高橋優「何が自分なんだろう?」 人気の裏で抱えた悩み、実家に帰ると山積みのサイン色紙
今年2月に2日間にわたる日本武道館公演を終え、10周年イヤーを完走したシンガーソングライターの高橋優。メジャーデビューしてこれまでシングル楽曲を27作品、アルバムを7枚リリースした。飾らない彼の人柄がそのまま歌となり、言葉となり、聞くものの心に真っすぐに届く。それは10年以上経とうが何も変わらない。そんな高橋にも自分らしさを見失いかけた時期があったという。どうやってそれを克服したのか? 彼に聞いた。
どこで誰に見られようと「知り合いが増えた」と思えばいい
今年2月に2日間にわたる日本武道館公演を終え、10周年イヤーを完走したシンガーソングライターの高橋優。メジャーデビューしてこれまでシングル楽曲を27作品、アルバムを7枚リリースした。飾らない彼の人柄がそのまま歌となり、言葉となり、聞くものの心に真っすぐに届く。それは10年以上経とうが何も変わらない。そんな高橋にも自分らしさを見失いかけた時期があったという。どうやってそれを克服したのか? 彼に聞いた。(取材・文=福嶋剛)
「少しは変わったと思いますが、大まかには変化はないです」そんなひと言からインタビューが始まった。これまで多くのメディアで10周年を振り返る質問を散々受けてきただろう。しかし彼は真っ直ぐな視線で質問者の意図を汲みながら最後まで1つ1つ丁寧に答えを探して話してくれた。2010年、彼がデビューした時、筆者が取材した記憶がよみがえった。確かにあの時の彼も同じだった。
「僕にとっての変化は『僕のことを知っていて話しかけてくれる人が増えた』ですね。10年ライブをやったり、テレビやラジオに出させていただき、自己紹介から始まる場面は少なくなりました。高橋優といえばこんな曲があるよねと知っていて接してくれるって居心地は良いですし、分かっている人の方が話は弾みますから。一方で僕が思い描いたのとは違うところもありますけど」
その「思い描いたものとは違う場所」とは何か? 高橋は「むしろそうならなくて良かったです」と笑いながら説明してくれた。
「僕が若い頃に想像したロックスターみたいな日常。例えばスーパーカーを乗り回してドライブするとか、毎晩黒服の従業員が整列して迎え入れてくれるような会員制の個室で酒を飲んだり……見学程度に中をのぞいたことはありますよ(笑)。でも僕自身もともとそういうのは望んでいなかったので、今も昔も生活リズムは変わってないです」
全国ツアーやレコーディングがなければ月に数回ライブを行う程度で残りは普段の生活だという。
「日常生活はいたってシンプル。朝起きてジョギングして、スーパーで野菜を買ってきて野菜ジュースを作る。出かける前は財布の中にお金が幾ら入っているか確認して、ちゃんと小銭も持っていく。会計の時に5円玉が入っていてラッキーみたいな(笑)。そんな中学生ぐらいから持っている感覚というのが今でもずっとあって。電車にだって乗りますし、普通に街も歩いていますし、日常生活のおおよその時間はそれほど変わりません」
「変わらない」という言葉を繰り返し聞くと、むしろどこかで変わらないように意識しているところはないのだろうか? 10年以上にわたり第一線で活躍をしていると、きっと今までたくさんの人に見られて、何をするにも大勢の仲間やスタッフが関わってくる。歌以外のさまざまな重圧も計り知れないものがあっただろう。
「たしかにそういう時期はありました。僕の実家は秋田県なんですが、それこそ実家に帰っても誰だかよくわからない人たちがいて、テーブルにはドンとサイン色紙が積まれている。姪っ子をおもちゃ売り場に連れて行ったら、知らない人にじっと見られていて声をかけられたり。家に帰ってもリラックスできないからオフになれない。『ああ僕は有名人になっちゃったのかな?』って勝手に思い込んでいた時期が一瞬ありました。1人で部屋にいる時も『いったい何が自分なんだろう?』ってそんなふうに考えることもありましたね」