「ポルノ大国日本」の実態 専門家が警鐘を鳴らす“依存症”…動画に中毒性、女性の相談も

「気づけば毎日見ている」。スマホ時代に広がる“ポルノ依存”の実態とは。スマートフォンの普及により、誰もが簡単にアクセスできるようになったポルノ動画。その裏側で、「やめたくてもやめられない」と悩む人が増えている。“日本唯一”のポルノ依存症専門カウンセラーで、新著『脳が壊れる インターネットポルノ依存症』(すばる舎)を刊行した牧師の石川有生(ともみ)さんに話を聞いた。

オンラインで相談を受ける石川有生さん【写真:本人提供】
オンラインで相談を受ける石川有生さん【写真:本人提供】

日本は「ポルノ大国」 スマホ普及で増える視聴者

「気づけば毎日見ている」。スマホ時代に広がる“ポルノ依存”の実態とは。スマートフォンの普及により、誰もが簡単にアクセスできるようになったポルノ動画。その裏側で、「やめたくてもやめられない」と悩む人が増えている。“日本唯一”のポルノ依存症専門カウンセラーで、新著『脳が壊れる インターネットポルノ依存症』(すばる舎)を刊行した牧師の石川有生(ともみ)さんに話を聞いた。

 世界で最も見られている動画サイトは何だろうか?

 YouTubeやNetflix、Amazonプライムビデオなどを思い浮かぶ人が多いだろう。

 2021年にグローバルなアクセス解析サービス「SimilarWeb」が公開したデータによると、1位はYouTube。だが、2位、3位には、大手ポルノサイトが並ぶ結果となった。

 日本でも需要は高い。世界的に「ポルノ大国」とも呼ばれ、独自のカルチャーを形成してきた。「Japanese」という単語で検索され、セクシー女優がアジア圏でアイドル的な人気を得るケースもある。

 表舞台に出ることは少ないものの、幅広い分野で“市民権”を得ているポルノ。しかし、その裏では、過度な依存から抜け出せず、私生活や心身を狂わされてしまう人もいる。

 石川さんによると、ポルノ依存症とは「見たくないのに日課のように見てしまい、その結果、生活に支障が出ている状態」を指す。単に視聴しているだけではなく、「やめたいのにやめられない」「仕事や人間関係に影響が出る」といった段階に至って初めて、依存症と呼ぶそうだ。

 具体的には、夜ふかしによる生活リズムの乱れ、仕事への集中力低下、対人関係の悪化などが挙げられる。中には「男女関係がうまくいかなくなる」「精神的に不安定になる」といった深刻なケースも少なくない。ポルノ視聴者の男性の約3割に依存の傾向があるとする研究もあるという。

 石川さんがポルノ依存症の人たちにカウンセリングを始めたのは22年のことだ。きっかけは、意外なところにあった。

 ある日、ポルノサイトに数学の授業動画を投稿した台湾人教師の話がSNSで話題になった。キリスト教の牧師として活動していた石川さんは、「ポルノサイトに聖書の動画を載せれば、ふだん教会に来ない人に届くかもしれない」と思い立った。そんな構想を、出会う人に話していたところ、「実はポルノがやめられない」と打ち明ける人が現れた。

「やめたい人がいること、そしてやめられないということの両方に驚きました」

 薬物やアルコール依存症、ギャンブル中毒の当事者と向き合ってきた牧師としての経験を生かし、試行錯誤しながらアプローチを始めると、効果が出た。現在は月10件ほど、オンラインで全国から相談を受けている。

 依頼者の多くは20~30代の男性だ。20代は視聴時間が長くコントロールが難しい傾向があり、30代は仕事や家庭のストレスの発散として利用しているケースが目立つ。

「40代や50代は、惰性で習慣として見ている印象があります。まれに70代もいます。スマホを手にしてしまった高齢者がやめられなくなった、みたいなケースもあります」

牧師としても活動している【写真:本人提供】
牧師としても活動している【写真:本人提供】

刺激の強い動画に中毒性…女性からの相談も

 石川さんがカウンセリングでまず伝えるのは、依存症の背景には快楽物質ドーパミンの仕組みがあるという説明だ。

「ポルノを見て自慰行為をするとドーパミンが分泌されます。その快感をまた得ようとして繰り返す。同じものを見ても刺激が薄れるので、もっと過激なものを求めるようになる。これは脳の仕組み上、しょうがないんです」

