3000万枚を売り上げた音楽P、松尾潔さんが53歳で作家デビューの理由
2008年、EXILE「Ti Amo」で第50回日本レコード大賞「大賞」を受賞し、累計セールス3000万枚を超える音楽プロデューサー、作詞家の松尾潔さん(53)が、初の小説「永遠の仮眠」(新潮社刊)を書き下ろした。ドラマ主題歌をめぐって、制作の危機に直面した音楽プロデューサーを主人公にし、テレビ、音楽業界の内実やあり方を問う物語。執筆には6年の歳月がかかった。売れっ子プロデューサーが53歳にして、小説に挑んだ理由は? 前編はプロデューサー人生を振り返る。
松尾潔さんが初の小説「永遠の仮眠」、EXILE「Ti Amo」でレコ大「大賞」受賞
2008年、EXILE「Ti Amo」で第50回日本レコード大賞「大賞」を受賞し、累計セールス3000万枚を超える音楽プロデューサー、作詞家の松尾潔さん(53)が、初の小説「永遠の仮眠」(新潮社刊)を書き下ろした。ドラマ主題歌をめぐって、制作の危機に直面した音楽プロデューサーを主人公にし、テレビ、音楽業界の内実やあり方を問う物語。執筆には6年の歳月がかかった。売れっ子プロデューサーが53歳にして、小説に挑んだ理由は? 前編はプロデューサー人生を振り返る。(取材・文=平辻哲也)
「永遠の仮眠」は元アナウンサーの妻と都内のふたり暮らしの43歳の音楽プロデューサー、光安(みつやす)悟が主人公。記録的な視聴率を叩き出したドラマ続編の主題歌を依頼され、今は低迷状態にあるかつての人気シンガー、櫛田義人を起用するが、ドラマプロデューサーからはダメ出し、さらにトンデモな提案をされ、曲作りは難航してしまう……というストーリーだ。
表紙カバーには、松尾さんがデビュー曲をプロデュースした「三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE」の岩田剛典を起用。登場人物のシンガー、櫛田義人を思わせる人物を演じた。松尾さんは「岩ちゃんは、『松尾さんの自叙伝のような感覚で読みました』とコメントしてくれて、それを新潮社の方が『よし、来た!』とコピーのように使っているから、暗に認めたようになっているけども、自叙伝ではないです(笑)。もちろん、僕の実体験をもとにしたところもありますが、僕はもっと狡猾。悟のような純粋な人間はそもそも、自分が体験したことを小説にしようなんて邪心はないでしょう」と笑う。
とはいえ、小説の主人公は間違いなく、松尾さんの分身だ。いくつかの重要な出来事は事実であることは明確で、だからこそ、その時の感情が生々しく伝わり、読者が物語を読み進める原動力になっている。これは仕掛け人ならでは、の勘所なんだろう。「フィクションにリアリティーを与えるためには、ひとつまみの事実があるといいなと思ったんですね」。
しかし、業界内幕を書くことにためらいもあった。「ミュージシャンの方がバンドの話を書くと、『自分のことを書きやがって』とやゆされがちですよね。でも、警察出身の方は警察ものを書きますし、(『半沢直樹』シリーズの)池井戸潤さんも銀行出身で、銀行ものを書かれています。日本の中でエンターテインメントをインサイダー的に特化して書く人がいるにしても、僕ほど当事者として入り込んだ人はそうそういないと自分に言い聞かせて書きました」