お見送り芸人しんいち、“ハッタリ”で仕事増 R-1バブル後も快進撃続けるワケ「僕はTVの犬」

2022年の『R-1グランプリ』優勝から数年。いわゆる“賞レース特需”が終わるとメディア露出が減る王者も少なくない中、お見送り芸人しんいちの快進撃は止まらない。バラエティー番組はもちろん、ラジオ、競輪やサッカー番組など多ジャンルで重宝され、スケジュールはパンパンだという。“令和のヒール芸人”は、いかにして激しい芸能界を生き抜いているのか。そこには「ハッタリ」と「パクり」を駆使する独自の処世術があった。

快進撃が止まらない『R-1』王者・お見送り芸人しんいち【写真:冨田味我】
快進撃が止まらない『R-1』王者・お見送り芸人しんいち【写真:冨田味我】

「うそめっちゃうまいんですよ~」とニヤリ

 2022年の『R-1グランプリ』優勝から数年。いわゆる“賞レース特需”が終わるとメディア露出が減る王者も少なくない中、お見送り芸人しんいちの快進撃は止まらない。バラエティー番組はもちろん、ラジオ、競輪やサッカー番組など多ジャンルで重宝され、スケジュールはパンパンだという。“令和のヒール芸人”は、いかにして激しい芸能界を生き抜いているのか。そこには「ハッタリ」と「パクり」を駆使する独自の処世術があった。(取材・文=島田将斗)

 22年の『R-1グランプリ』優勝から現在まで仕事は減っていくどころか、増えている。テレビ番組にラジオ番組、ネットニュースでしんいちの姿を見ない日はないほどだ。25年は「ホンマに休みがなくなった」と明かした。

「だいぶ忙しかったんですよ。外ロケ、過酷ロケ、ネタ番組、Jリーグ関係の仕事、スタジオ呼んでもらえたりですね。R-1優勝時のスケジュール帳を見直した時に、今の方が完全に仕事が増えているんですよね」

“優勝バブル”で終わるのではなく、数年越しに仕事の総量を増やしているのは異例とも言える。しぶとく番組に出演し続けるリアルな軌跡を、こう振り返った。

「優勝直後はお試しで使ってもらってましたよね。あの時は必死でやってました。23年は緩く手応えはなくやってましたね。24年から関係性ができて、いろんな現場でやりやすくなったんです。スタッフさんもそうやし、さらば(青春の光)さん、モグライダーさん、みなみかわさん、きしたかの、ちゃんぴおんず……、よう会う人たちと関係性ができて」

 少しずつ増えてきた仕事は25年に入ると激増に。単純な量にも加えて「質」も変化した。

「細かく言うと座る位置とかが分かりやすく変わりましたね。『あ、俺ここか!』と思う瞬間がめっちゃありました」

 これは、ひな壇の後ろの席から前に出てきたという意味ではない。距離で言えば、むしろMCから遠い場所を用意されたが、これは明確に“ポジション”を与えられたことを意味していた。

「遠いところに置かれて『大きい声で頼むで!』って。昔の藤本(敏史)さんみたいな。『俺そこなんや』って思いましたけど、うれしいですよね」

 視聴者が見る表の部分だけではなく、収録直前の番組スタッフとの打ち合わせもこの4年で変わってきた。

「22年、23年、24年、25年って徐々に時間が短くなっていくんですよ。打ち合わせって信頼があればあるほど短い。ホンマにできる人は打ち合わせなんてないぐらいですから。22年は『しんいちさん、こうこうこうでやってください』って説明が多かった。それは作り手の人も不安やしね。それが短くなってきているのを感じるんですよ」

 スタッフの信頼度が上がるのに比例して、収録前のガチガチな緊張も次第に消えていったという。

「最初はホンマに緊張しすぎて、何もしないで終わるみたいなことが大方。それはなくなって、いまは考える余裕ができましたね。例えば(日本テレビ系)『大悟の芸人領収書』だと、他の芸人さんがしゃべってる間に自分の引き出しを探す。『これ聞かれたらこれ言おう』とかですね。ラジオ『サクラバシ919』やってるからだと思いますね。いろんな情報が、しゃべりながら入ってくるので」

 当初は、“破天荒キャラ”から進行役まで番組で幅広い役割を担っている平成ノブシコブシの吉村崇のようになりたいと必死で戦ってきたが、最近ではまた別の感情が生まれている。

「吉村さんっぽくもないなって思うんですよね。いま僕ね、藤本さんと吉村さんをめっちゃ見るんですよ。2人のいいとこ取りをやっておけば、しんいちのオリジナルなんかなって。両方やばくて、一緒におったときに『これ勝てへんな』と思っちゃう。でも、時間をかけていけばやれそうな気もちょろっと出てきてはいるんです」

