田中みな実、人間がAIに翻弄されるのは「ナンセンス」 慎重派な素顔と“信じるもの”

俳優の田中みな実が、11日公開の映画『5秒で完全犯罪を生成する方法』に出演する。生成AIを題材にしたサスペンスで、田中が演じるのは謎めいたトップ女優・七希。撮影では、これまで経験したことのない演出も待っていた。

『5秒で完全犯罪を生成する方法』に出演する田中みな実【写真:増田美咲】
『5秒で完全犯罪を生成する方法』に出演する田中みな実【写真:増田美咲】

映画『5秒で完全犯罪を生成する方法』で謎めいたトップ女優役

 俳優の田中みな実が、11日公開の映画『5秒で完全犯罪を生成する方法』に出演する。生成AIを題材にしたサスペンスで、田中が演じるのは謎めいたトップ女優・七希。撮影では、これまで経験したことのない演出も待っていた。(取材・文=平辻哲也)


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 映画は、フリーライターの初海航(重岡大毅)が、教師を殺害してしまった妹・幸来(原菜乃華)を守るため、生成AIを駆使して事件の隠蔽を図るサスペンス。田中演じる七希は、兄妹が事件の真相を追う中でたどり着くトップ女優で、七希の脳内生成AI「モリアーティ」と深く関わっていく。

 撮影は1月。公開は9月という異例のスピードだ。

「映画は公開まで大抵1年以上はかかると思うのですが、今作は1月に撮影したものが9月に公開される、異例のスピード感でした。生成AI、いわゆるChatGPTのようなものがテーマになっているからには、鮮度とスピード感を大切にしたい、いち早く公開したいという制作陣の気概を感じました」

 オリジナル脚本であることにも新鮮さを感じた。

「今すごく旬のテーマを扱わせてもらっているんだなと。しかも、オリジナル脚本で。全てが新しい感じがしました」

 七希は初海兄妹とは違う世界で生きるトップ女優。ただ、その肩書だけで説明できる人物ではない。脚本には、七希の過去や内面が細かく書き込まれているわけではなかった。田中は撮影前、近藤亮太監督に人物像について尋ねたという。

「監督からは『描かれていない部分に関しては自由なので、田中さんの思ったようにやっていただいて結構です。僕は自分の中で答えは持っていますが、あえてそれは共有しません』と言われました。すごく戸惑いましたね」

 そこで近藤監督から渡されたのが、『羊たちの沈黙』『バレリーナ』『マーサ、あるいはマーシー・メイ』の3本の映画だった。

「3本の作品を時間をかけて丁寧に見ました。すると、なるほど、監督はこういう七希像をイメージしているんだということがすごくよく分かって、役が深まりました。モリアーティ教授と七希の関係は、『羊たちの沈黙』のレクター博士とクラリスの関係性を匂わせるようなものなのかなと。『バレリーナ』からは、ものすごく強い女性像を感じました。弱さを微塵も感じない。ガンガン突き進んでいく。でも、孤独。そういう感じでいいんだというヒントを得ました」

 七希には、強さと危うさが同居する。人を信用できず、自分しか信じられない。そんな中で出会った生成AIを「モリアーティ」と名付け、心のよりどころにしていく。

「当初はAIを利用していたはずなのに、いつの間にか立場が逆転している。AIに利用されるようになってしまった。でも、本人はその依存に気づいていない」

 初海兄妹と対峙する場面では、「余裕」を意識した。

「自宅に初海航を招いた時にお茶を出すシーンがありました。危機迫る状況にもかかわらず、悠然と過ごし、紅茶をいただく。話し口調も2人に対してはかなり強気です。余裕を感じさせることで不気味さが滲むといいなと」

 撮影では、近藤監督ならではの演出も待っていた。

「近藤監督が『今回はサスペンスだけど、ちょっとホラーっぽく撮りたいんだよね』と最初におっしゃっていました。モリアーティ教授との世界観の中で、『後ろ向きで歩いてください』とか『セリフを逆さで読んでください』とか、急に言われるんです。どういうこと?? とハテナでいっぱいでしたが、実際に映像になってみると、それが妙な違和感を生み出しているんですよね」

