40歳目前にぶつかったシンガーとしての壁、中田裕二が克服した「過去に囚われない自分らしさ」

シンガー・ソングライターの中田裕二が、通算10作目となるアルバム「PORTAS」(ポルタス)を11月18日にリリースした。前作からわずか7か月というハイペースで作り上げた背景には、今この時代だからこそ歌で伝えたいことが、あふれ出てきたという。今作は哲学っぽさを帯びたアルバムタイトルやアートワークが特徴的だが、楽曲自体は、堅苦しさは何ひとつなく、むしろストレートに心に響く1つ1つの言葉、そして中田のトレードマークとも言える艶やかで濃淡のある歌声が、優しく傷ついた心をそっと包み込んでくれる。30代最後の年に中田が、門(=PORTAS)をくぐって見えた先の世界とは?

通算10作目のアルバム「PORTAS」をリリースした中田裕二
通算10作目のアルバム「PORTAS」をリリースした中田裕二

“僕ならでは”をずっと探してきた

 シンガー・ソングライターの中田裕二が、通算10作目となるアルバム「PORTAS」(ポルタス)を11月18日にリリースした。前作からわずか7か月というハイペースで作り上げた背景には、今この時代だからこそ歌で伝えたいことが、あふれ出てきたという。今作は哲学っぽさを帯びたアルバムタイトルやアートワークが特徴的だが、楽曲自体は、堅苦しさは何ひとつなく、むしろストレートに心に響く1つ1つの言葉、そして中田のトレードマークとも言える艶やかで濃淡のある歌声が、優しく傷ついた心をそっと包み込んでくれる。30代最後の年に中田が、門(=PORTAS)をくぐって見えた先の世界とは?(取材・文=福嶋剛)

 前作9枚目のアルバム「DOUBLE STANDARD」をリリースする前の2019年の話になるのですが、40歳を前にシンガーとしても作詞作曲家としても、いろんなことで壁にぶち当たって、どうも調子が悪くなっちゃって「これは、ちょっと困ったな?」って。そんな時期が続いていたんです。

 同世代のアラフォーの人たちって、家族がいたら食べさせていかなくちゃいけないし、会社では中間管理職みたいなポジションで、なかなか今までみたいに報われないし、さまざまなプレッシャーものしかかってくるようなそんな時期ですよね。それで自らを精神的にも肉体的にも追い込んでしまう人も多いと聞きます。僕もまんまとそうなっちゃったのかなって。

 そんな挫折を克服できたのは「人」が1番大きかったんです。僕は結構頑な性格で、他人の意見に素直に同意できない面もあったのですが、同じようにいろんな悩みを抱えながら頑張って働いている友人たちと会って、彼らの人生哲学みたいなものを聞いているだけで、自分にはない視点を発見できたり、今まで囚われていたことは大したことではなかったと気付かされたり「自分なんてものはちっぽけなんだ」って。こだわりを捨てて生きてもいいんだって感じました。

 それとやっぱり芸術に救われたというか。本、映画、アート、そして自分が助けられた音楽。そんな“自分の本音”を吐露したのが「DOUBLE STANDARD」で、レコーディングに入った途端すごく心境の変化があって「あっ!音楽って楽しい」って(笑)。それでようやく次の自分の立ち位置が見えてきて。

 自分が追い求める作品もこれまでは、“ダンディズム”だったり“哀愁感”といった「大人への憧れ」が強かったのですが、実際にその年齢に達すると「憧れ」から「リアリティー」に変わったんです。昔から僕にとって1番大事なことは「今この瞬間の自分らしさ」なので、今は大人の苦しみに寄り添ってくれるような歌を歌いたいって強く感じるようになって。それを音にしていくと、昨日の悩みが嘘のように消えて。本当に楽しくて「やっとやりたかったことが見つかった」そう実感したんです。

 すると、これまで僕がファンとの距離を大切にするあまり、真ん中に置いていた余計なパーティションが実はいらなかったことに気付いて。それを無くしたことで、表現したいことがよりダイレクトに表現できて本音を伝えられる。バンドから数えて20年ぐらい音楽をやってますが、ようやく自然とそういうものを作れるようになってきたという、そんな自信が持てた瞬間でした。

「DOUBLE STANDARD」をリリースした後、新型コロナの影響でライブやプロモーションが全部自粛でなくなってしまい。その間ずっと家で曲作りをしていて、他にも哲学について興味を持ち、たくさんの本を読んで学んでいくうちに、曲のイメージがどんどんと沸いてきて、そのまま勢いがついて止まらなくなり、気付いたらデモを30曲ぐらい作って(笑)。それで早速アルバムを出したくなったんです。それが、今回の「PORTAS」です。非常に内省的だった「DOUBLE STANDARD」とは違って、完全に外向きなメッセージをダイレクトにのせた作品です。やっぱりコロナ禍だからこそ、生まれたアルバムかなと思っています。

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