【映画とプロレス #4】アメプロファンなら見るべき映画「ザ・ピーナッツバター・ファルコン」とは?
ダウン症の少年がプロレスラーになるべく、困難を乗り越えながら奇跡を起こすロードムービー「ザ・ピーナッツバター・ファルコン」が現在劇場公開中。劇中にはWWE等で活躍したレジェンドレスラーのジェイク・ロバーツや、ミック・フォーリーが出演しており、プロレスファン必見の映画となっている。今回はプロレスライターの新井宏氏がこの「ザ・ピーナッツバター・ファルコン」を"プロレス的観点"で紹介する。
プロレスファンなら一度は思う「プロレスラーになりたい」という衝動
ダウン症の少年がプロレスラーになるべく、困難を乗り越えながら奇跡を起こすロードムービー「ザ・ピーナッツバター・ファルコン」が現在劇場公開中。劇中にはWWE等で活躍したレジェンドレスラーのジェイク・ロバーツや、ミック・フォーリーが出演しており、プロレスファン必見の映画となっている。今回はプロレスライターの新井宏氏がこの「ザ・ピーナッツバター・ファルコン」を”プロレス的観点”で紹介する。
「ザ・ピーナッツバター・ファルコン」? なんとも奇妙なタイトルだ。邦題なら「ザ」を抜いて「ピーナッツバター・ファルコン」でもよかったんじゃないかとも思う。が、そんなことはどうでもいい。危うくスルーするところだった、今作が“プロレス映画”と気づくまでは!
ポスターには3人の男女がイカダに乗っている。トム・ソーヤーやハックルベリー・フィンの世界観を受け継ぐ、古き良き広大なアメリカの冒険譚か、というのが第一印象。しかしイントロダクションを読んでみると、主人公の青年ザックはダウン症だが、プロレスラーになるのが夢だという。その夢を叶えるため、彼は養護施設を脱走しレスリングスクールをめざす、というではないか。しかしここまでは、プロレスは物語のきっかけにすぎないのではないかと思っていた。ところが、出演者にジェイク“ザ・スネーク”ロバーツ、ミック・フォーリーが名を連ねていると知って大慌て。こうなればもう立派な“プロレス映画”。観ないわけにはいかない!
ザックは若いのに老人の介護施設で暮らしている。そこには複雑な理由があるのだろう。どうやら家族から捨てられたらしい。プロレスファンのザックは同じビデオテープを何度も何度も繰り返し見ている。どうやらそれはNWA時代のプロレスのようだ。リック・フレアーらしき選手の後ろ姿が確認できる。また、そのビデオには架空のレスラー、ソルトウォーター・レッドネックが自身のレスリングスクールをPRする映像も挿入されている。ザックはいつの日か、というより、いますぐにでも施設を抜け出しレッドネックのジムに入門しようと企んでいる。そして、何度目かの脱走でついに成功。パンツ一丁の代償とともに、彼はひとまずボートの中に身を隠す。
それに偶然気づいたのが漁師のタイラー(シャイア・ラブーフ)だ。彼は兄を亡くし自暴自棄に陥りながら、漁師仲間とトラブルを起こし追われる身となっている。逃亡者たちという共通点を見いだした2人は、行動を共にする。タイラーはノースカロライナ州からフロリダ州のプロレスジムまでザックを連れて行くことにするのである。なぜなら、それは同時に自分も逃げきることにつながるからである。
施設の看護師エレノア(ダコタ・ジョンソン)がザックを探している。上司からの命令で連れ戻さなくてはいけないのだ。タイラーは損害を被った2人の漁師から執拗に追われている。命を狙われていると言っていい。やがてエレノアはザックたちを発見。しかし、なんだかんだと彼らと一緒にフロリダをめざすことになる。彼らの移動手段はイカダだ。このイカダでの河下りが作品全体の牧歌的雰囲気を高めている。さらにVHS時代のプロレスも、その効果を高めるのに一役買っているのだ。「ロウ」でも「スマックダウン」でもない。まだアメリカ各地にプロモーターのテリトリーが分散していた時代のプロレスだ。
やがてザックとタイラーは、兄弟のような関係になっていく。タイラーはザックに頼まれ練習を指導する。どこがレスリングのトレーニングなんだというものがほとんどだが、プロレスについてほとんど知識がないのだから仕方がない。とはいえ、プロレスラーにリングネームがあることくらいは知っていた。「リングネームを作れよ」とタイラーはパワーだけは破格のザックにアドバイス。即興でザックが考えたリングネームこそ、この映画のタイトル「ザ・ピーナッツバター・ファルコン」だった。そして3人は、レッドネック経営のジムに到着するのだが……。