カンヌ受賞の巨匠は脚本なし 主演の尚玄が明かす“その場で演出”の独特な手法

2022年の注目映画の一つは、俳優の尚玄(43)主演の日本・フィリピン合作「GENSAN PUNCH 義足のボクサー」(年内公開予定)だ。フィリピンで活躍した実在の義足のボクサー、土山直純さんをモデルにした物語で、カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞したフィリピンの巨匠ブリランテ・メンドーサ氏がメガホンを取った。尚玄が「生涯の1作」と語る同作への思いを語った。

2022年の注目映画で主演の尚玄【写真:ENCOUNT編集部】
2022年の注目映画で主演の尚玄【写真:ENCOUNT編集部】

尚玄インタビュー 日本・フィリピン合作「GENSAN PUNCH 義足のボクサー」で主演

 2022年の注目映画の一つは、俳優の尚玄(43)主演の日本・フィリピン合作「GENSAN PUNCH 義足のボクサー」(年内公開予定)だ。フィリピンで活躍した実在の義足のボクサー、土山直純さんをモデルにした物語で、カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞したフィリピンの巨匠ブリランテ・メンドーサ氏がメガホンを取った。尚玄が「生涯の1作」と語る同作への思いを語った。(取材・文=平辻哲也)

「GENSAN PUNCH 義足のボクサー」は幼少期に右膝下を切断したボクサーが、プロ資格を取れない日本を離れ、フィリピンで活躍する物語。2005年にフィリピンに渡った土山さんと交流のあった尚玄が、映画化を企画。世界的な巨匠監督を口説き、7年越しでようやく発表までこぎつけた。

 メンドーサ監督は脚本を用意せず、その場で演出していくという独特な手法を取る。映画には、まるで主人公の人生の大事な瞬間に立ち会っているような感覚と感動がある。昨年10月の釜山国際映画祭では映画祭創設メンバーの名を冠にした「キム・ジソク・アワード」を受賞し、日本では11月の東京国際映画祭でプレミアを迎え、高い評価を得た。

 尚玄は「7年前に(土山)直純と、『いつか映画に』と話した僕らの夢が多くの人のサポートを受け、完成し、感無量でした。アジア圏では、HBOアジアでの配信になるのですが、日本では映画館で大切に上映していきたいんです」。撮影1年前からボクサーとしての体作り、約10キロの減量を行った尚玄は全身で役を体現しており、主演男優賞候補の有力候補といえるだろう。

 フィリピンで新天地を見いだそうとする主人公の生き様は、尚玄の俳優人生にも重なる。「監督とは、自分の生い立ち、俳優としての生き方、考え方なども話してきたんです。僕自身、日本人離れした顔だったので、若いときは日本ではなかなか役が取れなくて、30歳のときにはニューヨークに渡って、海外でチャンスをつかみたいと思ったこともありました」。

 ハリウッドでは、ベネディクト・カンバーバッチをはじめ、大物スターがプロデューサーとして企画を動かすのは当たり前になっているが、日本ではそうした俳優は数少ない。挑戦をテーマにしている映画は、製作自体も挑戦だった。「日本では前例があまりないということで、信じてもらえないこともありましたし、頓挫しかけたこともありました。追加撮影では、コロナ禍の影響もあって、監督が来日できず、リモートで演出することも。でも、諦めないでやり続けたことでようやく報われた」と振り返る。

 義足のボクシングシーンは苦労も多かった。「右足首は完全にテーピングで固定しているんです。だから、踏み込みが難しかったです。撮影前までに63キロくらいまでに落としてきたんですけども、監督からは顔のシワが目立つから、もう少し増やしてくれ、と言われて、体重を増やすこともありました。撮影が終わったときは、役に心を残してきたような感覚で、しばらく抜け殻のようになっていました」。

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