「感染拡大で差別が減った」 ひっ迫する医療体制…現場医師が語る本音と提言

各地でデルタ株による新型コロナウイルスの感染拡大が続き、ひっ迫した医療体制が続いている。この1年半で医療現場を巡る状況はどう変わったのか。地域医療に携わる医師に現況を聞いた。

福岡県朝倉医師会病院の佐藤留美呼吸器内科部長
福岡県朝倉医師会病院の佐藤留美呼吸器内科部長

春先と変わった忙しさの質…改正感染症法による病院名公表には疑問の声も

 各地でデルタ株による新型コロナウイルスの感染拡大が続き、ひっ迫した医療体制が続いている。この1年半で医療現場を巡る状況はどう変わったのか。地域医療に携わる医師に現況を聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)

「現在はコロナ病床8床を医師2人、看護師11人で見ている状況。夜勤は看護師2人、日勤は3~4人体制で回していますが、通常の看護とは違い防護服着用、曇りやすいゴーグルに二重手袋、患者の身の回りの世話もすべて行うなど、はっきり言って環境はかなり劣悪。精神的にも肉体的にも限界に近い状態です」

 コロナ病棟で重症患者の診療にあたる福岡県朝倉医師会病院の佐藤留美呼吸器内科部長は、春先とは忙しさの質が変わってきたと語る。

「ワクチン接種が普及したためか、若い方の入院患者が増えた。中には中学生、高校生の肺炎患者もいます。食事やトイレの介助などは必要ないので、そのぶん看護師の負担は減っていますが、高齢者と比べると回復が早く、入退院のスパンが短いため事務手続きの忙しさは増しています」

 福岡では9月初旬現在、コロナ確保病床約1400床のうち約950床が使用中で、ホテルなどでの宿泊療養が約1500人、残り約1万人弱が自宅療養を強いられている。都市部ではかかりつけ医によるオンライン診療も行われているが、朝倉地区のような田舎では患者側に知識や設備がないことも多く、なかなかオンライン化が進んでいないのが現状だ。

「先日も40代の患者が運ばれてきましたが、自宅療養中にせきが止まらず血中酸素濃度が低下、肺炎の症状もあり、あと数日自宅療養が続いていれば間違いなく重症化しているような状態でした。ワクチンは重症化予防に効果がありますが、2回接種しても感染された方、肺炎を発症された方を第5波になって10名程は診察しました。ワクチンを打っても亡くなる可能性は否定できません」

 福岡の場合、コロナ病床を設けた医療機関には1床あたり1日4~5万円程の補助金が出る。それでも受け入れない医療機関には、それなりの理由があると佐藤医師は言う。

「この額の補助金が出るのであれば、どこの病院も専用病床を確保したいはずです。それができないのは建物の構造上隔離が難しかったり、感染症診療に慣れた医師や看護師の確保が難しかったりと、そもそも受け入れられる体制が整っていないから。内科医や看護師にもそれぞれ専門があって、誰でもコロナを見られるわけじゃない。コロナ診療に非協力的な医療機関に否定的な声もありますが、嫌だから、お金にならないからやらないのではなく、現実的にできないから。病院名の公表などで圧力をかけるのは疑問です」

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