65歳男性が未経験から保育士に…「会社員では得られない喜び」人生100年、老後の“履歴書”

人生100年時代、定年後も外へ出て働き続けるシニアは珍しくない。今夏、42年間勤め上げた企業を退職、65歳で新人保育士として新たなキャリアを歩み始めた男性がいる。愛知県内のたかなし保育園で7月から働き始めた岩瀬進一郎さんは、定年を目前にした59歳から保育士資格の勉強を始め、4度目の受験で見事合格。65歳の定年退職と同時に保育士への転身を果たした。なぜ、まったくの未経験から、保育の仕事を志したのか。第2の人生に込めた思いを聞いた。

定年退職後、65歳で保育士となった岩瀬進一郎さん【写真:栄寿福祉会提供】
定年退職後、65歳で保育士となった岩瀬進一郎さん【写真:栄寿福祉会提供】

定年を目前にした59歳から保育士資格の勉強を始め、4度目の受験で合格

 人生100年時代、定年後も外へ出て働き続けるシニアは珍しくない。今夏、42年間勤め上げた企業を退職、65歳で新人保育士として新たなキャリアを歩み始めた男性がいる。愛知県内のたかなし保育園で7月から働き始めた岩瀬進一郎さんは、定年を目前にした59歳から保育士資格の勉強を始め、4度目の受験で見事合格。65歳の定年退職と同時に保育士への転身を果たした。なぜ、まったくの未経験から、保育の仕事を志したのか。第2の人生に込めた思いを聞いた。

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 1961年7月7日生まれの岩瀬さんは、大学卒業後、23歳でミシンやプリンターを手がけるメーカーの販売子会社に入社。会社員時代は長く営業畑で活躍、60歳の定年後は雇用延長制度を利用し、65歳の誕生日を迎えた今年7月7日まで、42年にわたって勤め上げた。

 会社員一筋だった岩瀬さんが、保育士になることを意識したのは、定年後の生き方を考え始めていた59歳のとき。

「当時は60歳で会社を離れるかもしれないと考えていたものですから。元気で働けるうち、もう少し生活に密着した近い場所で何か仕事ができないかと考えていました。ちょうどそのころ、大手外資系企業を退職後に保育士になったという男性の記事を見て、子どもに囲まれた保育士という仕事も面白そうだなと」

 だが、家族の反応は厳しかった。もともと特別子ども好きだったわけでもなく、実子3人の子育ては専業主婦だった妻や、同居していた両親が主体。現在は4人の孫に囲まれ、「良きおじいちゃん」としての一面も見せるが、保育士勤めをしていた長女からは「無理に決まってる」「子どもの命を預かるのはそんなに簡単なものじゃない」とくぎを刺されたこともあったという。

 それでも一念発起し、独学で試験勉強を開始。6万円で購入した通信教育セットは、分厚いテキストとDVDの量に圧倒され挫折してしまったが、駅の書店で目に入った「これさえあれば保育士になれる!」といううたい文句の参考書と過去問を手に、通勤電車や会社帰りの喫茶店で受験対策に励んだ。

 9科目の筆記試験は約2年をかけ、4回目の受験で全科目をパス。楽器演奏の実技試験では、受験者の大半がピアノ演奏を行うなか、中高生時代に慣れ親しんでいたフォークギターを引っ張りだして臨み、61歳の秋、念願の保育士資格を取得した。

65歳で退職を迎えた今年7月、人材会社の紹介を通じて初めて保育の現場に

 65歳で退職を迎えた今年7月、人材会社の紹介を通じて縁があったのが、現在勤務するたかなし保育園だ。理事長との面接の際、96歳の父と91歳の母の介護など、家庭の事情まで考慮してくれたことも円滑な採用につながった。実際の保育現場に立って1か月あまり。まだまだ新人で、年の離れた保育士から指導を受けることも少なくない。

「子どもたちから目を離してはいけないと口酸っぱく言われていて、就業時間中はずっと気を抜けない緊張感がありますね。子ども同士のトラブル対応など、やっぱり経験の差を痛感する場面もたくさんある。一方で、『しんいちろうせんせい!』と呼ばれ、子どもたちから抱き付かれるのは、素直にうれしい。会社員時代には得られなかった喜び、やりがいのある仕事です」

 会社員として培った長年の営業経験は、保育の現場でも生きている。「大人も子どもも、人前で接するときの態度は、あまり形式ばらず、少し気持ちを楽にして近づいていくことが大事」。保育士としては新人ながら、子どもたちと触れ合う様子にはベテランの風格も漂わせる。

「人生100年」と言われる時代、長い会社員生活を終え、定年後に生きがいを見失うシニアも多い。還暦を過ぎてから新しい挑戦を行うことにためらいはなかったのか。

「一度社会から離れてしまうと、そこから戻るのは並大抵のことではありません。元気に仕事を続けられるうちは、少し社会に縛られているくらいの方が、体も気力も元気でいられるのではないでしょうか。やはり、子どもたちや若い人からパワーをもらえる部分もある。会社を離れて次の仕事を探す際、これまでの経験とは別に新しい環境に身を置いてみることは、もう一度気持ちを若返らせ、リフレッシュするという意味でとても良いことではないかと実感しています」

 この先、何歳まで保育士の仕事を続けるのか、明確な答えはまだない。「こればかりは何とも言いようがありません。この年ですので、体力と気力が続く限り、現役で続けていきたいと思っています」。定年という節目を、新たな出発点に変えた65歳の新人保育士は、子どもたちの笑顔に囲まれながら、第二のキャリアを歩んでいく。

次のページへ (2/2) 【写真】子どもたちと戯れる岩瀬さん
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