生活保護なら体外受精が無料 外国籍の若者が最初から希望してくる現実 医師「やり切れない理不尽さ」
体外受精など高度生殖医療が保険適用となってから、4月で丸4年を迎える。子どもを望む夫婦にとって、経済的負担が軽減された一方で、現場では制度運用をめぐる新たなゆがみも浮上している。保険対象となったことで、生活保護受給者は無償で体外受精を受けられるようになった。この制度の在り方に、疑問を呈した医師に話を聞いた。

保険適用の体外受精、最前線の医師が指摘する課題
体外受精など高度生殖医療が保険適用となってから、4月で丸4年を迎える。子どもを望む夫婦にとって、経済的負担が軽減された一方で、現場では制度運用をめぐる新たなゆがみも浮上している。保険対象となったことで、生活保護受給者は無償で体外受精を受けられるようになった。この制度の在り方に、疑問を呈した医師に話を聞いた。
神奈川・藤沢市の不妊治療・産婦人科「メディカルパーク湘南」の田中雄大院長は2月7日、「外国籍の生活保護の方が体外受精を無料で行う現実」と題したブログを公開。この内容がネット上で、大きな議論を呼んだ。
田中院長は、「最近の傾向ですが、生活保護の外国籍の若い方が、最初から体外受精のみを希望してこられるパターンが頻繁にあります。まだ20代であるにも関わらず、です。まだタイミング療法も、人工受精もやっていないにも関わらず、です。多分、お友達などから聞いていて、生活保護は無料で治療を受けられる、という知識をお持ちなのだと思います」と指摘。
保険適用になっても一般患者は高額な医療費を払っている現状があるとし、「体外受精は、お金との戦いです。保険化されたとはいえ、それは今でも変わっていません。それを骨の髄まで知り尽くしているからこそ、こうした患者さんに出会うたび、やり切れない理不尽さを覚えます」と問題提起した。
2022年4月、不妊治療の保険適用が拡大され、それまで1回30万~70万円かかっていた体外受精が、3割負担で受けられるようになった。「若い世代が治療に踏み出しやすくなり、結果的に妊娠数が増えたのは明らかにプラスです」と田中院長は評価する。少子化対策の画期的な転換点とされ、若い世代の不妊治療へのハードルは確実に下がった。
一方、生活保護受給者は、医療費の窓口負担がゼロだ。つまり、これまで自由診療だった体外受精も保険適用により無料で受けられるようになった。そのこと自体は制度上の話だが、田中院長が問題視するのは、その運用の実態だ。
通常、不妊治療はタイミング療法、人工授精、体外受精という順に段階を踏む。体外受精は最終手段に近い高度な治療だ。保険適用とはいえ、一般患者にとって、体外受精に進むのは大きな決断を迫られる。特に若ければ、まずは費用も割安なタイミング療法や人工授精から治療を始めるのが現実的な選択肢になる。
ところが、一部のケースでは、外国籍の生活保護受給者が、体外受精を最初から希望。背景には、費用負担が生じない制度の影響があるとみられる。
「保険適用前は、そういう方は1人もいませんでした。無料で受けられると知っているからこそ、最初から求めてくるのだと思います」。通常の診察を経て治療を受ける外国人が大半で、特定の国籍で見られる傾向、とも付け加えた。
問題の核心は制度の構造 「正直者がバカを見る」政治の責任も
田中院長が強調するのは、外国人や生活保護受給者への批判ではない。問題の核心は、制度設計と、それを守ろうとする構造にあると主張する。
「生活保護受給者の医療費の窓口負担ゼロを廃止しようとすれば、最も強く抵抗するのは日本医師会です。生活保護受給者は自己負担がないため、開業医にとっては過剰な検査や投薬をしてもクレームになりにくい。ある意味、都合の良い患者さんになっています」
田中院長が日々、現場で感じているのは、とてつもない違和感だ。一般患者が不妊治療の過程の中でなんとか医療費を捻出しようとする姿を何度も目撃してきた。切羽詰まる状況が多々ある中で、いくら努力しても乗り越えられず、治療を断念する夫婦も多い。“生活保護であれば、すぐに体外受精を選択できる”という構図には、強い疑問を抱いているという。
「やり切れない理不尽さ」の真意について改めて聞いた。
田中院長は、「『正直者がバカを見る』ことに対する理不尽、その制度を自分たちの利益のために死守しようとする日本医師会の理不尽、そして、ちょっと考えれば、このようなことが必ず起こると想定できたはずなのに、保険適用化ありきで、穴だらけの制度設計に決めてしまった政治の理不尽」と説明。制度設計や政策判断の在り方について、国の責任にも言及した。
一部の外国籍の生活保護受給者が、最初から体外受精を受けるケースが相次いでいることについて、役所に対処法を問い合わせたこともある。担当者からは「断ってください」と言われた。しかし、「『市役所から、お断りするように言われましたので』と伝えて良いでしょうか」と重ねて聞くと、返答は濁った。
「単純に外国人が悪いのではありません。生活保護者の医療費をどうするのか、誰も真剣に議論しようとしないことに対して、やり切れなさを感じています」。その言葉の端々に、現場で積み重ねてきた葛藤がにじんだ。
制度の余波…43歳以上は費用対効果が見込めないのか?
一方で、制度には別のゆがみも感じている。体外受精への保険適用は、43歳未満であることが年齢の条件だが、そのことが患者にある変化を起こしているというのだ。
「43歳以上の方は激減しました。みんな諦めて行きました。私は、これも理不尽だと思います。みんな、サラリーマンは給料から天引きされて保険料を支払っているのです。にもかかわらず、国民皆保険のはずの、保険診療を受けられないなんて、あり得ないと思います」
厚労省は「妊娠率が低く、費用対効果が見込めない」と説明するが、田中院長はこう反論する。
「終末期医療で、意識不明の方が、人工呼吸器に何年もつながれるような治療がなぜ保険診療になるのでしょうか? この矛盾をどう説明するのでしょうか」
改善策として田中院長が提唱するのは、43歳以上の患者や制限を越えた多数回治療への「保険点数の減算」だ。点数を下げることで医療機関が無理に治療を勧めなくなり、医療費の削減にもつながるという。
生活保護受給者の医療費については、窓口負担を求めることは現実的ではないとしつつ、こう提案する。
「アメリカのチャリティーホスピタルのようなスタイルが解決策なのではないかと思います。生活保護の方は、自治体が指定した公的病院に集約して、そこで全て完結させるのです。そうすれば、税金を使った生活保護ビジネスは撲滅できます」
不妊治療の保険適用から丸4年。医療現場の最前線に立つ医師の言葉は、重く響いている。
あなたの“気になる”を教えてください