お見送り芸人しんいちは「ハッタリ」で戦ってきた【写真:冨田味我】
お見送り芸人しんいちは「ハッタリ」で戦ってきた【写真:冨田味我】

豊臣秀吉の一夜城戦略「見えるところだけハリボテで」

 新陳代謝の激しい芸能界。しんいちはバラエティー番組に競輪番組、ラジオ番組、コアなサッカー番組とさまざまなジャンルで活躍している。なぜここまで仕事をこなせるかと問うと、「うそめっちゃうまいんですよ~」と少年のような笑顔を見せる。

「ハッタリやないですけど、昔から人狼ゲームがめちゃ強かったです。小学校の時からで“ホンマ”みたいな顔ができるんです。まずはハッタリで1回目、2回目をなんとなく乗り切って、そこから次までに勉強する時間を作るんです」

 例に挙げたのは豊臣秀吉の一夜城だ。

「歴史詳しくないんですけど、秀吉がお城の側だけ作って裏では工事してたって話ありますよね。見えるところだけはりぼてで立てて、敵をビビらせる。この話がめっちゃ好きで、まさにそれなんです。いろんな番組に行って、ハッタリめっちゃかますんすよ。ほんで『バレんな』って思いながらここまで来てると思います(笑)」

 さらに「めっちゃ堂々と言いますけど、パクってますよ」と当然のように口にした。

「いろんな人のいいところをパクりながら生きてますねぇ。人の立ち振る舞い、顔をめっちゃまねしてます。『HEY!HEY!HEY!』の西川(貴教)さんがダウンタウンさんに噛みつくときのテンションとか……。歌番組で石橋貴明さんと中居(正広)くんにいじめられてる時のモーニング娘。飯田(圭織)さんの顔とか。ものすごくパクるんすよ、『これがおもろいんか』『これが喜ばれんのか』『これが抜かれんのか』って」

「めっちゃテレビっ子」だった。当時画面にかじりつくようにして見ていたやり取りをいまでも見る。

「平気で芸人だけじゃなくてアーティストからも取ります。歌番組出てる時の嵐の皆さんとか。大野(智)さんのふてくされたときの顔とか『なんやねん、このおもろい顔』って。自分も使えるなと思ってパクります(笑)」

 ずる賢い戦略だ。テレビに起用されているということは成功例でもある。「自分でもテレビの犬やなと思います。テレビが作った完全なるロボットになりたいです」と真面目な顔で語った。

 バラエティー番組でのしたたかな生存戦略。その独自の“武器”が現在、スポーツの現場で爆発的な効果を生んでいる。しんいちが大好きなサッカーの仕事だ。インターハイへの出場経験があることで知られるが、控えメンバー。「これもハッタリ」と笑う。

「芸人でいろんな人がサッカー選手に会いに行ってるじゃないですか。でも多分いま、僕が一番喜ばれてるんちゃうかなと。一発目に『わ、しんいちさんや!』って言われて、『水ダウのあの女の子とはどうなったんすか?』とか『電気イスってどんだけ痛いんすか』とか、選手の方から質問してくるんですよ」

 現在、Jリーグを含めたサッカー関連の仕事も急増している。J1からJ3まで全60クラブのハイライト映像を毎週チェックし、「おかげで寝る時間がなくなった」と笑うが、選手へのアプローチは他の誰とも異なっている。

「僕もプロやない。サッカーのプレーの解説なんて選手がすると思ったりして、めっちゃ悩んだんですよ。自分の強みって、この選手は『ドッキリ向きか』『スタジオ向きか』『ひな壇の何列目なのか』っていうバラエティーへの適性を言ってあげること。『あなた、あの電気イス1回やってください』とか、ファンを無視して平気で『ハニートラップ引っかかってみたいですか?』とか聞くから(笑)。そこを交えながらサッカーの話を聞くっていう意味では強いなと思ってますね」

 タブーを恐れない「テレビの犬」としての立ち回りは、結果としてファンが見たことのない選手の素顔を引き出し、チーム関係者からも絶賛されている。

「原大智選手をインタビューしたんですけど、広報さんからも『他のインタビューであんなに笑いながらしゃべることない。初めてです』って言ってもらったときは、『うわーうれしい!』と思いました」

「好感度はいらない」「どうせ消えるやろ」。そう強がりながらも、芸人という枠を飛び越え、唯一無二のポジションを築きつつある。その需要は「パクり」や「ハッタリ」と種明かしするが、裏には徹底した準備や勉強といったストイックな姿がある。しんいちが築き上げた“張りぼての城”は、今後も簡単には崩れなさそうだ。

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