小手伸也を鍛えたコールセンターでの10年 理不尽なクレーム対応が生んだ俳優としての意外な武器

舞台『コテンペスト』(6月27日開幕、本多劇場にて、脚本・演出:村上大樹)で初主演・初座長を務める小手伸也(52)。「シンデレラおじさん」として親しまれている遅咲きの個性派は「今SNSで何を言われても割と平気なんです」と語る。その裏には10年近くに及ぶコールセンターでの日々があった。

舞台『コテンペスト』で初主演・初座長を務める小手伸也【写真:増田美咲】
舞台『コテンペスト』で初主演・初座長を務める小手伸也【写真:増田美咲】

舞台『コテンペスト』で初主演・初座長

 舞台『コテンペスト』(6月27日開幕、本多劇場にて、脚本・演出:村上大樹)で初主演・初座長を務める小手伸也(52)。「シンデレラおじさん」として親しまれている遅咲きの個性派は「今SNSで何を言われても割と平気なんです」と語る。その裏には10年近くに及ぶコールセンターでの日々があった。(取材・文=平辻哲也)

 ドラマ『コンフィデンスマンJP』や『SUITS/スーツ』などで強烈なキャラクターを演じ、40代半ばで大ブレイクを果たした小手。早稲田大の演劇サークル出身で、同世代には後に「小劇場界のプリンス」と呼ばれる堺雅人がいた。「間近で見ていて、こういう人が売れるんだろうなと思っていました。僕はどっちかというと若い頃から“マイノリティーオーラ”がすごい出ちゃってたんで」と自虐的に振り返る。

 演劇一筋で生きてきたが、40歳頃に制作会社の倒産に巻き込まれギャラが出なくなるという危機に見舞われる。生活のために再開したのが、通販番組のコールセンターでのアルバイトだった。大学時代も含めるとトータル10年弱、『SUITS/スーツ』に出演している最中も電話を取り続けていたという。

 この経験が、思わぬ形で俳優としての血肉になっていく。

「電話の応対って、ある意味お芝居なんです。フリートークが始まったお客様をどう注文に戻すか、強引にクレームを入れてくる人にどう対応するか。そういうことを考えながら会話を組み立てると、ただのアルバイトも演技の訓練になるんです」

 さらに理不尽なクレームに向き合い続けるうちに、「人は期待を裏切られたからこそ怒るんだ。この人の理想は何で、それに応えられなかった原因は何だったのか」と、怒りの先にある論理的な因果関係を冷静に分析するようになったという。

 この視点こそが、現在の小手を支える最強の「SNS対策」として機能している。「『この役は僕ではなく佐藤二朗さんにやってもらいたかったんだな。じゃあこの人は何を望んでいるのか? 二朗さんが求められて僕が拒絶される理由は何か?』みたいに考えられるようになったんです」。感情的にならず一歩引いて状況を分析する力は、コールセンターでの10年が育んだ賜物だ。

「苦手だから遠ざける」を許さないこの姿勢は、映像の仕事に向き合う上でも一貫していた。もともとは映像への苦手意識が強く、「ともすれば嫌いとちょっと公言していた」ほどだったという。観客のリアクションを見ながら芝居を変えられる舞台と違い、カメラの向こうにいる何百万人の視聴者を相手にする映像の世界は、長らく「折り合いがつけられない」ものだった。しかし小劇場で叩き込まれた「できない・やらないは言わない」という鉄則が、彼を映像の世界へと踏み出させた。「苦手だから遠ざけるは絶対に良くない。俳優としてスキルアップを目指すなら」。

 挑戦を続けるうちに映像の面白さが見えてきた小手が、すべてを賭けたドラマ初レギュラー作品が『コンフィデンスマンJP』だった。「ここで全部出して、何も得られなかったら僕はここまでだと思うぐらいの意気込みでした」。演劇で培ってきたスキルを余すことなく注ぎ込んだ結果、視聴者の心をつかみ、一気にブレイクを果たす。コールセンターで鍛えた分析力と、苦手から逃げない姿勢。二つが重なったとき、長い雌伏の時代はようやく終わりを告げた。

 今やテレビ局のスタジオのエレベーター前でプロデューサーから見送られるほどの立場になった。しかし本人は「ありがとうございましたって頭を下げてもらえるような人間ではないという気持ちが今も残っている」と謙虚に笑う。「皆様にどう見てもらい、どう評価されるか。皆様の目線があってこその自分だということが日に日に身にしみています」と小手。おごることなく今日も真摯(しんし)に芝居と向き合い続けている。

□小手伸也(こて・しんや)1973年12月25日生まれ、神奈川県出身。早稲田大の演劇サークルを経て劇団を主宰。2018年、ドラマ『コンフィデンスマンJP』の五十嵐役でブレイク。映画『SAKAMOTO DAYS』が公開中。

俺もそろそろシェイクスピア・シリーズ『コテンペスト』
原作:W.シェイクスピア(小田島創志 翻訳「テンペスト」より)
脚本・演出:村上大樹
出演:小手伸也、片桐仁、崎山つばさ、AOI(WHITE SCORPION)、松田凌、井澤勇貴、佐藤真弓、土本燈子、津村知与支、久ヶ沢徹、鈴木保奈美

【東京】2026年6月27日(土)~7月7日(火) 本多劇場
【大阪】2026年7月17日(金)~19日(日) COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール

トップページに戻る

あなたの“気になる”を教えてください