「家族と過ごしたい」ICU入院中の高齢女性が直訴 転院先ホスピスで叶えた20人の家族との時間

埼玉県狭山市で10年にわたり在宅医療を支えてきた医療チームが、新たな挑戦として入居型施設「あんずの家」を今年6月にオープンした。コンセプトは「おうちの延長線上」。そこには、住み慣れた家で最期を迎えることが難しくなった現代の社会状況と、病院というシステムが抱える構造的な限界への、医療者たちの切実な問題意識があった。同施設を運営する医療法人あんず会で、「あんずの家」の施設長を務める大重崇氏に話を聞いた。

在宅医療を支えてきた医療チームが入居型施設をオープンした
在宅医療を支えてきた医療チームが入居型施設をオープンした

在宅医療チームが今年6月に新たな挑戦

 埼玉県狭山市で10年にわたり在宅医療を支えてきた医療チームが、新たな挑戦として入居型施設「あんずの家」を今年6月にオープンした。コンセプトは「おうちの延長線上」。そこには、住み慣れた家で最期を迎えることが難しくなった現代の社会状況と、病院というシステムが抱える構造的な限界への、医療者たちの切実な問題意識があった。同施設を運営する医療法人あんず会で、「あんずの家」の施設長を務める大重崇氏に話を聞いた。(取材・文=島田将斗)


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 これまで地域で多くの患者と向き合ってきた大重施設長は、在宅医療の現場で「ある現実」に直面していた。

「高齢者の一人暮らしや老老介護、あるいは仕事をしながら介護をする家族の負担など、家ではどうしても看きれなくなってしまう現状があります。在宅ケアを受けて住み慣れた場所で最期まで過ごせるのがベストですが、社会の現実として、家を離れざるを得ない方々が駆け込める場所が必要でした」

 家での生活が困難になると、多くは病院への入院か施設への入所を選ぶことになる。しかし、病院はあくまで「病気を治療する場所」であり、「生活する場所」としては最適化されていないと指摘する。

「病院には、食事の制限や面会時間の制限があり、消灯時間も決まっています。カーテン1枚隔てた向こうには他の患者さんがいて、モニターやナースコールの音が響いている。自分の人生を閉じる場所が、そうした制限の多い場所でいいのかという思いがありました」

 そうした課題を解決するために開設されたホスピス「あんずの家」は、同施設が掲げる「自由」と「個人の尊厳」に徹底的にこだわっている。

 病院では制限されがちな食事も本人の希望を最大限に尊重する。また、入浴が困難な状態でも最期までお風呂に入れるよう、最新の機械浴も導入した。

「あんずの家」の施設長を務める大重崇氏
「あんずの家」の施設長を務める大重崇氏

「人が亡くなること自体は、決して悪いことではない」

 そして何より重視しているのが、「大切な人との時間」だという。

「私は新型コロナ禍で、施設で最期に一緒に時間を過ごすことができなかったご家族をたくさん見てきました。意識がないような状態でも、ご家族が来ると表情が和らぐことが本当にあるんです。だからこそ、どうやったら会えるかを考え、制限を設けるのではなく『会いたい時に会える』場所を提供したいんです」

 実際、同施設では夜間も含めて24時間の面会が可能となっており、都心から電車で最短40分、さらに駅から徒歩30秒という立地も、家族や友人のアクセスの良さを考えてのことである。

 6月のオープン直後には、施設の理念を体現するような出来事があった。病院のICU(集中治療室)に入院中で、いよいよ最期の時が近づいていた高齢女性の受け入れだ。

 持続的に昇圧剤(血圧を上げる薬)を点滴しなければならない、重症状態。それでも「家族と過ごしたい」「今日帰りたい」という本人の強い希望があった。白羽の矢が立ったのが「あんずの家」だった。医師と看護師が24時間体制で連携し、在宅で高度な緩和ケアを提供できる仕組みを10年かけて整えてきた施設である。

 医療的な引き継ぎと医療機器の設定を迅速に行い、女性は無事に施設へ到着した。その日の夜、居室を訪れた大重施設長は思いがけない光景を目にしたという。

「言葉はしっかりとしている方で、部屋に入りきらないくらい、20人ほどの子どもやお孫さんに囲まれていました。しかも皆さんすごくいい笑顔で、談笑しているんです。亡くなる前の病室とは思えないような明るい雰囲気の中で、ご本人も笑っていました」

 ICUでは決して実現できない瞬間だった。「その姿を見て、本当に自分がやりたかったことはこういうことだったんだと、胸が熱くなりました。これまで家では看きれなかった方々の受け皿になり、こうした最期を作れるようになったこと。まだ1例目でしたが、この施設をやってよかったと心から思えました」と感慨深げに明かした。

 リハビリ専門職である大重施設長は、患者と直接向き合ってきた時間が長い。かつては人の死に慣れず大きく気持ちが落ち込むこともあったというが、現在はまた違った死生観を持っている。

「人が亡くなること自体は、決して悪いことではないと考えています。それまでの間にいかにその人と濃い時間を過ごし、どういう時間を共有するかのほうが大切。短い時間であっても、しっかりとその人と向き合い、大事な時間を過ごしていきたいと思っています」

 面会謝絶の病室ではなく、大切な人たちの笑い声に包まれた部屋で迎える最期。徹底した患者ファーストの姿勢と、確かな医療技術に裏打ちされた「あんずの家」は、この地で10年、在宅医療と向き合ってきた医師やスタッフたちの結晶だ。

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