ヤフオクで定年後に買った憧れ愛車 妻が乗ったのはたった1回でも…「命続く限り乗りたい」理由

憧れの車をヤフオクで購入したら…。宇都宮クラシックカークラブの杉山智之会長の愛車は1952年式の英国MG-TDだ。戦後、東京に進駐した米軍の姿を見て、定年後にヤフオクで購入した。「心配だから1回見に行ったんですよ」と店まで行った杉山さんを待っていたのはインド人。そこには意外なストーリーが…。車はエアコンがないなど快適とは言えない装備で、妻にも一度乗ったきり見捨てられてしまったというが、「でもね、気持ちいいですよ」と愛情たっぷりに語った。

宇都宮クラシックカークラブの杉山智之会長【写真:ENCOUNT編集部】
宇都宮クラシックカークラブの杉山智之会長【写真:ENCOUNT編集部】

「ヤフーオークションにたまたまこれがで出ていた」

 憧れの車をヤフオクで購入したら…。宇都宮クラシックカークラブの杉山智之会長の愛車は1952年式の英国MG-TDだ。戦後、東京に進駐した米軍の姿を見て、定年後にヤフオクで購入した。「心配だから1回見に行ったんですよ」と店まで行った杉山さんを待っていたのはインド人。そこには意外なストーリーが…。車はエアコンがないなど快適とは言えない装備で、妻にも一度乗ったきり見捨てられてしまったというが、「でもね、気持ちいいですよ」と愛情たっぷりに語った。(取材・文=水沼一夫)

 杉山さんがMG-TDに憧れたのは小学生のころだった。

「杉並区の永福町に住んでいたんでんすよ。今の井の頭通りを進駐軍の米軍の兵隊さんがこの車に乗って走っているのを見て、いつか欲しいなと思っていたんです。それが原点」

 子ども心にも、勇ましい米軍の車両が目に焼き付いた。

「だけど、結局免許を取って会社に入って、お金もないし、仕事もいつも必死ということで趣味の車を持つということができなかったんですね。私はこの車を定年後に買ったんです」

 仕事を通じて同じ趣味の同僚と出会い、再び購買熱が高まった。「私も欲しいなと思っているときに、ヤフーオークションにたまたまこれがで出ていた。で、退職金で買いました。言い値で買いました」と、2007年にヤフオクで手に入れた。

 しかし、愛車が実際に手元に来るまでには紆余曲折があった。

「当時も今も宇都宮なんですけれども、横浜の業者だったんですよね。やっぱりオークションで買うといっても、心配だから1回見に行ったんですよ。そしたら、小さいお店だったんですけども、インド人の怪しい人が出てきて、大丈夫かなと思ったんですけども、その人が言うには、『この車は私が日本に輸入して販売したんだけれども、オーナーの方が亡くなられた。また私のところへ返ってきて、処分してくれと言われたんです。それでオークションに出しました』と。当時の写真を見せてもらったら、輸入した港にそのインド人のおじさんと彼の小さい子どもが写っていた。車検が付いていない状態で売りに出ていたので、車検をつけて宇都宮まで運んでもらうことを条件に購入しました」

 春に購入を決め、前金を払ったものの、なかなか届かない。

「10月ごろになってやっと届けてくれた。いろいろ聞いてみたら、古い車なのでトラブってなかなか車検が取れなかった。写真の小さい子どもが大きくなっていて、店を継いでローダーで運んで持ってきてくれた。そういう経緯で購入しました」

 車はインド人親子の思いがこもり、顧客も大切に乗っていた貴重車だった。価格は250万円だった。

 ハンドルを握って乗ってみると、想像以上の“非快適ぶり”に目を丸くした。

「乗り心地は悪いですよ。もう70年ぐらい前の車なんだから。今の車と比べればエアコンもないし、パワステがないからハンドルがすごい重たい。それから(仕様で)ブレーキが利きづらかったのが一番怖かったですね」