 つまり、道徳的な問題でも意志の弱さでもない。そう伝えることで、罪悪感に縛られていた当事者が「受け止めやすくなる」という。

 依頼者は男性だけではない。女性からの相談も寄せられている。

「男性は見て自慰行為が終われば一区切りつきますが、女性は脳内でファンタジーをつくる力が強く、終わりがないと聞きました。何時間でも続けられてしまうと」

 1日3~4時間の視聴で家事が手につかなくなった女性の事例もあった。「人生で初めて人に話せた」という告白をきっかけに、状況が改善していったという。女性はカウンセリングに来ること自体のハードルが高く、実態はまだ見えにくいのが現状だ。

 ポルノ依存症の本質について、石川さんはこう指摘する。

「依存症は“孤独の病”とも言われます。何かが好きだからではなく、ストレスや孤独を埋めるために依存していくケースが多い。英語でアディクション(依存)の反対語はコネクション(つながり)です。人とのつながりが薄いと、ハマりやすくなる」

 実際、依頼者の多くに共通するのが「人間関係が少ない」「趣味がない」「一人で過ごす時間が長い」といった生活環境だ。サンプルは少ないが、「女性の依頼はほとんど100%、一人暮らしの人でした」。スマホが常に手元にあることで、依存はさらに加速する。

依存症は“孤独の病”と話す【写真:ENCOUNT編集部】
依存症は“孤独の病”と話す【写真:ENCOUNT編集部】

破綻する夫婦関係…「ポルノは現実とは別物」

 カウンセリングでは、いきなり視聴をやめるのではなく、段階的に減らしていく方法を取る。例えば「毎日見ている人は回数を半分にする」「見る時間をあらかじめ決める」といった具体的なルールを設定する。

「我慢は続きません。コントロールできる状態を作ることが大切です」

 この方法により、約9割の人が視聴時間の減少を実感しているという。

 さらに重要なのは、生活そのものの見直しだ。

「ポルノをやめることがゴールではなく、生活そのものを取り戻すことが大事。カウンセリングがそのきっかけになれたら、と思っています」

 睡眠不足の改善、スマホの使用制限、人とのつながりの回復など、「依存の原因となる環境」にアプローチすることで、結果的にポルノへの依存も薄れていく。

 中には、夫婦関係の破綻がきっかけで相談に訪れるケースもある。ポルノ視聴が原因で関係が冷え込み、セックスレスに陥るケースも少なくない。

「ポルノは手軽ですが、現実のパートナーとの関係は全く別物です。コミュニケーションを取り戻すことが回復の鍵になります」

 実際に、視聴を減らしながら夫婦関係を見直すことで、関係が改善した例もあるという。

 依存が進行すると、より刺激の強いコンテンツを求めるようになり、犯罪行為につながるリスクもある。石川さんのもとにも「盗撮に手を出してしまった」という相談が寄せられたこともあった。

 こうしたケースでは、医療機関の受診を含めた専門的な対応が必要になる。

 日本は世界有数のポルノ消費国でもあり、大手ポルノサイトの統計によれば、国別の視聴数ランキングで2位になったこともあった。スマホの普及により、子どもが簡単にアクセスできる環境になっていることも懸念材料だ。

 現状、日本には、ポルノ依存症に関する情報やデータがほとんど存在しない。

 アメリカの研究を参考にしながら活動している石川さんは、「問題はコンテンツそのものよりも、困っている人が相談できる場所が少ないことです」と強調する。

 ポルノ依存症は、特別な人だけの問題ではない。スマホ一つで誰もが陥る可能性がある身近な問題だ。

「やめたいのにやめられない」「生活に支障が出ている」と感じたとき、それは、見過ごしてはいけない“依存のサイン”かもしれない。

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