 音声も後から録り直した。あえて口の動きと声を合わせず、わずかなズレを作った。

「ちょっとした気持ち悪さというか、それが現実じゃない空間を作り出すのだなと。今まで体験したことがない撮影技法でした」

AIとの付き合い方について明かした【写真:増田美咲】
AIとの付き合い方について明かした【写真:増田美咲】

AIとの付き合い方について「慎重に考えるきっかけに」

 共演者から受けた刺激も大きかった。主演の重岡について、田中は「みんなのお兄ちゃん」と表現する。

「パブリックイメージより、とても真面目な方でした(笑)。いろんなところに目がついていて、スタッフさん、私たち、ロケ地をお借りしている方々への配慮も行き届いていました。現場の座長というより、お兄ちゃんみたいな感じかな」

 原とは、強く対峙する場面があった。

「原さんは、役に入った時の感情のあふれ方がすさまじいんです。目の力がものすごく強い。彼女を追い詰めるシーンで、すごい力で見返してくるんです。その目に圧倒されそうになりました。ちょっとでもそらしたら負けると思った。画面で見ていもすごい女優さんだと思っていましたが、実際に目の前で芝居を受けると、いっそう素晴らしい俳優さんだと感じました」

 AIに寄りかかっていく七希を演じた一方、田中自身と生成AIとの距離は近くない。

「私は生成AIにあまりなじみがないんです。それほど頼ることも、よりどころにすることもありません。一応ダウンロードはしているんですけど、翻訳アプリとして使用しているくらいかな。海外の友人とやり取りをする際に、フランクな英語の表現を聞くと何パターンも出てくるのは便利だなと思います」

 ただ、それ以上の使い方には慎重だ。

「私は個人情報にはかなり慎重になってしまいます。周りから『今こういうのがはやっているから聞いてみなよ』と言われることもありますが、これって個人情報を与えているんじゃないかなと疑ってしまうんですよね」

 では、七希がAIをよりどころにしたように、田中自身が判断の指針にしているものは何なのか。

「若い頃は、誰かに依存したり、友人や尊敬する人をよりどころにすることもあったかもしれません。でも、40歳を目前にした今、本当に信じられるのは自身が経験してきたことだけなのではないかという気がしています」

 海外で過ごした幼少期、中学、高校での女子校生活、部活動、前職で得た経験や人脈。その一つひとつが現在の自分を形作っているという。

「これまで経験してきたことは、一見遠回りに思えても無駄なことは一つもなくて、全てが今の自分につながっている。きれいごとに聞こえるかもしれませんが、本当にそうで。その一つひとつが今の自分を形成していて、何かを選択する時の指針になっていると思います」

 作品を通じて、AIとの付き合い方に一つの正解を示そうとしているわけではない。

「この作品はAIとの関わり方の是非を問うているわけではありません。それぞれの関わり方があっていい。私は、生成AIは、現状、0から1を生み出せないものだと思っています。私たち人間は、0から1を生み出すことで世の中を作ってきた。つまり、人間がAIに翻弄されることがあってはならないと思うんです。自分たちが作り出したものに踊らされるなんてナンセンスですから」

 特に見てほしいのは、AIとともに育ってきた若い世代だ。

「物心ついた頃から生成AIと共に歩んできた、いわゆるZ世代とされる方々には、AIとの付き合い方について慎重に考えるきっかけにしていただきたいなと。決して翻弄されてほしくない。あくまでも利用する側の人でいてほしい。それは、七希としてのメッセージです」

 AIを利用していたつもりが、いつしかAIに利用されていく七希。その人物を演じた田中自身は、自分の経験を判断のよりどころにしている。便利なものを使うことと、自分の判断まで預けることは違う。生成AIを題材にしたサスペンスは、人間が何を信じ、どう使いこなすのかを問いかける作品にもなっている。

□田中みな実(たなか・みなみ)1986年11月23日生まれ、埼玉県出身。2019年12月発売のファースト写真集『Sincerely yours…』は大ヒットを記録。19年『絶対正義』でテレビドラマ初出演後、21年『ずっと独身でいるつもり?』で映画初主演、23年『悪女について』でNHKドラマ初主演を務めるなど、俳優としても話題作への出演が続く。近年の出演作には25年『愛の、がっこう。』、『フェイクマミー』などがある。26年9月17日にはNetflixシリーズ『ダウンタイム』の配信を控える。

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