値は上昇していたという。「ものがなかったですからね。そのときで1200とか1500とかそんな感じの話が出ていましたよね」
1200万円で購入したが、ポンと出せる金額ではなかった。
「1200とか1500なんて、自分のような貧しい人はまず手が出せません。買おうって決めたときにはもう銀行さんに頭下げて、平謝りで、『ぜひ金貸してくれ』と。そうですよ。1000万は出せませんよ。200万ぐらいは何とかなるでしょうけどね」
まさに執念で手に入れた愛車だ。
車の状態は極めて良好で、希少性の高い車だった。「5ナンバーだったしね。これはもういかんともしがたいです。絶対ありませんよね」
しかし、購入後、正式に乗れるまでは12年の歳月がかかった。
「もちろん乗れたんですよ。車検もあったんですよ。ですけども、きれいにして乗りたいなってなったので。当時の基準で、新車同様かそれ以上という感じで直しました」
車をバラバラにして、エンジンのレストアとボディーの塗装以外は自身が主導して作業にあたった。
「自分がやったというか、自分が手配してやってもらった感じですね。自分で図面書いたものを作ってもらった、あるいは自分で加工したとかそういうのもありますよ」
ドアの取っ手や給油キャップも自分で作った。手間をかけて、時間をかけて、愛情をたっぷり注いで、ようやくエンジンをかけたときは、「もう感無量ですよ。やっと乗れたと」と感極まる思いだったという。
愛車の最後とは? 「自分が入って、そのまま埋葬されようと」
現在、2000GTは中古市場で1億前後に高騰しているとされる。オーナーとしてこの価格上昇をどう思っているのだろうか。
荒井さんは「それは値段が上がるのは構いませんけど、ただ好きな人のところに行かないというのが問題ですよね」と顔をしかめた。
「欲しいという方はいっぱいいるわけですよ。そういうところに行かないってのはまずいですよね。だって投資目的で買う方もいるでしょ。そういうのはいかがなものかと思いますよ。好きな人のところに行ったほうがいいと思います」
目先の金額に目がくらんで、血なまこになって探している人がいる。そのような取引の材料にされることに、多くのオーナーは心穏やかではない。
荒井さんは、“愛車の今後”について問われると、冗談とも本気とも取れない言葉で次のように返している。
「先日も『この後どうするんですか?』って聞かれたから、棺桶にするって言いました。自分が入って、そのまま埋葬されようと。もう一生懸命、日夜毎日のように直した車ですからね。下手なヤツに渡したくないですよ」
職業はエンジニア。今でもバリバリの第一線で働いている。
「仕事は生涯現役でやろうと思ってます。だから終わるときは棺桶に入るときです。これに乗るときです。これに入っちゃうということですね」
2000GTオーナーにほとばしる、すさまじい情熱。荒井さんは自身の熱量を上回る人物が現れたときのみ、愛車を手放す覚悟だ。