報道がバッシングを助長…元フリーアナの僧侶が語る誹謗中傷の恐怖とメディアの責任

近年、大きな社会問題となっているネット上での誹謗(ひぼう)中傷。「Yahoo!ニュース」でも今年10月から、違反コメントが一定数を超えた際にコメント欄を閉鎖する機能を導入するなど、本格的な対策を進めている。軽い気持ちで行った書き込みは、どのように当事者を追い詰めていくのか。いわれのない誹謗中傷から立ち直り、現在は天台宗の僧侶として中傷被害の相談も受ける照諦山心月院尋清寺の高橋美清さんに聞いた。

ストーカー被害から誹謗中傷につながる壮絶な体験を明かした高橋美清僧侶【写真:ENCOUNT編集部】
ストーカー被害から誹謗中傷につながる壮絶な体験を明かした高橋美清僧侶【写真:ENCOUNT編集部】

ある男性からストーカー被害を受け、加害男性が亡くなったことで誹謗中傷が激化

 【ネット社会と誹謗中傷(2)】近年、大きな社会問題となっているネット上での誹謗(ひぼう)中傷。「Yahoo!ニュース」でも今年10月から、違反コメントが一定数を超えた際にコメント欄を閉鎖する機能を導入するなど、本格的な対策を進めている。軽い気持ちで行った書き込みは、どのように当事者を追い詰めていくのか。いわれのない誹謗中傷から立ち直り、現在は天台宗の僧侶として中傷被害の相談も受ける照諦山心月院尋清寺の高橋美清さんに聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)

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 事の発端は高橋さんが「高橋しげみ」名義でフリーアナウンサーをしていた6年前にさかのぼる。長年取材していたある競技の有名選手の相談に乗ったことをきっかけに、その男性からストーカー被害を受け、加害男性はストーカー規制法違反の疑いで逮捕。騒動がマスコミに大きく報じられると、その業界のファンや関係者からは冤罪(えんざい)を疑うような事実無根の情報が書き込まれた。さらに逮捕から1か月後、加害男性が不慮の事故で亡くなると、自殺したのではという憶測が流れ中傷はさらにエスカレート。「人殺し」「クソババア」「いつ死ぬんですか」など、執拗(しつよう)な攻撃に絶えずさらされるようになった。

「業界のスター選手と地方のフリーアナでは立場が違う。加害男性のブログには一方的な主張が書かれていて、ネット上では私が仕組んで男性を死に追いやったということになっていた。僧侶になったことさえ、『化けて出てこられると困るからだ』とまで書かれていましたね」

 実際には100件もの脅迫電話とメールがあったものの、警察が公表した逮捕容疑は「メール3通と電話14件」。マスコミがこれに「被害女性は群馬県在住の50代フリーアナ」という情報を加えて報じたことで、高橋さんの特定を助長した。ワイドショーで大々的に取り上げられ、ある有名司会者が「3通のメールと14件の電話でストーカーになるなら、日本中の男は全員ストーカー」と加害男性を擁護する発言をしたことも、高橋さんへのバッシングを加速させた。

「加害男性の方は、私に『社会的に抹殺してやる』って言ったんです。誹謗中傷が始まると局に抗議の電話があって、30年やってきたテレビの仕事は電話一本で首を切られました。『その方が君のためだから』と。仕事がなくなったことで『やっぱりコイツはクロだった』と言われる。被害者のプライバシーこそ守られなきゃいけないはずなのに、私は人殺しとして仕事もなくなり、本当に社会的に殺されました」

 それでも本当に命を絶つことをしなかったのは、「ここで死んだら本当に自分が人殺しということになってしまう」との思いがあったから。出家後、天台宗総本山の比叡山で修行を積み、執拗に書き込みを繰り返していた4人を特定し面会、うち1人を提訴した。

「絶対に顔を見るまでは死ねないと、それだけが生きる力になっていた。言い方は悪いですが、見せしめは必要。書き込みを特定されて訴えられた人がいれば、それが今後の抑止力につながる。実際に会った方は一流大卒、省庁勤務のエリートでしたが開口一番『自分は悪くない』『みんな言ってるから』と言われ、あ然としてしまいました。その上で告訴を取り下げたのは、仏様だったらどうするかと考えたから。僧侶になった時点で仏様に預けた身、こんなことはもうやめなさいねと自分が諭していかないといけない」

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