ゆるキャラ人気、なぜ拡大? たれぱんだ、リラックマ、ちいかわ…時代を映す“かわいい”像

ぬいを連れて出かけ、写真を撮り、グッズを集め、ポップアップやコラボカフェに足を運ぶ。そんな楽しみ方は、もはや一部の熱心なファンだけのものではない。かわいいキャラクターを「眺める」だけでなく、自分の生活のなかで「推す」感覚が広く根づいたいま、まさにキャラクターが日常の中心に入り込む時代が訪れているといえるだろう。

 『リラックマ』のアニメが4月に放送開始となる【画像:(C)SAN-X / チームリラックマ】
『リラックマ』のアニメが4月に放送開始となる【画像:(C)SAN-X / チームリラックマ】

存在感を高める“ゆるキャラ”コンテンツ

 ぬいを連れて出かけ、写真を撮り、グッズを集め、ポップアップやコラボカフェに足を運ぶ。そんな楽しみ方は、もはや一部の熱心なファンだけのものではない。かわいいキャラクターを「眺める」だけでなく、自分の生活のなかで「推す」感覚が広く根づいたいま、まさにキャラクターが日常の中心に入り込む時代が訪れているといえるだろう。

 その現在地を象徴するようなニュースが、この春から夏にかけて相次いでいる。平成を代表する癒やし系キャラクター『リラックマ』は、4月4日から新作ショートアニメ『リラックマ ~ごゆるり夢の旅~』の放送が始まる。さらに7月24日には、X発の人気作品『ちいかわ』初の劇場版『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』が公開予定だ。平成リバイバルの流れを背景に、お茶犬やにゃんにゃんにゃんこ、たれぱんだ、さらにはナルミヤキャラクターズのような平成の人気者たちも、再び存在感を高めている。

 もちろん、日本におけるキャラクター人気そのものは今に始まったものではない。ハローキティをはじめとするサンリオキャラクターや、ポケモンのように作品世界から日常へと広がっていった存在が、長くその土台を築いてきた。ただ、平成後半以降の“かわいい”のあり方に目を向けると、そこには従来とは少し異なる流れが見えてくる。

 ここで注目したいのは、「かわいい」の前につく言葉、いわば「〇〇かわいい」の変化だ。平成以降、キャラクターに求められる“かわいさ”は一つの型に収まらず、少しずつ幅を広げていったのではないだろうか。

 その流れを考えるうえで、1990年代後半の『たまごっち』も見逃せない。1996年に発売された携帯型玩具『たまごっち』は、キャラクターを眺めるだけでなく、世話をして成長を見守るという関わり方を広く浸透させた。かわいい存在を手元に置くだけでなく、日常のなかで気にかける感覚を広げた点は、その後のキャラクター文化にも大きな影響を与えたのではないか。

 そのうえで印象的なのが、『たれぱんだ』や『リラックマ』に代表される「ゆるかわいい」「癒やし系」の広がりである。1998年に登場した『たれぱんだ』は、名前の通り、ただ“たれている”脱力感で多くの人の心をつかんだ。元気さや前向きさではなく、力の抜けた姿そのものが愛される。その感覚は、2003年登場の『リラックマ』にも通じているように思える。「ごゆるり」を合言葉に、頑張りすぎなくてもいい、だらだらしていてもいい。そんな空気をまとった存在は、忙しい日常のなかで人々の心をゆるめるキャラクターとして受け入れられていった。

 さらに、その後の“かわいい”は別の方向にも枝分かれしていく。2006年に登場した絵本『こびとづかん』は、奇妙な風貌のコビトたちによって、「キモかわいい」という感覚を広く印象づけた作品のひとつだろう。一見ぎょっとする見た目でも、なぜか惹かれてしまう。かわいさは、整っていることだけで決まるわけではない。そう感じさせる存在でもあった。