極上のヘリテージカー【写真:ENCOUNT編集部】
極上のヘリテージカー【写真:ENCOUNT編集部】

妻は「二度と乗ってくれない」 仲間とツーリングが趣味

 今では体の一部のようになじんでおり、「慣れましたね。車間距離を取って一度も追突することもなく走っています」と安全運転を心がけている。

 一方で、妻の評価はさんざんだという。

「鹿沼で結構大きなイベントがあって、堺正章が来るようなイベントだったんですけれども、家内を横に乗せて参加したんです。だけどこういう車でしょ。風は巻き込むし、音はうるさいし、当時冬だったから寒かったんだよね。だから家内はそのときに1回だけ乗ったきり、もう10何年持ってますけれど、二度と乗ってくれない。1回だけですよ、乗ったのが…」

 そのうっぷんを晴らすように、クラブのメンバーと月2回ツーリングに繰り出している。メンバーは30人強。

「月に2回ツーリングを楽しんでいます。何より走るのが好きな連中なので、ちょっと天気が悪くてクラブ活動ができないと、『なんでやんないんだ』みたいなのがね、すぐ返ってくるような、非常に活発なクラブです」と笑った。変速機をトヨタ製に改造しており、高速道路での走行も快適だ。

「やっぱこんな格好の古い車でしょ。道路を走っていいのかなっていう気持ちはありますよね。でもね、気持ちいいですよ。運転席からボンネットが見えてフェンダーがぴょんぴょんとあってヘッドライトが見えて。今の車にはないですよね。今の車って快適でしょ。窓閉めちゃえばエアコンはばっちり効くし、オーディオも流れるし、これは走ったらラジオなんか聞こえないですけどね。でもそれが楽しいですね」

 車は1967年式のMGB-GTも保有。普段の足車はホンダのCR-Vで、バモス、ステップワゴンとそろえる。また、バイクはハーレーに乗っている。

 76歳の後期高齢者。免許返上も検討し始める年代だ。

「元々僕は世田谷生まれの杉並育ちの東京の人間なんですけど、会社の都合で宇都宮へ転勤して、宇都宮の人間になったんですけど、地方都市は車ないと、死んじゃうんですよね。だから今、車をね、年いったから免許返納しろみたいなこと言ってますけど、それは死ねって言うのと一緒。だから生きてる限りは乗りたいなと思いました。安全運転には心がけてるし、保険も入っているし、命続く限り乗りたい」

免許返納まで生涯乗り続ける【写真:ENCOUNT編集部】
免許返納まで生涯乗り続ける【写真:ENCOUNT編集部】

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 愛車がいつまでも走れる状態にあることも免許保持の理由の1つだ。

「この車も70年ぐらい前の車ですけれども、時々壊れるんですね。でも壊れても直せるんですよ。というのは、コンピュータが乗っかってない。これが一番でかいですね。それから日本車じゃないので部品も新品のものが手に入る。しかも格安で。(古い)フェアレディZみたいな車はね、たぶん部品がなくて、壊れるとえらい苦労するんですけれども、海外の車のほうが部品は手に入るんです」と意外な視点を明かした。

 杉山さんによると、MGの生産台数は約3万台。そのうち、「2万台以上アメリカに輸出したんじゃないかな」という。米国では簡単に部品が手に入る。「インターネットで注文すると1週間で部品が手に入るんですよね。だからね、全く困らない」というから驚きだ。

 もはや遺産級のクラシックカーを保持しながら、思っていることがある。

「物を大切にする国の車を持っていると非常にいい。日本の場合、車は13年たつと税金も上げて、もうハイブリッドの新しい車に乗り換えなさいという政策をとっていますけど、そうじゃないんだよね。イギリスに行かれたことあります? イギリスは休みの日になるとこういう車がぞろぞろ出てくるんですよ。彼らは好きなんですね。日本だとこういう車に乗ってる人はちょっと変人に見られると思うんですよ。でも、変人じゃない。海外じゃ旧車好きっていうのは普通ですからね。コンピューターはやっぱり寿命がある。そうすると、部品の供給がないと直せない。日本はどんどんつぶして新しい車に乗り換えるからいいのかもしれないけど、地球環境を守って、物を大切にする文化っていうのはもうちょっと欲しいなっていうふうには思います」と杉山さんは結んだ。

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