 続く2012年には、たれぱんだやリラックマと同じくサンエックスから『すみっコぐらし』が登場。寒がりで人見知りのしろくま、自分がペンギンかどうか自信のないぺんぎん?、食べ残されたとんかつ。

 少しネガティブで、どこか自信がない。けれど、だからこそ「わかる」と共感を集めた。「ゆるかわいい」が脱力に癒やしを見いだしたものだとすれば、『すみっコぐらし』は、弱さや後ろ向きさを抱えたままでも愛される“かわいい”を広げた存在だと言えそうだ。このあたりから、“かわいい”には癒やしだけでなく、共感のニュアンスも強く重なり始めていったように思う。

 そして近年、その傾向はいっそう明確になっている。

「ゆるかわいい」から「不憫かわいい」へ

 いま、言わずもがな世界的な広がりを見せているのが『ちいかわ』だ。小さく丸みのある造形は親しみやすいが、その魅力は見た目の愛らしさだけにとどまらない。ちいかわたちは草むしりで収入を得て、資格試験に挑み、ときに理不尽な出来事に直面しながら日々を生きている。どこか過酷さを含んだ世界のなかで、不安や失敗を抱えつつも暮らしを続けていく姿が、多くの人の共感を呼んでいる。

 2021年にストップモーションアニメとして登場し、SNSを通じて大きな広がりを見せた『PUI PUI モルカー』も、モルモットと車を掛け合わせたユニークなかわいらしさを持ちながら、渋滞に巻き込まれたり、ゾンビに襲われたりと、次々に災難に見舞われる。愛らしいビジュアルと過酷な状況の落差が笑いや愛着を生み、子ども向けの朝枠を超えて幅広い層に受け入れられた。

 SNS発で人気を広げた『おぱんちゅうさぎ』も、同じ流れのなかにある。一生懸命なのに空回りし、頑張っているのに報われない。泣き顔の印象が強いこのキャラクターに、自身の感情を重ねる人は少なくない。LINEスタンプを入口にグッズ展開やコラボへと広がっていった背景には、やはり“うまくいかなさ”への共感があるのだろう。

 こうして見ていくと、近年支持を集めるキャラクターには共通点があるように思える。ゆるさや愛らしさだけでなく、弱さや不安、不器用さを抱えながら懸命に日々を生きていること。その意味で、いま起きているのは「ゆるかわいい」から「不憫かわいい」への重心の移動だといえるのではないか。

 その背景には、SNS時代ならではの感覚がある。完璧で手の届かない存在よりも、少し失敗したり、思うようにいかなかったりする存在のほうがむしろ身近に映る。どこかしんどさを抱えながらも、それでも日常を続けている姿に、多くの人が自分の感情や生活を重ねているのではないだろうか。

 さらにSNSは、個人クリエイター発のキャラクターが広く届きやすい場でもある。企業発のキャラクターとは異なる、作り手の感覚や日常の延長にあるような存在が支持を集めやすくなったことも、現在のキャラクター像の広がりに影響しているのかもしれない。

 加えて、キャラクターとの関わり方そのものが変化したことも大きい。かつてキャラクターグッズは、手元に置き、所有すること自体に喜びを見いだす側面が強かった。けれど現在は冒頭でも触れたように、ぬいと一緒に出かけて写真を撮り、SNSに投稿するなど、キャラクターを日常のなかで能動的に“連れ歩く”楽しみ方が広がっている。つまり癒やしを与えてくれる存在であると同時に、不安や願い、いまの気分をそっと預けられる相手にもなっているのだ。

 元気で明るい存在に憧れる時代もあれば、少し不器用で、報われなさや弱さを抱えた存在に心を寄せたくなる時代もある。いま広く愛されているキャラクターたちは、かわいさのかたちが変わったことだけでなく、私たち自身がキャラクターに求めるものもまた変化してきたことを映しているのではないだろうか。

次のページへ (2/2) 【動画】アニメ『リラックマ』第1弾PV
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